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4.5(ライナス視点)
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国でも有数の栄華を誇る貴族家、コルドヘイム伯爵家の次男として生まれた俺は、この世に生を受けてからと言うもの、女性に困ったことがない。
天界から舞い降りた天使と見紛うほどに(自分で言うもんじゃないが)丹精な顔立ちの赤子を生み落とした母は、それはそれは俺のことを寵愛した。屋敷内を歩けばメイド達に持て囃され、魔術学校へ通い出してからは同級生の女児達は己の拳をもって俺の奪い合いをする。自分は他人より容姿が優れていることに幼いながらに気付くのに、そう時間はかからなかった。
ついでと言っちゃなんだが、俺は魔法の才にも恵まれていた。
この世界に存在する「魔法」というツールは、自身の体内から生まれ、蓄積される生命エネルギーである魔力を、空気中に揺蕩う微細な自然エネルギーに作用させて、発動する。
魔力量は遺伝し、代々コルドヘイム家は魔力を生成できる量が膨大で、自分も例によって発動する魔法の威力が甚大であった。が、どうやらコルドヘイム家内においても、さらには国、大陸全土においても、俺の魔力量は稀なようで、気付けばあれよあれよという間に俺は王宮に召し抱えられ、大陸随一の魔術師になっていた。あれよあれよの中には、紛争地の平定へ加勢した際に戦果を上げたりだとか、戦場で多数の瀕死の負傷兵を救ったりだとか、勿論実績ありきでの登用ではあるのだが。
嫡男に生まれなかった時点でコルドヘイム家の実権を握れないことに、一時は絶望したものの、政の方に携わる父や、兄に仄暗い視線を向けられる程には、俺は若くして王国中枢の重要職に就いていた。
詰まるところ誰もが羨む、超エリート中のエリート。女性が寄って来ないわけがない。
城下町で可愛いと有名な酒場のウェイトレスも、劇場の看板女優も、あちこちの貴族の眉目秀麗なお嬢さん方も、みんな俺のこの顔と、魔法の才に夢中だった。
特定の相手を作らないなんてとか、恋人関係に無い女性を相手に夜を共にするなんてとか、非難の声を浴びることもあるが、むしろ何故皆もっと遊ばないのかと思う。
だって、いずれ特定の相手と添い遂げるのであれば、多くの女性を知ることができるのは今のうちじゃないか。俺のような、ゆくゆくはお家のために、好きでもないどこか条件の良い貴族家の姫君と、自分の意思とは関係無く婚姻を結ばされるような貴族家のやつなんて特にそうだ。経験値を積みつつ、残された自由時間を謳歌して何が悪い。
自由恋愛が許された平民もまた然りだ。体の相性なんて、婚姻を結んでから確認しては遅いのに。
その後やっぱり何か違ったとなってしまった場合、一体どうするつもりなんだろうな。
そんな世の女性に反感を買うであろうことを、考えていた罰が当たったのかもしれない。
「嘘だろ……」
今日も今日とて、ベッドの上で愛らしい女性を組み敷いていたのだが、そこそこに盛り上がったところで、体の異変に気付いた。
「ライナス様、調子悪い?」
「あ、いや~そうだな……。いつもはこんなことはないんだけど。ははっ」
己の分身が、うんともすんとも言わない。
本日のお相手の女性の体を見ても、息子はふにゃふにゃしゅんとしており、実際気持ちの昂りも感じられず、びっくりするほど心は凪いでいる。
「……なんか調子悪いみたいだ。ごめんね、今日はもう帰るわ」
「え~そんなぁ」
「ほんとごめん! また会えたらその時ね」
こんな調子の日が何度も続き、いよいよ生殖器の病かと疑いたくなるところだが、正直めちゃくちゃに他に心当たりがあった。
心当たりはあったが、どうにもそれを受け入れることができず、俺は出来得る限りの抵抗を試みることにした。
昨夜はこの町の酒場で一等エロい体をしている人気の嬢を口説き、約束を取り付けてから不本意ながらも精力剤の調達に向かった。露天の薬屋でアッシュ達に妨害されつつもなんとか手に入れた俺は、彼女との夜の戦いに挑んだのであった。
「ーーおはよー、ライナス。今日も朝帰り?」
