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背中まで伸びた黄金色の癖毛を一つにまとめ、よいしょとバケツを持ち上げる。
皆と別れて故郷へ戻り一年が経過した頃、勇者一行が大陸一帯のモンスターの討伐を成し遂げた伝を聞いた。
アッシュはあの後ルーナとヴェインと、ついでに翌日合流したライナスにそれはそれはきついお説教を受け、本来の役割である勇者一行のパーティへ戻ることとなった。これまで行った所業への贖罪の意も込めてみんなの荷物持ちと野営中の炊事、雑用は彼が担当らしい。ついでに旅の最中、得た彼の分の宝や収入も旅が終わった時に、私へ換金されるとのことだ。
特にルーナから受けたお仕置き(何をされたのかは誰も知らないし、アッシュも言おうとしない)は大変応えたようで、彼は人が変わったように大人しくなった。ルーナ……恐ろしい子。
お役御免になった私は晴れて名実共に女の子に戻ることが出来、故郷へ送り出されたのだった。
『それでそれで? ライナスとはその後どうなったの!? 将来の約束とかした?』
と、ルーナは私とライナスの進展に興味津々であったけど、気持ちを伝えられただけで、特に明確な将来の展望は伝えられていない。
街に立ち寄った時にあちらから手紙を送ることによって近況を共有してくれてはいたから、無事の確認はできていたけど……。
まあ、そもそも彼と私は原作のメイン登場人物であるか否か以前に、身分も異なる。
彼は伯爵家のお坊ちゃんで、王宮の役職者で、超絶しごできのエリート。対して私はたまたま才能に恵まれた兄を持った、田舎の酪農一家の娘だ。
聞いてはいなかったけど、もしかしたら既にお家が決めた許嫁がいるかもしれないし、今回偉大な王命を全うしたことにより、王家にゆかりのあるお家のお嬢さんを嫁にと、王様からの縁談話が持ちかけられたかもしれない。何せ一年が経過しているのだ。なんなら、旅の中で新たに恋人ができていたっておかしくはない。
会っていない期間が長すぎて、そんな不穏な妄想をしてしまうことを許してほしい。
旅が終わったみたいだし、兄もそろそろ一度は故郷へ帰ってくるだろう。その時にライナスの様子を聞いてみるか、もしくは今度彼の働く王都まで出掛けてみようかな。
そんなことを考えながら、羊達の世話を終え厩舎の扉を開けると、目の前によく見知った、会いたくてたまらなかったその人が立っていた。
「ライナス!?」
気付くと彼の腕に掻き抱かれており、片手に持っていたバケツを取り落としてしまった。
ぎゅうぎゅうこれでもかというほど力強く抱き締められ、じたばたともがく。苦しい、しぬ。
「あ、ああ、悪い。思わず」
「ぷはっ。……び、びっくりした……どうしたのこんなところまで。あ、いや、まずはお疲れ様とおめでとうか。それに……久しぶり」
「うん、ありがとう。……髪、随分伸びたな。それにスカート……」
「ああ、うん。スカートこっちにいる時はよく履いていたんだよ。なんか照れるね」
「似合う。かわいい」
ストレートな賛辞に、ボンッと、顔が熱くなった。
引き続き頭のてっぺんからつま先までまじまじと観察され、恥ずかしくてスカートを握りしめ、もじもじとしてしまう。
「漸く、家の者を説得したから、伝えに来たんだ」
「説得?」
「アイリス、結婚しよう」
「へ!?」
「家族とお前の兄の許可はもう取っている」
「ええ!?」
「今日はお前を迎えに来たんだ」
大きな掌を頬に添えられ、びくりと反応してしまう。さらに精悍になった顔つきの彼の表情は大真面目だ。
待って待って、思考が追いつかない。
「それとも、この一年で他に良い人ができたか?」
「そ、そんなわけない! ……毎日、ライナスのことばかり考えていて、無事を祈ってた。毎日会えていたあの旅の日々が恨めしいほどに、ライナスのことが恋しくてたまらなかったよ」
「そうか、よかった……」
再びライナスに強く抱き締められ、彼が無事に戻ってきたこと、彼が心変わりしていなかったこと、彼に求婚されたことが目まぐるしく脳に染み渡っていき、幸福のキャパオーバーを起こしそうになる。
兄にはひどく振り回されたけれど、彼が逃亡していなければライナスに恋して、このような結末になることはなかっただろう。
悔しいことに、図らずもキューピットとなり、一年お役目を全うした馬鹿兄貴には、お礼にライナスの知人の令嬢でも紹介してやろうかと語らいながら、私たちは家族の元へ急いだ。
その後、アッシュとルーナが恋仲になっていたことを当人の口から聞いて、ひっくり返りそうになったのは別のお話である。
