凪の潮騒

水戸けい

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「奥村に聞けば、父を亡くした伊佐姫は誰よりも早く海に向かい、獲物を捕らえて売り、その日一日をしのげるだけの金を手に入れていると言われた。それが、民の生活なのだと。それを改善するには領内を豊かにしなければならぬ。そのためには、一刻も早く伊佐姫をここに戻さなければならないと、言った」

「どうして、私が戻れば民の生活が改善されるんだ」

「俺の言う事を聞かぬものも、伊佐姫の命であれば――本来の血が下したことにならば、従うのだそうだ」

 皮肉にゆがめられた宗也の頬を眺め、意味が分からないと呟けば、俺もそうだと返された。武家としての知識と教養を身に付けさせられたにもかかわらず、何のまつりごとにも関わることが出来ない。今まで全く気にも留めなかったことが、自分がもともと生活をしていた場所を思い出し、漁村の姿を目にしたことでおこないたいと思うようになったと、宗也は目を細めた。

「そんな折に、隣の領地の使者が港を大きくしてほしいという話を持ってきた。――港には、隣の領地にかかわる船も帰港する。他国とより多くの品を取引したいと、そのために港を大きくし一艘でも多く受け入れられるようにしてほしいと、そのためのついえと礼は十分にするからと言って来た。提案の図面と共に、大量の品々が贈られてきた。それらを見たものは賛成派と反対派に分かれている。奥村は、反対派だ。俺も、図面を見た瞬間に断るべきだと感じた。普請を終えれば潮の流れが変わり、航路を示す図案を見れば近隣の漁村が飢えることは必至としか見えなかった。…………伊佐姫を迎え入れることが、急務だと感じた。今まで何も言うことの無かった、飾りであり代理でもある俺が何を言っても、聞く耳を持つものは居ない。奥村が何かを言っても、全てのものに影響力があるわけではない。誰もが認めるものが決定をしなければ、民の生活がないがしろになる。こちらの利権で潤うものが出るのみで、近隣の漁村に対する救済措置すらも行われない可能性もあるだろう」

 こちらの領内は、爺様と爺様を慕うものがいることで全くの無視ということにはならないだろうが、隣の領地の漁村の扱いは、目と鼻の先であっても口出しが出来ない。提示をされた案件に記載されていたものは、ある程度の身分あるものたちが潤うことばかりで、民がどうなるかまでは書かれていなかったと、宗也はため息をつく。

「身代わりであるならば、知識も教養も教え込まなければ良かっただろうにと、思う事もあった。だが、教え込まれたことによって、伊佐姫が無知であることの補佐が出来ることに気付いた。俺が、伊佐姫の婿となれば名実ともに当主だと認められる。そうなれば、この件を断ることが出来る」
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