ひとりよがりなFalse Face

水戸けい

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「俺に何をされたかなんて、覚えてないよな」

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 うっとりとした息を、譲の唇に唇を重ねて流し込む。

「ああ、譲」

 胸が、幸福で満たされる。涙とヨダレでぐちゃぐちゃになった譲の頬に口付けて、汗で額に張り付いた彼の髪を払う。焦点の合わぬ譲の目は淫欲に濁り、唇は惚けた笑みを浮かべていた。

「譲」

 唇を押し付け、ゆっくりと抜け出る。秘孔から恭平の牡を追いかけるように、注いだ液がどろりとこぼれた。ひくつく入り口がそれを留めようとしているように見えて、恭平は親指を押し込んだ。

「ふひっ」

 譲が小さく声を上げ、ビクンと跳ねる。放ちきり、ぐったりとした譲の陰茎を眺め、腹に飛び散った淫蜜とローションを見つめ、大きくあえぐ胸を視線で舐めて、恭平は譲の淫靡な表情に目を細めた。

「譲」

 このまま、この快楽を覚えこませてしまえば、譲は賭けの後も身を重ねてくれるようになるだろうか。

「いっそ、このまま」

 快楽に従順になるように、しつけてしまおうか。

「譲」

 親指を抜き、頬を撫で、両手で包んで唇を重ねる。ぼんやりとしている譲の意識は、どこを見て何を感じているのだろう。

「譲」

 譲は、どこまで意識が残っていたのだろう。恭平の名を呼んだときに、意識はあったのだろうか。

「まさかな」

 鼻で笑い、弛ゆるした譲を抱きしめる。意識があって呼んだのであれば、あれはきっと拒絶の言葉だ。求める声であるはずが無い。

「うわごとだよな」

 見れば、譲は目を閉じていた。眠ってしまったのだろうか。

「俺の名を呼んだのは、無意識だよな」

 そうであってほしい。そうであってくれ。

「俺に何をされたかなんて、覚えてないよな」

 譲が欲しいと思いながら、いっそのこと下半身から支配すればいいと思いながら、こうして手を出しておきながら、自分はなんと臆病でずるいのだろう。

「譲」

 繋がったなんて知れたら、譲はもう二度と無邪気に笑いかけてはくれなくなる。きっと、侮蔑を込めたまなざしを向けられて、二度とこうして触れることは出来なくなる。

「自分から手を出しておいて、何を考えてんだ。俺は」

 これじゃあ、ただの強姦じゃないか。

「譲」

 欲する強さと失う恐怖に揺れる恭平の背を、眠っているはずの譲の手が撫でた。
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