麗らかな朝の日が差し込む宿屋の共有洗面所で歯を磨いていたところ、同じく起きてきたらしいルーナがやって来た。
至極不服そうな顔で振り返った俺の顔を見て、彼女の顔も引き攣った。
「……じゃ、なさそうね。そうよね、ライナスが朝帰りだったら、こんなに朝早く起きてくる訳ないもの」
「ひどい言いようだな」
口を濯ぎ、首に掛けていたタオルで口を拭う。
昨夜もまた、精力剤をもってしても俺の息子は起床する事はなく、疲労を理由にそそくさと日が昇る前に俺は宿屋に帰宅した。情けないったらありゃしない。
いい加減、認めるしか無いのだろうか……
隣の洗面台に歩み寄って来たルーナを横目に見やると、相変わらず煽情的な服装をしている。
胸元を強調したタンクトップのトップスに、ショートパンツからは剥き出しの白く程よい肉付きの長い脚が伸びている。これで俺がうっかり体に触れようものなら、勇者クオリティの拳が飛んで来るのだから、とんでもないトラップである。
隣で歯を磨いているルーナは、100人に聞いたら、100人と噂を聞いたそれ以上の数多の人々が絶世の美女だと答えるであろうほどに、とんでもない器量良しだ。数々の女性と遊んできた俺も、ここまで現実離れした綺麗な女性は見たことがない。
初めて彼女を見た時は面食らったが、不思議と彼女に性的な魅力は感じなかった。いや勿論、女性としてとても魅力的な人物だとは思うが……
色んな女性と遊び過ぎて、審美眼が麻痺してきたのかもしれない。
「あ、アッシュおはよ」
「!」
ルーナの声に振り返ると、綺麗な黄金色の髪を爆発させたアッシュが佇んでいた。
「おはよー」
「あなた寝癖すごいわよ。どんな寝方したらそんなことになるの」
「ん、癖毛なんだよね。いやはや恥ずかし」
寝惚けているのか、覚束ない足取りでルーナとは反対側の俺の隣の洗面台にアッシュが位置取る。
いやほんと、どんな寝癖してやがるんだ。薬品の実験でも失敗したかのように、重力に逆らって毛先が四方八方に大暴れしている。
髪と同じ黄金色の長い睫毛に縁取られた、空色の澄んだ瞳がこちらを向き、思わず肩が跳ねた。
「おはよ」
「お、おはよう……」
「ずいぶん早起きだね、珍しい」
「まあな。そういう日もあるさ」
「寝坊したら荷物全部持たせてやろうとヴェインと企んでたのに、ざんねん」
「お前らそんな話してたのかよ……」
悪戯っぽくほくそ笑むと、むにゅっと歯磨き剤をブラシに押し出し、窓の外へ視線を戻しながら、アッシュは歯を磨き始めた。呑気に鼻歌なんて歌ってやがるこの男に、ただでさえ気乗りしなかったこの旅を更に味気ない物にされ掛けている現状を受け入れ切れず、俺は誰にも気付かれないよう嘆息した。
遡る事約1ヶ月半ほど前、昨今異様に増え続けている魔物を討伐する特命任務を王より言い渡され、俺は一時宮廷魔術師を休職することとなった。
なんでも、辺境の村にいた娘が、最近発見された宝物の聖剣を、唯一扱いこなせることが分かったらしく、彼女の護衛を兼ねて選りすぐりの戦士達が招集されたそうだ。
正直、聖剣なんて迷信めいたもの興味は無かったし、王宮での快適な生活から一転、野宿や各地の宿を転々とするアウトドアライフに転じるのは、全くもって気乗りしなかった。ま、王命のため、断ることなんて不可能なのだけれど。
件の勇者のお嬢さんは噂に違わぬ、いやそれ以上の美女であったが、仲間内で色恋沙汰で揉め事を起こしたくはないので、手を出す気は更々無かった。グループ内での男女間のいざこざは血を見ることを、これまでの経験で痛いほど学んできたのだ。己の欲求により、王命を全うできなかったなんて結果、御免被りたい。
他の仲間達は男2人であったし、俺が行く先々で他所に羽を伸ばしに行く事もご理解いただけるだろう。いやまあ、アッシュは初見少女と見違え掛けたが……いくら顔立ちが整った、中性的な容姿であろうと、野郎は野郎だ。
加えて体を休めるにも、野宿の際は硬い地面に横たわり、用を足す時は野ションベン、今日のように町や村に宿泊できたとしても、辺境の宿屋の殆どは共同トイレに共同洗面所、薄い壁に狭いベッドがお決まりだ。王宮内の役職者用の個室に設けられたバスフロアと、天蓋付きのベッドとは比べ物にならず、自室が恋しくてたまらない。
