攻略対象である兄が逃亡したので兄のフリをして勇者一行の旅に参加しています

小村辰馬

文字の大きさ
13 / 13

12

しおりを挟む
背中まで伸びた黄金色の癖毛を一つにまとめ、よいしょとバケツを持ち上げる。
皆と別れて故郷へ戻り一年が経過した頃、勇者一行が大陸一帯のモンスターの討伐を成し遂げた伝を聞いた。

アッシュはあの後ルーナとヴェインと、ついでに翌日合流したライナスにそれはそれはきついお説教を受け、本来の役割である勇者一行のパーティへ戻ることとなった。これまで行った所業への贖罪の意も込めてみんなの荷物持ちと野営中の炊事、雑用は彼が担当らしい。ついでに旅の最中、得た彼の分の宝や収入も旅が終わった時に、私へ換金されるとのことだ。
特にルーナから受けたお仕置き(何をされたのかは誰も知らないし、アッシュも言おうとしない)は大変応えたようで、彼は人が変わったように大人しくなった。ルーナ……恐ろしい子。
お役御免になった私は晴れて名実共に女の子に戻ることが出来、故郷へ送り出されたのだった。

『それでそれで? ライナスとはその後どうなったの!? 将来の約束とかした?』

と、ルーナは私とライナスの進展に興味津々であったけど、気持ちを伝えられただけで、特に明確な将来の展望は伝えられていない。
街に立ち寄った時にあちらから手紙を送ることによって近況を共有してくれてはいたから、無事の確認はできていたけど……。
まあ、そもそも彼と私は原作のメイン登場人物であるか否か以前に、身分も異なる。
彼は伯爵家のお坊ちゃんで、王宮の役職者で、超絶しごできのエリート。対して私はたまたま才能に恵まれた兄を持った、田舎の酪農一家の娘だ。
聞いてはいなかったけど、もしかしたら既にお家が決めた許嫁がいるかもしれないし、今回偉大な王命を全うしたことにより、王家にゆかりのあるお家のお嬢さんを嫁にと、王様からの縁談話が持ちかけられたかもしれない。何せ一年が経過しているのだ。なんなら、旅の中で新たに恋人ができていたっておかしくはない。
会っていない期間が長すぎて、そんな不穏な妄想をしてしまうことを許してほしい。

旅が終わったみたいだし、兄もそろそろ一度は故郷へ帰ってくるだろう。その時にライナスの様子を聞いてみるか、もしくは今度彼の働く王都まで出掛けてみようかな。
そんなことを考えながら、羊達の世話を終え厩舎の扉を開けると、目の前によく見知った、会いたくてたまらなかったその人が立っていた。

「ライナス!?」

気付くと彼の腕に掻き抱かれており、片手に持っていたバケツを取り落としてしまった。
ぎゅうぎゅうこれでもかというほど力強く抱き締められ、じたばたともがく。苦しい、しぬ。

「あ、ああ、悪い。思わず」
「ぷはっ。……び、びっくりした……どうしたのこんなところまで。あ、いや、まずはお疲れ様とおめでとうか。それに……久しぶり」
「うん、ありがとう。……髪、随分伸びたな。それにスカート……」
「ああ、うん。スカートこっちにいる時はよく履いていたんだよ。なんか照れるね」
「似合う。かわいい」

ストレートな賛辞に、ボンッと、顔が熱くなった。
引き続き頭のてっぺんからつま先までまじまじと観察され、恥ずかしくてスカートを握りしめ、もじもじとしてしまう。

「漸く、家の者を説得したから、伝えに来たんだ」
「説得?」
「アイリス、結婚しよう」
「へ!?」
「家族とお前の兄の許可はもう取っている」
「ええ!?」
「今日はお前を迎えに来たんだ」

大きな掌を頬に添えられ、びくりと反応してしまう。さらに精悍になった顔つきの彼の表情は大真面目だ。
待って待って、思考が追いつかない。

「それとも、この一年で他に良い人ができたか?」
「そ、そんなわけない! ……毎日、ライナスのことばかり考えていて、無事を祈ってた。毎日会えていたあの旅の日々が恨めしいほどに、ライナスのことが恋しくてたまらなかったよ」
「そうか、よかった……」

再びライナスに強く抱き締められ、彼が無事に戻ってきたこと、彼が心変わりしていなかったこと、彼に求婚されたことが目まぐるしく脳に染み渡っていき、幸福のキャパオーバーを起こしそうになる。

兄にはひどく振り回されたけれど、彼が逃亡していなければライナスに恋して、このような結末になることはなかっただろう。
悔しいことに、図らずもキューピットとなり、一年お役目を全うした馬鹿兄貴には、お礼にライナスの知人の令嬢でも紹介してやろうかと語らいながら、私たちは家族の元へ急いだ。

その後、アッシュとルーナが恋仲になっていたことを当人の口から聞いて、ひっくり返りそうになったのは別のお話である。

<END>
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

処理中です...