春に落ちる恋

まめ太郎

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 しばらくしてから俺は将仁さんが消えた寝室の扉をノックした。 
 返事も待たずに開ける。
 グレーのポロシャツにジーンズ姿の将仁さんがベットの端に座り、俯いていた。
 俺は将仁さんの目の前に立った。
「さっきはごめん」
 俺の謝罪にも将仁さんは顔を上げなかった。話し続ける俺の声はみっともないくらい震えていた。
「お母さんの気持ちを考えろとか言ったけど、本当は俺が怖かったんだ。…もしご両親に俺とのことがばれて、別れろって言われたらどうしようって…頭、パニックになった」
 将仁さんがゆっくりと顔を上げる。俺はぎこちなく微笑んだ。
「そうなったとしても俺は絶対にお前とは別れない。…これからも続けていくためにカミングアウトをするんじゃないか」
「うん…。そうだよね」
 将仁さんの言葉は正論過ぎる位正論だった。俺は苦い笑みを浮かべた。

「俺さ…男だからどんなに頑張っても子供は産めないし、結婚もできない訳で…」
 本当はこんなこと言いたくなかった。自分のコンプレックスをさらけ出すのは辛い。
 ただ先ほどのやり取りで、何も言わずに自分の気持ちを将仁さんに汲んで欲しいと望むのは幼稚なのではないかと感じた。
「そんなの最初から分かってる」
 答える将仁さんの声が俺には冷たく聞こえてしまう。
「…だよね。そうなんだけど…歴代の将仁さんの彼女たちや久世さんはそういうことができるわけでしょ?それは仕方のないことだけど、ただそういう現実になんというか……打ちのめされる時があって」
 ははと俺はごまかすように笑った。将仁さんの反応がないのが怖かった。
「俺、何言ってるんだろうね。ごめん、こんなこと言いたかったわけじゃなくて」
 ふいに将仁さんの腕が俺の腰に回される。俺は驚いて、動きを止めた。

「俺こそごめん。話したくないこと言わせた」
 将仁さんが俺の腹に顔を埋める。
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