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そんなある日、学校が午前中で終わり、ちょうど母も仕事だったので、俺はいつもより早くカフェに着くことができた。
扉を開けるとカウンターにいたのは、努さんと葛見さん、そして野間さんだけだった。
正直あまり得意ではないメンバーだったし、マスターもいなかったので、俺はそこらで時間をつぶして出直そうかと考えた。
「おお、春君。いつもより早いんじゃない?」
俺に気付いた野間さんが海外のビールの瓶を片手に手を振る。
俺は仕方なく曖昧な笑みを浮かべながら近づいた。
「こんにちは。えっと、皆は…」
「ああ、真司とキミなら来てるよ」
そう言われて見回すが、ソファ席にも二人の姿はなかった。
「トイレにずっと二人で籠ってるんだよ。体調が悪いのかもしれないから、ちょっと春君見てきてくんない?」
にやにや笑いながら努さんが言った。
そんな努さんを「お前なあ」と楽し気に葛見さんが肘でつつく。
俺は二人のことが心配になり「わかりました」と応じると、トイレにむかった。
カフェのトイレは、一番奥にある。
ノブに手を掛けた時、中から悲鳴みたいな声が聞こえた。
「ああっ、そこ。もうだめえ」
キミの叫び声に驚いて、俺は扉を開けようとしたが、鍵がかかっていた。
「あっ、あっ、あっ。すごい。大きいの気持ちぃい」
今度ははっきりとキミの言葉が聞こえた。
悲鳴みたいと思った声は、欲情に濡れ、どんなにぶい俺でも中で何が起こっているか悟った。
「てめえから誘ったんだろ。これくらいでへばるなよ」
そういう真司さんの声もいつもより低くかすれていた。
その声を聴いた途端、俺の下半身がずんと重くなった。
「あっ、だってぇ。最近、真司、春ばっかり可愛がって全然かまってくんないんだもん」
「うるせえんだよ。ちょっと黙れ」
そう言うと後は、キミの甲高い喘ぎ声しか聞こえなくなった。
俺は体をぶるっと震わすと、くるりと背を向けた。
「ちょっと、春君どこ行くの?」
焦った葛見さんの声を無視して、俺は駅まで猛ダッシュした。
閉まりそうな電車の扉にぎりぎりで駆け込み、肩で息をした。すぐに背後で扉が閉まる。
息もまともにつけないくらい苦しかった。
扉に寄り掛かりながら、この苦しさは全力疾走のせいじゃないと自分でも分かっていた。
俺真司さんが好きなんだ。
あんな場面で気付くなんてどうかしているが、間違いなく俺はあの瞬間、真司さんの声に興奮し、キミの声に嫉妬していた。
好きと分かったとたんに失恋まで確定するなんて。
俺は口に苦い笑みを浮かべると、痛む胸を押さえながら、ネオンが煌めき始めた都会をぼんやり眺めた。
扉を開けるとカウンターにいたのは、努さんと葛見さん、そして野間さんだけだった。
正直あまり得意ではないメンバーだったし、マスターもいなかったので、俺はそこらで時間をつぶして出直そうかと考えた。
「おお、春君。いつもより早いんじゃない?」
俺に気付いた野間さんが海外のビールの瓶を片手に手を振る。
俺は仕方なく曖昧な笑みを浮かべながら近づいた。
「こんにちは。えっと、皆は…」
「ああ、真司とキミなら来てるよ」
そう言われて見回すが、ソファ席にも二人の姿はなかった。
「トイレにずっと二人で籠ってるんだよ。体調が悪いのかもしれないから、ちょっと春君見てきてくんない?」
にやにや笑いながら努さんが言った。
そんな努さんを「お前なあ」と楽し気に葛見さんが肘でつつく。
俺は二人のことが心配になり「わかりました」と応じると、トイレにむかった。
カフェのトイレは、一番奥にある。
ノブに手を掛けた時、中から悲鳴みたいな声が聞こえた。
「ああっ、そこ。もうだめえ」
キミの叫び声に驚いて、俺は扉を開けようとしたが、鍵がかかっていた。
「あっ、あっ、あっ。すごい。大きいの気持ちぃい」
今度ははっきりとキミの言葉が聞こえた。
悲鳴みたいと思った声は、欲情に濡れ、どんなにぶい俺でも中で何が起こっているか悟った。
「てめえから誘ったんだろ。これくらいでへばるなよ」
そういう真司さんの声もいつもより低くかすれていた。
その声を聴いた途端、俺の下半身がずんと重くなった。
「あっ、だってぇ。最近、真司、春ばっかり可愛がって全然かまってくんないんだもん」
「うるせえんだよ。ちょっと黙れ」
そう言うと後は、キミの甲高い喘ぎ声しか聞こえなくなった。
俺は体をぶるっと震わすと、くるりと背を向けた。
「ちょっと、春君どこ行くの?」
焦った葛見さんの声を無視して、俺は駅まで猛ダッシュした。
閉まりそうな電車の扉にぎりぎりで駆け込み、肩で息をした。すぐに背後で扉が閉まる。
息もまともにつけないくらい苦しかった。
扉に寄り掛かりながら、この苦しさは全力疾走のせいじゃないと自分でも分かっていた。
俺真司さんが好きなんだ。
あんな場面で気付くなんてどうかしているが、間違いなく俺はあの瞬間、真司さんの声に興奮し、キミの声に嫉妬していた。
好きと分かったとたんに失恋まで確定するなんて。
俺は口に苦い笑みを浮かべると、痛む胸を押さえながら、ネオンが煌めき始めた都会をぼんやり眺めた。
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