そんな毎日に、女体の癒しを求めずして、何で癒されろと言うのだろう。
そんな女性からの癒しも、この目の前で鼻歌を歌う女みたいな顔をした男により、今まさに絶たれようとしている。
『ーーあっァ、だめ、…っ、きもちッッ……うぅっ……らいなすっ、見ないでぇっ』
ガンッ
「わっ! びっくりした。どしたの、ライナス。いきなり鏡に頭ぶつけて」
「まだ寝惚けてるのかしらね」
先日のゴブリン討伐の際の、森の中でのアッシュの様子がフラッシュバックし、思わず目の前の鏡に強かに頭を打ち付けた。
そう。俺はあの日のアッシュの様子が、どうにも忘れられなかった。……いや、白状すると、興奮していた。とてつもなく。
これまで出会ったどの女性との情交と比較しても、あんな感覚初めてだった。
前もって断言するが、俺にそっちの気は微塵もない。無いのに、あの時俺の胸にしがみ付きながら快感に身悶えしていたアッシュの動きが、女のように甘ったるい嬌声が、真っ赤に染まった頬が、俺を見つめる潤んだ空色の瞳が、脳裏から離れない。
そればかりか、どれだけ美しく、エロい体をした女性と体を重ねても、自分がその気になろうと己の気持ちを奮い立たせても、肝心の息子の方は勃ち上がってはくれないのに、あの日の彼の乱れた姿を思い出すと、恐ろしい事に元気いっぱいになりやがるのだ。
「おーい? ライナス? 僕達もう部屋に戻るよ?」
『ーーあぁあだめぇっ…! ぐちゅぐちゅしちゃやぁあッ』
「~~~~ッ!」
つんつんと、脇腹を指で突いて来るアッシュを見下ろすと、再びアッシュの痴態が脳裏に蘇り、瞬間下半身に血液が集中するのを感じて俺はすかさずその場に蹲った。
「え、ちょっとライナス、大丈ーーぶッ!?」
慌てて駆け寄ってきたらしい、アッシュが股間の膨らみに気付いてくれる前に、両頬を両手の指で軽く摘み、こねこねと捏ねてやった。
「んっ、んむッ…ふっ、らいなふ?」
「……あー、だいじょうぶだいじょうぶ。ちょっと寝惚けてたけど、お前の面白い顔見たら正気に戻ってきたわ、うん」
くそ、こんな爆発頭の小僧に、なんて屈辱だ。
……とにかく、このままこいつ以外に反応しなくなっては、俺の将来に関わる。
なんとか打開策を練らねばと、アッシュの柔らかいほっぺを弄びながら、下半身の熱が冷めるのを待った。
天界から舞い降りた天使と見紛うほどに(自分で言うもんじゃないが)丹精な顔立ちの赤子を生み落とした母は、それはそれは俺のことを寵愛した。屋敷内を歩けばメイド達に持て囃され、魔術学校へ通い出してからは同級生の女児達は己の拳をもって俺の奪い合いをする。自分は他人より容姿が優れていることに幼いながらに気付くのに、そう時間はかからなかった。
ついでと言っちゃなんだが、俺は魔法の才にも恵まれていた。
この世界に存在する「魔法」というツールは、自身の体内から生まれ、蓄積される生命エネルギーである魔力を、空気中に揺蕩う微細な自然エネルギーに作用させて、発動する。
魔力量は遺伝し、代々コルドヘイム家は魔力を生成できる量が膨大で、自分も例によって発動する魔法の威力が甚大であった。が、どうやらコルドヘイム家内においても、さらには国、大陸全土においても、俺の魔力量は稀なようで、気付けばあれよあれよという間に俺は王宮に召し抱えられ、大陸随一の魔術師になっていた。あれよあれよの中には、紛争地の平定へ加勢した際に戦果を上げたりだとか、戦場で多数の瀕死の負傷兵を救ったりだとか、勿論実績ありきでの登用ではあるのだが。
嫡男に生まれなかった時点でコルドヘイム家の実権を握れないことに、一時は絶望したものの、政の方に携わる父や、兄に仄暗い視線を向けられる程には、俺は若くして王国中枢の重要職に就いていた。
詰まるところ誰もが羨む、超エリート中のエリート。女性が寄って来ないわけがない。
城下町で可愛いと有名な酒場のウェイトレスも、劇場の看板女優も、あちこちの貴族の眉目秀麗なお嬢さん方も、みんな俺のこの顔と、魔法の才に夢中だった。
特定の相手を作らないなんてとか、恋人関係に無い女性を相手に夜を共にするなんてとか、非難の声を浴びることもあるが、むしろ何故皆もっと遊ばないのかと思う。
