春に落ちる恋

まめ太郎

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 居酒屋を出ると、冷たい風が容赦なく顔を叩く。
 刺すような痛みすら感じて、俺はマフラーですっぽり顔を包んだ。
 忍に反対されたことは確かに悲しかった。でもそれ以上に忍の言葉に「そんなことはない」と反論できない自分も情けない。

 京極さんと付き合う前、俺は男同士の愛情に永遠など存在しないと思っていた。
 だから恋人も作るつもりはなかったし、しつこく言い寄ってくる男は徹底的に冷たくした。
 しかし京極さんと付き合い始めて、俺は一度だって京極さんの愛情を疑ったことがない。それくらい京極さんは俺に惜しみなく愛情を注いでくれている。

 それでも京極さんの膝の上でじゃれあっている時でさえ、幸せであればあるほど、心の中でもう一人の自分が問いかける。
「お前はこんなことが永遠に続くと思っているのか?相手はノンケなんだぞ。それにお前は自分の過去を話していないだろ?もしこの男がそれを知っても傍にいてくれると本気で思っているのか?」
 その声を無視して、俺は京極さんに口づける。そうすれば京極さんはいつも本当に幸せそうに笑ってくれるから……。
 突風が弱い俺を責めるように吹きつける。
 俺はコートの前を握り締め、小走りで京極さんの家に急いだ。
 
 家に着くと、京極さんはまだ帰っていなかった。
 どうやら今日の仕事が長引いているらしい。
 土曜日なのに大変だよな。せめて、風呂くらい沸かしておいてあげよう。
 そう思うのに、ソファに座りこんだ俺の体は鉛でも流し込まれたように重かった。
 ぐるぐると暗い思考が頭に渦巻く。
 きっと今の俺は酷い顔をしているだろう。京極さんに心配かけたくないから、今日は自分の家に戻ろうかな。
 そんなことを考えていると、玄関の扉が開く音が聞こえ、スーツ姿の京極さんが入ってくる。

 京極さんはぴしりと固めた髪を崩しながら、上着を椅子に掛け「帰ってたのか?」と俺に笑いかけた。
 俺も微笑み返そうとしたが、たぶん失敗だったんだろう。
 京極さんが眉をしかめ、俺の隣に座った。
「どうかしたか?」
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