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そこまで考えて、けれどしぶしぶといった顔で、頷いた。
「そうか」
嬉しそうに、幸正が膝を打つ。
「そんなら、アンタは漁が終わったらまっすぐに帰ってきな。俺は、ここで待たせてもらう。勝手に上がりこんでいても、かまわねぇだろう」
「取るようなものは何もないし、好きにすればいい」
「俺は、幸正だ。――アンタの名前は」
「伊佐」
そうして、幸正は翌日から家に上がりこんで待つようになった。囲炉裏に火を入れて、私が帰ったらすぐに汁が食べられるようにして――。
村の人々が何と思って私たちの事を見ているのかは知らないが、悪しくは思われていないようだった。あんなやりとりの後で、心配そうに見てくる目はあったけれど、私も幸正も平気な顔をしているからか、様子を伺う視線はしだいに消えていった。
そうして幸正がどういう身分で、仕えている家はどこなのかも知らぬままに、私は彼に釣果の全てを売り、漁に出られない時は干物にしておいたものを出し、何が面白いのか私が食事を終えるまで居座った幸正を送り出すという生活が続いた。
そうして、今より三月ほど前に私が海のもくずとなりかけた出来事があり、肌身を重ねるようになり、今に至っている。
投網を干し終えて、すっかり幸正の定位置となってしまった場所を見る。
最初はきっと、同情からだったはずだ。それから毎朝を過ごしているうちに、情が移ってしまった。だから私の看護をし、私は礼の為に幸正に抱かれ――今も、抱かれ続けている。
一度抱かれてしまえば、次に求められた時に拒絶をしにくかった。
「あれは、礼のつもりだった。だから、あの一回きりで終わりだ」
そう、言えなかった。
言えば、幸正は怒っただろうか。何のこだわりも無く、そうかと納得しただろうか。
わからない。
わからないけれど、私は心の隅で優しい腕を失いたくないと感じていた。礼のために伸ばした腕で得たものは、看護の先に広がるものを求めただけのように、なってしまった。
怪我をし命を落としかけてから、幸正の看護のおかげで体力も回復し食事もとれるようになり、傷跡がひきつる感覚はあるが痛みはほとんど無くなった頃。私のようなものを診る事など無さそうな、幸正に連れてこられた立派な着物の医師が大丈夫だと言い置いて去ると、私は幸正に言った。
「そうか」
嬉しそうに、幸正が膝を打つ。
「そんなら、アンタは漁が終わったらまっすぐに帰ってきな。俺は、ここで待たせてもらう。勝手に上がりこんでいても、かまわねぇだろう」
「取るようなものは何もないし、好きにすればいい」
「俺は、幸正だ。――アンタの名前は」
「伊佐」
そうして、幸正は翌日から家に上がりこんで待つようになった。囲炉裏に火を入れて、私が帰ったらすぐに汁が食べられるようにして――。
村の人々が何と思って私たちの事を見ているのかは知らないが、悪しくは思われていないようだった。あんなやりとりの後で、心配そうに見てくる目はあったけれど、私も幸正も平気な顔をしているからか、様子を伺う視線はしだいに消えていった。
そうして幸正がどういう身分で、仕えている家はどこなのかも知らぬままに、私は彼に釣果の全てを売り、漁に出られない時は干物にしておいたものを出し、何が面白いのか私が食事を終えるまで居座った幸正を送り出すという生活が続いた。
そうして、今より三月ほど前に私が海のもくずとなりかけた出来事があり、肌身を重ねるようになり、今に至っている。
投網を干し終えて、すっかり幸正の定位置となってしまった場所を見る。
最初はきっと、同情からだったはずだ。それから毎朝を過ごしているうちに、情が移ってしまった。だから私の看護をし、私は礼の為に幸正に抱かれ――今も、抱かれ続けている。
一度抱かれてしまえば、次に求められた時に拒絶をしにくかった。
「あれは、礼のつもりだった。だから、あの一回きりで終わりだ」
そう、言えなかった。
言えば、幸正は怒っただろうか。何のこだわりも無く、そうかと納得しただろうか。
わからない。
わからないけれど、私は心の隅で優しい腕を失いたくないと感じていた。礼のために伸ばした腕で得たものは、看護の先に広がるものを求めただけのように、なってしまった。
怪我をし命を落としかけてから、幸正の看護のおかげで体力も回復し食事もとれるようになり、傷跡がひきつる感覚はあるが痛みはほとんど無くなった頃。私のようなものを診る事など無さそうな、幸正に連れてこられた立派な着物の医師が大丈夫だと言い置いて去ると、私は幸正に言った。
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