誰も愛さない

まめ太郎

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 夜明け頃、俺はようやく浅い眠りに落ちた。
 夢をいくつも見た。
 夢の中では両親が俺に
「こうなったのはお前のせいだ。冬はいい子だったのに、お前のせいでおかしくなったんだ」
「お前なんて産まなきゃ良かった」
 そう断罪する。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
 俺は何度も両親に謝った。
 怒りから両親は今までに見たことのないような表情を浮かべている。

「犯罪者の子供の君が愛してもらえるって本当に思っていたの?」
 声がした方を振り返ると、蔵元が笑っている。
 叫ぶと同時に俺は上半身を起こした。

「夢……」
 心臓が運動後のようにバクバクと嫌な音を立てていた。
 俺は頬を濡らす涙を拭うと、目を閉じ薄暗い部屋のベッドの上で、膝を抱えた。

 週末も気分は最悪だった。
 出かける気にもならず、引きこもって月曜日をむかえた俺は、いつも通りスーツに着替え、出社した。
 
 会社のエレベーターに乗ると、二人組の男が乗りこんできた。
 一人は同期の小岩だった。

「今日の飲み会、剛士来るって?」
 エレベーターの中なのに、相変わらず小岩の声は大きい。
「いや、あいつ当分飲み会パスだって」
「ええっ。あいつ来ると女子のテンション上がって良かったのになあ」
「新しい彼女できたんじゃねえかな。前回の飲み会で剛士に猛プッシュしてる可愛い子がいたからさ。連絡先も交換してたみたいだし」
 男はそう言うとハハッと笑う。
「マジか。あいつ本当にフリーの期間短いよな」
 小岩達は俺の部署の1つ下の階で、エレベーターを降りた。

 俺はエレベーターの扉が閉まると同時に大きなため息をついた。
 いつかこうなることは分かっていたし、こうなって欲しくて俺は大賀に別れを告げたはずだった。
 なのに、これ以上傷つくはずはないと思っていた俺の胸は、確かに痛んでいた。
 
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