超有名歌い手の私は静かに暮らしたい

サラダ菜

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16.史上最大の危機

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目の前では、犬猿の仲であるはずの唯と湊くんが一つの机を覗きこんで神妙な顔つきをしている。
その横で私と八神くんはしょんぼりと座り込んでいた。

彼らが見つめているのは、私たちの中間テスト結果。

「数Bが5点…物理は13点か…きついなこれは…」

「そっちは理系だからまだ何とかなるはず。けど現代文が10点なんて…どうやったらこんな結果になるの…」

「「ごめんなさい…」」

私は勉強全般苦手だけど、特に数学と理科が苦手だ。
方式?を覚えるのも一苦労だし、その方式とやらを問題に当てはめるのはもっと苦手だ。

反対に八神くんは文系科目が苦手らしい。
いつもはふわふわ笑っているけど今日ばかりは反省してるみたい。

「お前ら分かってんのか?期末でもこの成績だったら夏休みは補習漬けだって」

「いやだよおー!!でも、でも勉強できないんだもん!ね、夏菜ちゃん!」

「え、あ、はい」

八神くんに同意を求められ思わず頷く。
私だって毎日補習は嫌だ。
できることなら歌の投稿頻度も上げたいし、みんなとも遊びたい。
でも、家でノートを読み返しても、参考書を買ってみても、自分の小さい脳みそでは理解できないところまで来ていた。

「期末テストまで残り二週間だろ」

「解答用紙を見たけど、中間テストでは二人とも選択問題で点を稼いでた。ということは、おそらく基礎から抜け落ちている可能性が高い…」

「…素直に補習受けた方が早いんじゃねえか?」

「「やだ!!」」

「…ハァ。おい阿佐ヶ谷、お前も手伝えよ」

「アタシ、数学とか教えられるほど頭良くないよ」

「俺はいける。俺が夏菜の理系科目を担当するから、阿佐ヶ谷は大地の文系科目を担当しろよ」

「………」

「大地の子守は嫌なのはわかるけど、夏菜の成績をどうにかできるのは俺だけだぜ」

「仕方ない…」

私の八神くんの処遇を巡って二人は何やら取引を交わしているらしい。
絶体絶命の私たちは子犬のように震えながら二人に従うしかない。

「今日から放課後毎日俺んち集合な。…正直今日からしこたま勉強しても赤点回避できるかどうかわかんねえ。お前らの頑張り次第だ」

「…バイト休む連絡入れとく」

「湊くん、唯…迷惑かけてごめんね…」

「ごめんねえ?」

「八神からは指導代として一日3000円もらうから」

「唯ちゃん勘弁してよお!!」



「大地ぃ、わざわざそんな奴らと勉強することないってぇ」

ねっとりとした声。
後ろを振り返ると、いつも湊くんや八神くんと一緒にいるギャル達の姿があった。
「そんな奴ら」とは唯や自分のことだろうか…

「前までうちらとテス勉してたじゃん!」

「あたし数B赤点だったんだよねぇ…湊、教えてよぉ」

彼女たちは短いスカートをひらひらと揺らしながら湊くんと八神くんに近づく。
一番化粧が濃くて、リーダー格のような女子が湊くんの腕をするりと掴まえた。
湊くんが下を向けば、彼女の開いた胸元から谷間が見えるだろう。

「悪いけど、今回はお前らとは勉強できねえ」

「えー!?なんでぇー?」

女の子がぎゅうぎゅうと胸を押し付けて湊くんに抗議している。
その光景が直視できなくて思わず目をそらした。

「なんでも。おら、いくぞ」

「湊つめたぁい」

「ちょっと待ってよ花音かのん!」

湊くんは腕に花音と呼ばれた女子をくっつけたまま、私たちの席を離れていってしまった。
他のギャル達もあとに続いてパタパタと走っていく。

八神くんは眉尻を下げて困ったような表情をしながら、私たちに耳打ちをしてきた。

「二人ともいやな思いさせてごめんねえ。アイツらも悪いやつじゃないんだけど、口が悪いから…じゃあ、また後で」

八神くんはひらひらと右手を振りながら彼女たちについていった。
ふぅ、とため息をついて、自分の手が震えていることに気づいた。

「夏菜、獅童と関わるってこういうことだよ」

「…うん」

「今日だけじゃない、今後もアイツらに絡まれる可能性はある。今までみたいに静かに学校生活を送るのは難しいよ。それでも獅童と一緒にいたいの?」

唯ちゃんの言うことは全部正しい。
私は彼女たちに囲まれて「怖い」と感じた。
湊くんが彼女たちを連れていってくれたときは心の底からほっとした。

私は選択を間違えたのかな。
そんな弱気なことを考えて、すぐに頭を振って否定する。
湊くんも唯も八神くんも巻き込んでまで自分が望んだことなのに、そんなこと考えちゃダメだ。

そう思うのに、さっきの花音と呼ばれていた女子の鋭い視線が頭から離れない。

アンタみたいな陰キャがなんで湊と一緒にいるの?
不相応にもほどがあるでしょ

あの目からそんな蔑みが伝わってきた。

湊くんと一緒にいたい。
だけどそうすることで不快になる人もいる。
唯や八神くんにも気を遣わせることになる。
多くの人を犠牲にしてまで、私は湊くんと一緒にいてもいいのかな。

結局唯には明確な返事ができないまま、放課後を迎えた。
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