春に落ちる恋

まめ太郎

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   いつも通り実家の隣の敷地に車を停め、まずは桜の大木を見に行った。
 一昨年まで咲かなかったのが信じられないくらいの狂い咲きだった。
 俺達は手を繋ぎながら、ほうっと同じタイミングで息を吐いた。
「来年も将仁さんと一緒にこの景色が見たい」
 俺は頭をこてっと将仁さんの肩に付け言った。
「来年だけでいいのか?」
 将仁さんの問いに俺は首を振った。
「もっと長くだと嬉しい」
 将仁さんは俺の答えにふっと微笑んだ。
「俺もそう願うよ」
 将仁さんを見上げると、形のいい唇が降ってくる。
 しっとりと口づけを交わしながら「これからもずっと一緒に見られますように」と心の中で桜に祈った。

 実家に帰ると、笑顔で母が出迎えてくれた。
 テーブルの上には赤だしの味噌汁にタケノコと山菜の炊き込みご飯。近くの川で採れたというヤマメの塩焼きも並んでいた。
「たくさん食べてね」
 母さんは俺でなく、将仁さんの方を向いてそう言った。
「なんかさあ。母さん、実の息子の俺が帰ってくるより、将仁さんが来ることのが嬉しそう」
「そりゃそうよ。見慣れたあんたの顔より、俳優みたいな京極さんとお話しする方が楽しいに決まってるじゃない」
 母はきっぱり言い切ると、将仁さんのコップに先程買ったばかりの日本酒を注いだ。
「お義母さんも飲みませんか?」
「いやーん。お義母さんなんて。鶴子って呼んでください」
「じゃあ、鶴子さん。一杯どうです?」
「飲みたいんだけどねえ。今日これから夜勤なのよ。そうだ、春。あんた今日泊まっていきなさい。京極さん一人で飲んでもつまらないでしょ」
「ええっ。いいよ、帰るし」
「そんな急いで帰ることもないでしょ?こんなこともあろうかと、布団二組干して、あんたの部屋に置いといたのよ」
「いや。そんな勝手に決められたって、俺達にも都合ってもんが…」
 帰って今朝の続きをしたいと思っていた俺は、母さんの提案に渋い顔をした。
「あらあ、たまにはいいじゃない。京極さん。ぜひ、泊まってらして」
「鶴子さんがそう言うなら」
「ほら、決まり。さあ、あんたも飲みなさい」
 母さんが勝手に俺のコップに日本酒を注ぐ。
 一口飲んで独特の味に俺は顔を顰めた。
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