凪の潮騒

水戸けい

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「はぁ?」

 何を言っているんだ、この侍は。

 思いきり、あきれた声と顔を向けたのに、幸正は自分の言葉に満足そうに何度も頷き、鍋の中身を嬉しそうに眺めている。

「なんで、アンタがそんなことをするのさ」

「椀は、どこだ」

 立ち上がり、勝手に家の中をうろつき始めた幸正に

「聞いてんの?」

 苛立った声を向ければ、狭い家の中で難なく椀を見つけた幸正がにこりとする。

「これは、商談だ」

「――商談?」

 いぶかる私の目の前に、どかりと座りなおした幸正が、椀に汁をよそって差し出した。

「ほら」

 受け取れよ、と手の動きで促される。手を伸ばし、あたたかさに凍えた指先がしびれるように痛むのを感じながら、幸正を見つめた。

「俺は、ある屋敷の朝餉の膳に出すものを求めに、この村に来たんだよ。うちのお館は、たいそう海のものが好きでな、材料が早めに手に入ると、そのぶん調理時間が取れる。手間をかけることが出来る。――アンタが、一番早く売り出してるんだろう。それを全部、俺に買わせてくれ。安定した売り先があるのは、アンタも助かるだろう。いわゆる、独占取引ってやつだ」

 どうだ、と身を乗り出されて言われ、うますぎる話に目をすがめつつ汁を啜った。ほっこりと、喉の奥があたたまり胃袋に沁みこんでいく。ひとごこちついて息を吐き、口を開いた。

「その日によって収穫も違うし、海に出られない日もあるよ」

 私はひとりで漁をしているのだから、村全体と取引をした方が安定をするだろうと言外に匂わせれば

「わかってる。そんときゃ、仕方がねぇ。だが、少しでも膳の支度に手間をかけるにゃ、アンタから買うのが一番だ。そうだろう?」

 たしかに、私は誰よりも早く漁に出て、皆が海に出るころには戻ってくる。料理に手間をかけたいのなら、私から買うのが一番だろう。

「どうだ」

 促され、考える。悪い話じゃない。むしろ、買い手がつかない時もあることを思えば、良い話だ。今まで温情を含めた買い取りをしてくれた相手には悪いが、今日のやりとりを見ていたのだから、私が全てをこの男に売ってしまったとしても文句は出ないだろう。
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