<END>
皆と別れて故郷へ戻り一年が経過した頃、勇者一行が大陸一帯のモンスターの討伐を成し遂げた伝を聞いた。
アッシュはあの後ルーナとヴェインと、ついでに翌日合流したライナスにそれはそれはきついお説教を受け、本来の役割である勇者一行のパーティへ戻ることとなった。これまで行った所業への贖罪の意も込めてみんなの荷物持ちと野営中の炊事、雑用は彼が担当らしい。ついでに旅の最中、得た彼の分の宝や収入も旅が終わった時に、私へ換金されるとのことだ。
特にルーナから受けたお仕置き(何をされたのかは誰も知らないし、アッシュも言おうとしない)は大変応えたようで、彼は人が変わったように大人しくなった。ルーナ……恐ろしい子。
お役御免になった私は晴れて名実共に女の子に戻ることが出来、故郷へ送り出されたのだった。
『それでそれで? ライナスとはその後どうなったの!? 将来の約束とかした?』
と、ルーナは私とライナスの進展に興味津々であったけど、気持ちを伝えられただけで、特に明確な将来の展望は伝えられていない。
街に立ち寄った時にあちらから手紙を送ることによって近況を共有してくれてはいたから、無事の確認はできていたけど……。
まあ、そもそも彼と私は原作のメイン登場人物であるか否か以前に、身分も異なる。
彼は伯爵家のお坊ちゃんで、王宮の役職者で、超絶しごできのエリート。対して私はたまたま才能に恵まれた兄を持った、田舎の酪農一家の娘だ。
聞いてはいなかったけど、もしかしたら既にお家が決めた許嫁がいるかもしれないし、今回偉大な王命を全うしたことにより、王家にゆかりのあるお家のお嬢さんを嫁にと、王様からの縁談話が持ちかけられたかもしれない。何せ一年が経過しているのだ。なんなら、旅の中で新たに恋人ができていたっておかしくはない。
会っていない期間が長すぎて、そんな不穏な妄想をしてしまうことを許してほしい。
旅が終わったみたいだし、兄もそろそろ一度は故郷へ帰ってくるだろう。その時にライナスの様子を聞いてみるか、もしくは今度彼の働く王都まで出掛けてみようかな。
そんなことを考えながら、羊達の世話を終え厩舎の扉を開けると、目の前によく見知った、会いたくてたまらなかったその人が立っていた。
「ライナス!?」
気付くと彼の腕に掻き抱かれており、片手に持っていたバケツを取り落としてしまった。
ぎゅうぎゅうこれでもかというほど力強く抱き締められ、じたばたともがく。苦しい、しぬ。
「あ、ああ、悪い。思わず」
「ぷはっ。……び、びっくりした……どうしたのこんなところまで。あ、いや、まずはお疲れ様とおめでとうか。それに……久しぶり」
「うん、ありがとう。……髪、随分伸びたな。それにスカート……」
「ああ、うん。スカートこっちにいる時はよく履いていたんだよ。なんか照れるね」
「似合う。かわいい」
ストレートな賛辞に、ボンッと、顔が熱くなった。
引き続き頭のてっぺんからつま先までまじまじと観察され、恥ずかしくてスカートを握りしめ、もじもじとしてしまう。
「漸く、家の者を説得したから、伝えに来たんだ」
「説得?」
「アイリス、結婚しよう」
「へ!?」
「家族とお前の兄の許可はもう取っている」
「ええ!?」
「今日はお前を迎えに来たんだ」
大きな掌を頬に添えられ、びくりと反応してしまう。さらに精悍になった顔つきの彼の表情は大真面目だ。
待って待って、思考が追いつかない。
「それとも、この一年で他に良い人ができたか?」
「そ、そんなわけない! ……毎日、ライナスのことばかり考えていて、無事を祈ってた。毎日会えていたあの旅の日々が恨めしいほどに、ライナスのことが恋しくてたまらなかったよ」
「そうか、よかった……」
再びライナスに強く抱き締められ、彼が無事に戻ってきたこと、彼が心変わりしていなかったこと、彼に求婚されたことが目まぐるしく脳に染み渡っていき、幸福のキャパオーバーを起こしそうになる。
兄にはひどく振り回されたけれど、彼が逃亡していなければライナスに恋して、このような結末になることはなかっただろう。
悔しいことに、図らずもキューピットとなり、一年お役目を全うした馬鹿兄貴には、お礼にライナスの知人の令嬢でも紹介してやろうかと語らいながら、私たちは家族の元へ急いだ。
その後、アッシュとルーナが恋仲になっていたことを当人の口から聞いて、ひっくり返りそうになったのは別のお話である。
<END>
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