攻略対象である兄が逃亡したので兄のフリをして勇者一行の旅に参加しています

小村辰馬

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「ライナスはどっちのベッドにするー? 僕奥側でも良い?」
「おーおーどっちでも良いさ。好きにしてくれ」

備え付けの椅子に座り、宙を仰ぎながらライナスはひらひらと適当に手を振った。
狭い部屋の奥側のベッドに腰掛け、荷物をベッドの脇に置く。
ヴェインの強運に敗北した私とライナスは同室になった訳だが、そんなにも残念そうにされるのも不服である。
私だってうら若き乙女だ。女性関係にだらしがないライナスと同じ部屋なんて、身の危険しか感じないので御免被りたい。まあ、私を男と思ってくれているのならその心配は無いのだけれど……。

荷物の整理をしながら、ライナスを盗み見る。
魔術書に視線を落とすライナスの横顔は相変わらず憎らしいほど端正で、嗚呼やはりこの人はゲームの世界の登場人物なのだなぁと再認識する。睫毛は長いのにすっと通った鼻梁は精悍で、清潔感のある、綺麗な顔をしているけれど男らしさも感じる美形である。
私の熱い眼差しに気付いたのか、ライナスと視線がかち合った。
途端、何故か苦虫を噛み潰したような変な顔をされたが、すぐにいつも通りの飄々とした表情に戻った。

「なんだよ。俺の顔が美しすぎて見惚れていたのか?」
「うん。綺麗な顔してるな~ってしみじみしてた」
「んん゛っ」

またもや何かを喉に詰まらせたような変な顔をされた。忙しい人だな。
ほんのり頬が赤い気がするのは、もしや照れているのか。顔が綺麗だなんて言われ慣れているだろうに、可愛いところもあるもんだな。

「……お前、ほんと天然たらしだよな。末恐ろしい奴め……故郷では実はかなり遊んでいたとか?」
「そう見える?」
「質問に質問で返すところもなぁ。……なんていうか、懐に入るのが上手いんだよな。天性のものなんだろうが」

褒められているのだろうか。
腑に落ちないが、賛辞として受け取っておこうと思う。

「それよか、たらしはライナスの方でしょ。最近どうしたの。めっきり女遊びしなくなっちゃって」
「またその話か。……いいだろもう、そういう時期なんだって! お前も男なら分かるだろ。なんかこう、むらつく時と、そうじゃない時の波があんのも」
「! ……、そりゃ、まあ、そうだね。うん、なるほど……」

男じゃないから分からんが、女にもそういう周期はあるのは分かるので、知ったか顔で頷いておく。
旅に出てからは、専らアクシデントに巻き込まれ無理矢理気持ち良くさせられてしまっているが……。
えっちなイベントに晒されているところをライナスに何度も目撃されたことを思い出し、顔に熱が集まるのを感じた。

「お前さ、もしかして童貞?」
「なっ……! ……いきなり何言い出すんだよ」
「いや、反応が初心だったからなんとなく。……あ、でも後ろの方はもう開通済みだったな」
「っ!」

ぼそり、と、何となしに呟かれた言葉に、私は顔面の血液が沸き立つのを感じた。
開通済み、というのは、以前の海鼠魔物の一件でのことを言っているに違いない。
いや実際には後ろの穴は今世において未開通なのだけれど、ぐちゅぐちゅされまくっていた私の様子を至近距離で見ていた彼が、お尻の穴を犯されていたと勘違いするのも無理は無い。
ここで弁明するのも危ない気がするので否定せずにいたら、なんだか気まずい空気になってしまった。

「え、ええと、その節はお見苦しい姿をお見せしまして……いや、その節以外も色々あったんだけれど……」
「や、いやいや、……こちらこそ、見られたくないだろう状況ばかり、何故か目撃してごめんというか……」
「そんなこと! ……ライナスが来なかったらもっと酷いことになっていただろうし……むしろ来てくれてありがとうございますというか」
「「……」」

各所で私の痴態を目撃して、顔を真っ赤にして硬直していたライナスの様子が蘇り、目の前のライナスと表情が重なると途端に、恥ずかしくてたまらなくなった。
ライナスも居た堪れないのか、視線を逸らし、何やら口篭っている。
ななななんだ、この、むず痒い空気は……っ!

「わ、……僕ってやっぱり駄目だよね。またライナスに心配かけて、魔物にもあんな好きにされて……」

照れを誤魔化すように、この間の話の続きを思わず持ち出し、わははと笑って頭を掻く。

「ライナスは役立ってるって言ってくれたけど、実際ああやってライナスに迷惑かけちゃってたし……それに……あいてっ」

額に軽い衝撃が当たり、思わず両手で押さえる。
ライナスを見やると、彼は私に向かって片手を翳しており。数秒遅れて、彼にデコピンされたことに気付いた。

「お前のそういう自分を卑下するの、悪い癖だぞ」
「ご、ごめん……」
「お気楽なのがお前の一番いいところなんだからさ。戦闘とか、支援とか抜きにしても、俺はお前がいて助かってんの。あの石頭のヴェインと、我儘娘のルーナと3人旅だったらと思うとゾッとするよ」

ライナスは視線を逸らすと、再びこちらを横目で見やった。

「……つまり、ええと……いい感じに気の抜けて、ウマが合うお前がいて、癒されてるんだよ、本当に」
「そ、そう……そっか。へへ」
「……ーーああくそっ」
「んぶっ!? なんへほっぺふかむの!?」
「気の抜けた顔見てなんか腹立ったんだ」
「さっきと言ってること違うじゃん!」

「アッシュ、ライナスー? そろそろ夕食食べに行こう~?」

不意に扉の外側からルーナの声が聞こえ、私の両頬を片手で潰すライナスの手が離れた。
私とライナスはお互い顔を見合わせると、腰を上げて扉へ向かったのだった。

* * *

夜も更け、明日に備えてそれぞれ床に就いていたが、不意に覚醒した。
辺りはまだ暗く、目が慣れるまでは室内を視認し辛い。夜中の2.3時頃だろうか。

……おしっこしたいな。

尿意を催して目が覚めてしまったのかもしれない。
流石に20にもなっておもらしは恥ずかしすぎるので、のそりとベッドから抜け出し、お手洗いへ向かった。

「あれ」

隣のベッドが空なことに気付く。
ライナスはこんな時間にどこへ行ったのだろう。やはり溢れんばかりの性欲が我慢できず、外へ女体を求めに行ったのだろうか。全くしょうがないやつ。
呆れていたところ、備え付けの風呂場と洗面所へ続く扉の下から、灯りが漏れているのが見えた。
明かりをつけっぱなしにしていたのか。
そぉっと扉へ近付くと、微かに物音が聞こえる。
ライナスがこの扉の向こうにいるのか、もしくはーー

ぶるり、と尿意だけじゃない寒気が背筋を駆け抜ける。
ど、どうしよう。なんか怖いからベッドに戻ろうか。……いや、でも正体が分からない方がもっと怖いぞ。

意を決して、扉をゆっくりと開いた。

「ッ……!?」
「!?」

ライナスが、洗面所の壁にもたれかかって座り込んでいた。
……だけならよかったのだが、その手には剥き出しになった己の立派な分身が握られていて。

絶賛マスターベーション中のライナスと合間見えて、あまりの衝撃にその場でおしっこを漏らさなかった私を褒めて欲しい。
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