だって、いずれ特定の相手と添い遂げるのであれば、多くの女性を知ることができるのは今のうちじゃないか。俺のような、ゆくゆくはお家のために、好きでもないどこか条件の良い貴族家の姫君と、自分の意思とは関係無く婚姻を結ばされるような貴族家のやつなんて特にそうだ。経験値を積みつつ、残された自由時間を謳歌して何が悪い。
自由恋愛が許された平民もまた然りだ。体の相性なんて、婚姻を結んでから確認しては遅いのに。
その後やっぱり何か違ったとなってしまった場合、一体どうするつもりなんだろうな。
そんな世の女性に反感を買うであろうことを、考えていた罰が当たったのかもしれない。
「嘘だろ……」
今日も今日とて、ベッドの上で愛らしい女性を組み敷いていたのだが、そこそこに盛り上がったところで、体の異変に気付いた。
「ライナス様、調子悪い?」
「あ、いや~そうだな……。いつもはこんなことはないんだけど。ははっ」
己の分身が、うんともすんとも言わない。
本日のお相手の女性の体を見ても、息子はふにゃふにゃしゅんとしており、実際気持ちの昂りも感じられず、びっくりするほど心は凪いでいる。
「……なんか調子悪いみたいだ。ごめんね、今日はもう帰るわ」
「え~そんなぁ」
「ほんとごめん! また会えたらその時ね」
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心当たりはあったが、どうにもそれを受け入れることができず、俺は出来得る限りの抵抗を試みることにした。
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「ーーおはよー、ライナス。今日も朝帰り?」
麗らかな朝の日が差し込む宿屋の共有洗面所で歯を磨いていたところ、同じく起きてきたらしいルーナがやって来た。
至極不服そうな顔で振り返った俺の顔を見て、彼女の顔も引き攣った。
「……じゃ、なさそうね。そうよね、ライナスが朝帰りだったら、こんなに朝早く起きてくる訳ないもの」
「ひどい言いようだな」
口を濯ぎ、首に掛けていたタオルで口を拭う。
昨夜もまた、精力剤をもってしても俺の息子は起床する事はなく、疲労を理由にそそくさと日が昇る前に俺は宿屋に帰宅した。情けないったらありゃしない。
いい加減、認めるしか無いのだろうか……
隣の洗面台に歩み寄って来たルーナを横目に見やると、相変わらず煽情的な服装をしている。
胸元を強調したタンクトップのトップスに、ショートパンツからは剥き出しの白く程よい肉付きの長い脚が伸びている。これで俺がうっかり体に触れようものなら、勇者クオリティの拳が飛んで来るのだから、とんでもないトラップである。
隣で歯を磨いているルーナは、100人に聞いたら、100人と噂を聞いたそれ以上の数多の人々が絶世の美女だと答えるであろうほどに、とんでもない器量良しだ。数々の女性と遊んできた俺も、ここまで現実離れした綺麗な女性は見たことがない。
初めて彼女を見た時は面食らったが、不思議と彼女に性的な魅力は感じなかった。いや勿論、女性としてとても魅力的な人物だとは思うが……
色んな女性と遊び過ぎて、審美眼が麻痺してきたのかもしれない。
「あ、アッシュおはよ」
「!」
ルーナの声に振り返ると、綺麗な黄金色の髪を爆発させたアッシュが佇んでいた。
「おはよー」
「あなた寝癖すごいわよ。どんな寝方したらそんなことになるの」
「ん、癖毛なんだよね。いやはや恥ずかし」
寝惚けているのか、覚束ない足取りでルーナとは反対側の俺の隣の洗面台にアッシュが位置取る。
いやほんと、どんな寝癖してやがるんだ。薬品の実験でも失敗したかのように、重力に逆らって毛先が四方八方に大暴れしている。
髪と同じ黄金色の長い睫毛に縁取られた、空色の澄んだ瞳がこちらを向き、思わず肩が跳ねた。
「おはよ」
「お、おはよう……」
「ずいぶん早起きだね、珍しい」
「まあな。そういう日もあるさ」
「寝坊したら荷物全部持たせてやろうとヴェインと企んでたのに、ざんねん」
「お前らそんな話してたのかよ……」
