春に落ちる恋

まめ太郎

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 将仁さんはそれから急いで久世さんに連絡を取った。
 ちょうど久世さんは今晩、予定が空いているとのことで、将仁さんが高級中華の個室を予約し、俺達は三人で夕飯を食べる事になった。

「春、お前スーツで行くのか?」
「何着たらいいかわかんなくて」
 俺は会社に行く時と同じ紺のスーツ姿で、自信なさそうに頬をかいた。
 今更かもしれないが、少しでも久世さんにきちんとした印象を与えたかった。
 将仁さんがそんな俺を見て、着ていたポロシャツをおもむろに脱いだ。
「俺もスーツにするわ」
「別に俺に合わせる必要ないですよ」
「いや、俺がそうしたいんだ」
 将仁さんはそう言いながら。あっという間に着替えを済ませる。
 俺は何度も鏡の前で、自分の姿を見返した。
 将仁さんがそんな俺ににこりと笑いかける。
「大丈夫だから」
 何がとは聞き返さなかった。
 俺は小さく微笑むとこくこくと頷いた。
 俺達は手を繋ぐと、寝室から一歩踏み出した。

 中華の店の個室には先に久世さんが着いていた。
「あれ?今日仕事だったの?」
 スーツ姿の俺達を見て、久世さんが目を丸くする。
「いや、そういうわけじゃないんだ」
 久世さんは隣の席に置いていた自分のバックをどかすと、将仁さんを見た。
「春。奥に座って」
 将仁さんにそう言われて、俺は久世さんの真正面に座った。
 隣の席に将仁さんが腰掛ける。

「男二人じゃ窮屈でしょ?将仁はこっちに座ったら?」
 久世さんの言葉に将仁さんが首を振る。
「いや、ここでいい」
 その時店員が料理を部屋に運んできた。
 最初からそう伝えてあったのか。コースだが徐々に出てくるというスタイルではなく、一度にたくさんの料理が机に並んだ。
 チャイナ服を着た店員が一礼して部屋から出て行く。
「とりあえず食べようか」
 将仁さんがそう言い、俺達は食事を始めた。
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