ひとりよがりなFalse Face

水戸けい

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どこか楽しそうな晴彦が箸を手にし、譲もそれに習う。

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「なら、いいだろ」

 腕を引かれるままに、譲は歩き出す。晴彦はこんなに強引な奴だったかと、心中で首をかしげながらついて行けば、古びた喫茶店にたどり着いた。

「ここ。喫茶店なのにモーニングに定食が出るんだぜ」

「へえ」

 なじみらしい様子で晴彦が店内に入れば、薄暗いオレンジ色の照明に昔のドラマで観るような、純喫茶と呼ばれるにふさわしい重厚な内装が目に入り、譲はタイムスリップをした気になった。

「モーニングふたつね」

 奥の、観葉植物と衝立のある席に晴彦が座り、その向かいに譲が座る。店内には新聞を広げている年配の男性と、恐ろしいほどゆっくりと箸を動かし、おそるおそる食べ物を口に運び咀嚼をしている、干からびたような老人がいた。

「この上のマンションで一人暮らしをしていてさ。時々ここで、朝飯を食うようにしてんだよ。自分じゃ、適当なモンしか作らないからさ」

「へえ」

 ご飯に味噌汁。焼き魚と千切りキャベツにトマト。それに漬物の乗った皿がテーブルに運ばれてきた。

「これで五百円なんて、安いよな」

「うん」

 どこか楽しそうな晴彦が箸を手にし、譲もそれに習う。

「譲は、実家だっけ」

「うん」

「実家なら、飯の心配は無いよな。一人だとさ、インスタントとか弁当とか。自炊しても炒め物をするぐらいで、たいした物は作らないからさ。ここのモーニングは有り難いんだよ」

「へえ」

 そんな食事ならば、この朝食は有り難いだろうと思いつつ、譲は味噌汁をすすり、御飯を口に入れ咀嚼しながら焼き魚をほぐす。もし自分が一人暮らしなら、こんな食事は作らないだろう。冷凍食品かインスタント。出来合いの弁当ばかり食べているかもしれない。

 恭平なら、彼女が作りに来るのだろうな。

 ふ、と箸が止まった譲に、晴彦が不思議そうに目を向ける。

「どうした。嫌いなものでも、あったか」

「いや」

 再び箸を動かしはじめたけれど、急に何の味も感じなくなった。恭平なら、こういう食事を作ってくれる彼女を、すぐに見つけるだろう。一人暮らしでも炊事の心配をする必要など、きっと無いに違いない。
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