悪戯っぽくほくそ笑むと、むにゅっと歯磨き剤をブラシに押し出し、窓の外へ視線を戻しながら、アッシュは歯を磨き始めた。呑気に鼻歌なんて歌ってやがるこの男に、ただでさえ気乗りしなかったこの旅を更に味気ない物にされ掛けている現状を受け入れ切れず、俺は誰にも気付かれないよう嘆息した。
遡る事約1ヶ月半ほど前、昨今異様に増え続けている魔物を討伐する特命任務を王より言い渡され、俺は一時宮廷魔術師を休職することとなった。
なんでも、辺境の村にいた娘が、最近発見された宝物の聖剣を、唯一扱いこなせることが分かったらしく、彼女の護衛を兼ねて選りすぐりの戦士達が招集されたそうだ。
正直、聖剣なんて迷信めいたもの興味は無かったし、王宮での快適な生活から一転、野宿や各地の宿を転々とするアウトドアライフに転じるのは、全くもって気乗りしなかった。ま、王命のため、断ることなんて不可能なのだけれど。
件の勇者のお嬢さんは噂に違わぬ、いやそれ以上の美女であったが、仲間内で色恋沙汰で揉め事を起こしたくはないので、手を出す気は更々無かった。グループ内での男女間のいざこざは血を見ることを、これまでの経験で痛いほど学んできたのだ。己の欲求により、王命を全うできなかったなんて結果、御免被りたい。
他の仲間達は男2人であったし、俺が行く先々で他所に羽を伸ばしに行く事もご理解いただけるだろう。いやまあ、アッシュは初見少女と見違え掛けたが……いくら顔立ちが整った、中性的な容姿であろうと、野郎は野郎だ。
加えて体を休めるにも、野宿の際は硬い地面に横たわり、用を足す時は野ションベン、今日のように町や村に宿泊できたとしても、辺境の宿屋の殆どは共同トイレに共同洗面所、薄い壁に狭いベッドがお決まりだ。王宮内の役職者用の個室に設けられたバスフロアと、天蓋付きのベッドとは比べ物にならず、自室が恋しくてたまらない。
そんな毎日に、女体の癒しを求めずして、何で癒されろと言うのだろう。
そんな女性からの癒しも、この目の前で鼻歌を歌う女みたいな顔をした男により、今まさに絶たれようとしている。
『ーーあっァ、だめ、…っ、きもちッッ……うぅっ……らいなすっ、見ないでぇっ』
ガンッ
「わっ! びっくりした。どしたの、ライナス。いきなり鏡に頭ぶつけて」
「まだ寝惚けてるのかしらね」
先日のゴブリン討伐の際の、森の中でのアッシュの様子がフラッシュバックし、思わず目の前の鏡に強かに頭を打ち付けた。
そう。俺はあの日のアッシュの様子が、どうにも忘れられなかった。……いや、白状すると、興奮していた。とてつもなく。
これまで出会ったどの女性との情交と比較しても、あんな感覚初めてだった。
前もって断言するが、俺にそっちの気は微塵もない。無いのに、あの時俺の胸にしがみ付きながら快感に身悶えしていたアッシュの動きが、女のように甘ったるい嬌声が、真っ赤に染まった頬が、俺を見つめる潤んだ空色の瞳が、脳裏から離れない。
そればかりか、どれだけ美しく、エロい体をした女性と体を重ねても、自分がその気になろうと己の気持ちを奮い立たせても、肝心の息子の方は勃ち上がってはくれないのに、あの日の彼の乱れた姿を思い出すと、恐ろしい事に元気いっぱいになりやがるのだ。
「おーい? ライナス? 僕達もう部屋に戻るよ?」
『ーーあぁあだめぇっ…! ぐちゅぐちゅしちゃやぁあッ』
「~~~~ッ!」
つんつんと、脇腹を指で突いて来るアッシュを見下ろすと、再びアッシュの痴態が脳裏に蘇り、瞬間下半身に血液が集中するのを感じて俺はすかさずその場に蹲った。
「え、ちょっとライナス、大丈ーーぶッ!?」
慌てて駆け寄ってきたらしい、アッシュが股間の膨らみに気付いてくれる前に、両頬を両手の指で軽く摘み、こねこねと捏ねてやった。
「んっ、んむッ…ふっ、らいなふ?」
「……あー、だいじょうぶだいじょうぶ。ちょっと寝惚けてたけど、お前の面白い顔見たら正気に戻ってきたわ、うん」
くそ、こんな爆発頭の小僧に、なんて屈辱だ。
……とにかく、このままこいつ以外に反応しなくなっては、俺の将来に関わる。
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