春に落ちる恋

まめ太郎

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 ここに来るようになってから、少しづつ皆のことが分かってきた。
 海と真司さんとキミは同い年らしく、俺より4歳年上の二十歳だった。
 キミは服飾の専門学生。海は日払いのバイトなどをしていて、真司さんは車の整備工場で働いているらしい。
 真司さんは両親を早くに亡くし、妹さんと二人で近くのアパートに住んでいると言っていた。

「お前さあ…」
 真司さんがビールを飲みながら言う。
 マスターはカウンターの奥で、たばこを吸っている。
「俺のこと好きなの?」
 俺は飲んでいたミルクを吹き出しそうになり、むせた。
 真司さんがカウンターに置いてあるグラスに水を入れて俺に差し出す。
「ありがとうございます」
 俺はそれを受け取りながら、礼を言った。
 水を飲んで一息ついた俺は、こちらを見つめる真司さんと目を合わせる余裕もなくうつむきながら話した。
「正直…よくわかりません。人を好きになったこと、ないし」
 周りの男子が、初恋だ彼女だと騒ぐのを見ても、俺は同じような気持ちになれなかった。
 中学の時、告白してくれたクラスメイトの女の子と付き合ったことがある。いい子だとは思ったが、それ以上に心動かされなくて、結局すぐに別れてしまった。
「俺、ゲイなんでしょうか?」
 真司さん以外の男性にときめいたことはないが、確かに真司さんに惹かれている自分がいて思わずそう呟いた。
「俺に聞くなよ」
 真司さんが豪快に笑う。
「俺好きとかよくわかんないけど…真司さんのことはかっこいいと思います」
 顔を赤くしてそう言うと、俺の頭を真司さんが軽く撫でた。
 驚いて顔を上げると、真司さんが今までにないくらい優しく微笑んでいた。

「ああ、課題明日までなんだよ。終わるかなあ」
 その時電話をかけていたキミが戻って来て、俺の隣に座った。
 真司さんは俺の頭からさりげなく手を離し、キミと会話を始める。 
 俺は先ほどの真司さんの笑顔に心臓を打ち抜かれ、キミに話しかけられるまで、ぼんやりと真司さんの整った横顔をずっと見つめていた。
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