聖女を解雇された私のハーレム奮闘記

小村辰馬

文字の大きさ
14 / 27

13.5(カイン視点)

しおりを挟む
夜の静寂の中、執務机の上に置いたランプの灯が、淡く揺れている。報告書の束を片手に、カインはため息を一つ吐いた。

「……今日も、面倒くさいヤツだった」

思わず口に出して、再び嘆息する。あの聖女――マナカ。怠惰で、傲慢で、なのに、時折子どものように無防備な笑みを浮かべる女。

最初に彼女を見たとき、ただの厄介者だと思った。ランバルドの災厄を祓う聖女として召喚されたはずが、言語はおろか、礼儀作法も覚えようとせず、勉学もさぼる。

カインは努力をしない人間が嫌いだった。自分が努力以外の手段で生きてこられなかったから。拾われた恩に報いるため、誰よりも剣を振り、学び、血を吐くほど訓練してきた。それでようやく“伯爵家の人間”として扱われるようになったのだ。
そんな自分の前で、彼女は平然と“何もしない”を選んでいる。
理解できなかった。
……なのに。

『ふぐっ…みるな! あっち向け!』

彼女の涙を見てから、嗚呼、この女も、脆い部分があるのかと。これまでの傲慢な態度は、己を強く見せるための鎧だったのかと気付くと、なんとなく、情が湧き始めた。
こちらから歩み寄ってみれば、存外雛鳥のように懐いてきて、悪い気はしなかった。
怠惰ではあるがやる気がないわけではなく、彼女は意識的に努力をしていないようにも見えた。

そんなある日、

『カインって、いつも無理してない?』
『そう見えるか』
『うん。頑張りすぎて、壊れちゃわないか、たまに心配になる』

その一言を、なぜか忘れられなかった。
誰にも見せたくなかった心の綻びを、彼女は何でもない風に、真っすぐ見抜いてきた。

それからと言うもの、一層彼女の一挙一動から目が離せなくなり、気付けば口煩い母親とまで言われるようになった。

朝のひどい寝癖も、神官長へ吐く悪態も、苦手な人間がいれば逃亡する癖も、いつの間にか愛らしくまで感じるようになり、彼女の成長は、自分の生き甲斐とまで思うようになった。
式典で長文の祝詞を読み上げれば誇らしげにニヤついた視線を寄越し、各地域に建つ孤児院への慰問を終えれば、子供たちからもらった絵や人形を、嬉しそうに自慢してくる。
彼女は拙いながらも、立派に聖女を成し遂げていた。それを自分も、誇らしく思っていた。

何かと調子の良い彼女だったが、自分自身を傷付けるような言葉を、平気で吐く癖があった。

『別に、誰も期待してないし』
『どうせ頑張っても無駄だよ』
『私なんて』

そんな言葉を吐き出す度に、胸の奥が痛んだ。
自身を卑下する彼女にも、努力することを厭わなかった、カイン自身を否定する言葉にも。
誰よりも努力してきた自分が、努力を否定する彼女に惹かれていく。矛盾だらけだ。だが、目を離せなかった。

だからこそ、聖女としての役目が明け、半ば強制的にフェンデルンヘの妃候補とは名ばかりの側室候補としての招集に、二つ返事で了承したことも気に食わなかった。
王宮付きの騎士ではなくなること、ランバルドから離れることを、王宮騎士団長や父上は良しとしなかったが、彼女を一人でフェンデルンの地へやれる訳がない。フェンデルンで新たな護衛が当てがわれる事を耳にしていたが、カインは周囲の反対を押し切り、ランバルドから引き続き、マナカの護衛役を買って出た。

カインは机の引き出しから一枚の紙を取り出した。
以前カイン以外の教育担当者が書いた、神官長への報告書だ。そこに書かれた、「マナカ様:向上心に欠ける」という文字を見つめ、静かに笑った。

「……違うな」

あいつは、向上心がないんじゃない。きっと諦め方を、覚えすぎたのだ。
詳細は知らないが、報われなかった日々の中で、「どうせ」と言えば傷つかずに済むことを、知ってしまったのだろう。
だから、あいつの“怠惰”は、きっと防具だ。誰かが、それを剥がしてあげなければ。

「……まったく。本当に、面倒くさいヤツ」

そう呟きながら、カインは窓の外を見上げた。夜空の向こう、月が柔らかく辺りを照らしている。
彼女が眠る部屋にも、同じ光が差しているのだろう。
フェンデルンヘの出立前夜だ。
普通ならば緊張して眠れない、なんてこともあるだろうが、マナカのことだ。
ものの5分もしたら熟睡したことだろう。
自分も同行することを明日告げた時、一体どんな表情をするのか。少し楽しみでもある。

カインは引き継ぎ用の箱へ最後の書類を放り込むと、明日からのフェンデルンでの生活に想いを馳せた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魚人族のバーに行ってワンナイトラブしたら番いにされて種付けされました

ノルジャン
恋愛
人族のスーシャは人魚のルシュールカを助けたことで仲良くなり、魚人の集うバーへ連れて行ってもらう。そこでルシュールカの幼馴染で鮫魚人のアグーラと出会い、一夜を共にすることになって…。ちょっとオラついたサメ魚人に激しく求められちゃうお話。ムーンライトノベルズにも投稿中。

男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~

花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。  だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。  エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。  そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。 「やっと、あなたに復讐できる」 歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。  彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。 過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。 ※ムーンライトノベルにも掲載しております。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

救国の聖女として騎士団副団長を国宝級ディルドだと貰ったことから始まる焦ったい恋の話〜世間も羨む幻のイチモツは男女逆転モラル世界では動かない〜

たまりん
恋愛
看護師をしているひよりは仕事と婚活に疲弊していた。 だがある日、トラックにはねられた彼女は、とある国に聖女として召喚された。 異世界を満喫しようと思うも、そこは【ディルド】が名産品という、性的モラルが男女反転した不思議な国で、ひよりは女王を救った褒美として見目麗しい王国騎士団副団長をディルドとして使うように賜ったけれど…… ☆フィクションです!  作品の設定上、性的モラルが色々おかしいかと思いますが、ご了承ください。 ◇ムーンライトノベルズさまで別作者名で掲載しておりますが同一作者です。 ◇2023年5月28日 完結しました!

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。 彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。 そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。 幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。 そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

処理中です...