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翌日、仕事用のスマホに着信が入った。
「はい」
「野々原さん?私、真美」
「真美ちゃん?」
俺は驚いて自席から立ち上がり、会議室に向かった。
「何でこの番号知ってるの?」
「この前貸してくれた本の間に、名刺挟まってた」
俺は本にしおりを挟んで読む習慣があるのだが、適当なものが見つからないときは自分の名刺で代用していた。それをそのまま渡してしまったんだろう。
「そうなんだ…。でもいきなり、なんで電話なんて…」
「お兄ちゃんから聞いた。もう野々原さんがお見舞いに来ないって」
俺は真美ちゃんの言葉に息をのんだ。
「怒ってるんじゃないよ。ただ、この前、私が急に体調悪くしちゃったから、野々原さん気にしたのかなって…」
「そういうんじゃないよ。ちょっと俺も仕事が忙しくて」
俺は歯切れ悪くそう言った。
「ねえ、野々原さん」
真美ちゃんの声音は真剣だった。
「私には二度と会わなくてもいい。だけど、お兄ちゃんのことは見捨てないで」
「見捨てるなんて」
「お兄ちゃんね。たぶん、友達、野々原さんしかいないと思う。私分かるもん」
そこまで話すと、真美ちゃんは苦し気に息を吐いた。
「私、お兄ちゃんがあんな笑ったの久々に見た」
「俺がいるから笑ったんじゃないよ。真美ちゃんが笑ってるのが嬉しくて」
「違う」
真美ちゃんが叫ぶ。
「違うよ、野々原さん。お兄ちゃんすごく優しい目で野々原さんのこと見てた。お兄ちゃんにとって野々原さんは特別なんだよ。だから、お願い…」
電話越しに走ってくる足音が複数聞こえる。
「真美ちゃん」
俺はその名前を懸命に呼んだが、電話は切れた。
真美ちゃんは大丈夫なんだろうか。
俺はそこに答えがあるかのように、暗いスマホ画面をずっと見つめていた。
「はい」
「野々原さん?私、真美」
「真美ちゃん?」
俺は驚いて自席から立ち上がり、会議室に向かった。
「何でこの番号知ってるの?」
「この前貸してくれた本の間に、名刺挟まってた」
俺は本にしおりを挟んで読む習慣があるのだが、適当なものが見つからないときは自分の名刺で代用していた。それをそのまま渡してしまったんだろう。
「そうなんだ…。でもいきなり、なんで電話なんて…」
「お兄ちゃんから聞いた。もう野々原さんがお見舞いに来ないって」
俺は真美ちゃんの言葉に息をのんだ。
「怒ってるんじゃないよ。ただ、この前、私が急に体調悪くしちゃったから、野々原さん気にしたのかなって…」
「そういうんじゃないよ。ちょっと俺も仕事が忙しくて」
俺は歯切れ悪くそう言った。
「ねえ、野々原さん」
真美ちゃんの声音は真剣だった。
「私には二度と会わなくてもいい。だけど、お兄ちゃんのことは見捨てないで」
「見捨てるなんて」
「お兄ちゃんね。たぶん、友達、野々原さんしかいないと思う。私分かるもん」
そこまで話すと、真美ちゃんは苦し気に息を吐いた。
「私、お兄ちゃんがあんな笑ったの久々に見た」
「俺がいるから笑ったんじゃないよ。真美ちゃんが笑ってるのが嬉しくて」
「違う」
真美ちゃんが叫ぶ。
「違うよ、野々原さん。お兄ちゃんすごく優しい目で野々原さんのこと見てた。お兄ちゃんにとって野々原さんは特別なんだよ。だから、お願い…」
電話越しに走ってくる足音が複数聞こえる。
「真美ちゃん」
俺はその名前を懸命に呼んだが、電話は切れた。
真美ちゃんは大丈夫なんだろうか。
俺はそこに答えがあるかのように、暗いスマホ画面をずっと見つめていた。
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