春に落ちる恋

まめ太郎

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 夕方、先ほどの電話がどうしても気になり、取引先とアポがあると嘘をつき、病院に向かった。
 病院の入口で、外に出る真司さんとすれ違う。
 俺はその二の腕をとっさに掴んだ。
 顔を上げた真司さんの両目は赤く充血していた。
 どう見ても泣いていたという表情に、最悪な想像がよぎる。

「どうした?春」
「真美ちゃん、大丈夫なの?」
 真司さんは歩道脇のベンチに俺を座らせ、隣に座った。
「ああ、またちょっと体調悪くしてな。でもなんでお前がそんな事知ってるんだ?」
 俺は昼間真美ちゃんから電話があったことを真司さんに話した。
 真司さんの表情が険しくなる。
「そうか。迷惑かけたな。すまない」 
「ううん」
 真司さんははあっと息を吐いた。
「今日、あいつの具合が悪くなったのは、春へ電話したせいじゃないよ。もとから、いつ死んでもおかしくないって、医者から言われてるんだ」
 その言葉に俺は真司さんを見た。
「この前みたいに危篤状態に陥るのも、増えてきたし。……もう、だめなのかもな」
 真司さんが両手で顔を覆った。
 俺はかけるべき言葉が見つからず、ただ俯いた。

 真司さんが両手を外し、作った笑みを俺に浮かべた。
「ごめんな。なんでか、お前には何でも話しちまう。甘えてんのかな」
 そう言って真司さんが「はは」と力なく笑う。

「無理して笑わないでよ」
「えっ」
「無理して笑われたら、慰めることだってできないじゃん」
 俺の言葉に真司さんがくしゃりと顔を歪めた。
 声あげ、泣きながら俺を抱きしめる。
 俺は肩を貸しながら、少しだけ一緒に泣いた。

 ようやく落ち着いた真司さんは気まずげに「ありがとな」とだけ言った。
 俺は頷くと「行くね」と立ち上がる。
「ああ、春。悪い。電話番号だけ教えてくれないか。もし、真美からまた連絡が着たら教えて欲しいんだ」
 そう言われて、一瞬躊躇したものの、俺はプライベート用のスマホの番号を真司さんに伝えた。

「じゃあ、仕事抜けてきたから」
「ああ」
 俺が少し歩いて、振り返ると、真司さんはまだそこに佇み、俺と目が合うと手を振った。
 俺は軽く会釈すると、駅までの道のりを急いだ。
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