超有名歌い手の私は静かに暮らしたい

サラダ菜

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12.俺なりの決意【side獅童】

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放課後の教室で、俺は阿佐ヶ谷から呼び出しをくらっていた。
まあ、呼び出された理由はなんとなく見当がついている。

「単刀直入に言う。これ以上夏菜に近づかないで」

そう来ると思った。
いくら阿佐ヶ谷の目を欺いて夏菜と会っているとはいえ、俺自身が目立ちすぎてる。

駅前のタピオカ屋に二回、屋上での昼飯が一回。
夏菜を合計で三回連れ出した計算になる。
いずれコイツの耳にも入るだろうとは思っていた。

「お前には関係ない話だろ」

「夏菜はアンタに懐かれて困ってる」

「根拠は?」

「夏菜は目立つのが嫌いだ。いつも目立っているアンタとは対照的でね。アンタが隣にいるだけで夏菜は慌てふためいて困ってる。そんな場面を見かけなかった?」

「…」

何も言い返せなかった。
たしかに夏菜はいつも困ってたり慌てたりしてる印象がある。
それが面白くてついからかっていたが…

「それに、夏菜は『ラギ』なんだよ。ラギの知名度はアンタも知ってる通り。アンタの行動次第では夏菜だけではなくラギにも支障が出る。何百万といるラギのファンを悲しませる可能性もある」

畳みかけるように阿佐ヶ谷は話を続けた。

「夏菜のメンタルは強い方じゃない。アタシは夏菜に穏やかな学園生活を過ごしてほしいと思ってる。…少しでも夏菜のことを想うんだったら、これ以上関わらないでやって」

結局何も言い返せないまま阿佐ヶ谷は教室を出ていった。



柊夏菜。
いつも教室の隅っこにいる、俺とは一生関わりがなさそうなクラスメイト。
俺の最初の認識はそんなもんだった。

ある日、お気に入りの場所で寝っ転がっていると『ラギ』の生歌が聞こえてきた。
まさかクラスメイトの陰キャがラギだと気付いた時は少しビビったが、俺は美人にしか興味がない。
適当にあしらってやった。

だが陰キャなりに俺に噛みついてくる度胸は気に入った。
この俺とのキスを嫌そうにしてるのも面白い。

そしてキスしたときに気付いたが、前髪さえなんとかすれば意外とかわいい顔をしている。
しかもその女は『ラギ』ときた。
学校の女にも飽き飽きとしていた俺の興味は俄然夏菜に向いた。
半ば脅して何回か連れまわしたが、その度に夏菜への興味は膨らんでいく一方だった。

現役高校生のくせにタピオカを飲んだことがない。
昼飯に誘ってやれば肝心の弁当を教室に忘れてきて泣きそうになってやがる。
食い意地がすごくて、いつもオドオドしてるくせに飯のことになると俺にも歯向かってくる。
こんなにも色気がなくて、だけど一緒にいて面白い女は初めてだった。



軽くキスをしてやれば大抵の女は落ちた。
先輩も後輩も関係ない。
教師でさえ俺の手にかかれば造作もない。

だが、夏菜には俺のテクニックが全く通用しなかった。
おそらく「俺とタピオカどっちが好きか」と聞けば迷うことなく「タピオカ」と答えるだろう。

映画館、水族館、カラオケ…
連れてってやったら絶対面白い。
ホラー映画を見せて泣かせてもいいし、イルカショーを見て目を輝かせる夏菜を見るのも、まあ、悪くない。
カラオケで点数勝負をするのも面白そうだ。
俺も歌はうまい方だと自負してる。
あいつがあのラギだったとしても、点数で負けるつもりはない。

ちょっとからかってやるだけのつもりだった。
可愛い顔してたし、惚れてきたら適当にホテルに連れ込んでおしまいにしようと思ってた。
それが全然思い通りにいかなくてどうやって落とすか考えてたら、いつの間にか夏菜のことばっか考えるようになってた。

俺らしくないよな。

「終わりにしてやるか」

アイツのことを想って、とかそんなんじゃない。
あくまで俺は俺のために関係を終わらせるだけだ。

一人の女に執着するなんて俺らしくない。
アイツじゃなくても、女なんていくらでもいる。

RINEを開けば、女から大量のメッセージが来ていた。
重症だな。
返信すら忘れてるなんて。

ポチポチと返信を打ち始めたが、それもすぐに飽きてなんとなく動画サイトを開いた。
長いこと急上昇ランキングに乗っている夏菜の曲。
聞く気なんてさらさらなかったが、指が勝手に再生ボタンを押した。

凛として透き通った歌声が心地いい。
あのドジでいつもあたふたしてる夏菜と、この動画の投稿主が同一人物だとは未だに信じがたい。

結局最後まで聞き入ってしまった。
なんかむかついたからスマホを放り投げて、ベッドに顔をうずめた。

「あーくそっ」

アイツの方から接触してくるなんて天地がひっくり返ってもありえない。
それも全部承知の上で、俺はアイツとの関わりを断とうとしてる。

「まあ、いいけどな」

俺は自分を納得させるようにそう呟いた。
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