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少し先に止めてあった将仁さんの車の助手席に乗せてもらう。
「お前が走って追いかけてくるのに気付いたから、慌てて車を止めた。二度とあんなことするなよ」
将仁さんに釘を刺され、俺は小さく頷いた。
ぐすぐすと鼻をすすり上げる俺に「ティッシュ使え」と将仁さんが言う。
車が静かに走り出した。
「これから仕事ですか?」
鼻をかむと、俺はスーツ姿の将仁さんを見ながら尋ねた。
「いや、今日はこれから直帰」
「あの、少しでいいから話せませんか?」
「疲れてるんだ」
将仁さんはきっぱりとそう言った。確かに疲れているのだろう。運転席に座る将仁さんの顔色がいつもより青白い。
「寝てくださって、構いません。俺、起きるまでずっと待ってます」
しつこいとは思ったが、俺は引くつもりはなかった。将仁さんが目頭を揉みながら、ため息をつく。
「分かった。話、聞く。俺のマンションでいいか?」
俺はこくりと頷いた。
車内が沈黙で満ちる。
俺は将仁さんがいない支店のこと、大きな契約を一人で締結させたこと、たくさん将仁さんに話したいことはあるのにどれも言葉にならなかった。
せめて一番大切なことはちゃんと伝えたい。
俺は息を吐くと、将仁さんに一体どこからどう話せばいいのか考え始めた。
部屋に入ると、将仁さんは大きく窓を開けた。
「少し寒いかもしれないが、我慢してくれ。最近家に帰ってなかったから、空気がこもってな」
「会社に寝泊まりしてたんですか?」
「そういう日もあった。あとは近くのビジネスホテルに泊まったり」
将仁さんがキッチンに向かうと、「紅茶でいいだろ?」と俺に聞いた。
「俺、やりますよ」
「いや、いい」
そう言われ、俺はソファに座り直した。
将仁さんが窓を閉め、エアコンをつけると、俺の前に香り高い飲み物を置いた。
俺の好きなアールグレイだった。
その気遣いだけで涙が出そうなほど嬉しくて、俺は潤んだ瞳で紅茶に息を吹きかけ、ゆっくり飲んだ。
ほっと息を吐く。
「それで、話って?」
そんな俺を横目に見ながら、同じソファの少し離れたところに将仁さんが座った。
俺は真剣な表情になると、将仁さんの目をしっかりと見据えた。
「聞いてください。俺…」
「お前が走って追いかけてくるのに気付いたから、慌てて車を止めた。二度とあんなことするなよ」
将仁さんに釘を刺され、俺は小さく頷いた。
ぐすぐすと鼻をすすり上げる俺に「ティッシュ使え」と将仁さんが言う。
車が静かに走り出した。
「これから仕事ですか?」
鼻をかむと、俺はスーツ姿の将仁さんを見ながら尋ねた。
「いや、今日はこれから直帰」
「あの、少しでいいから話せませんか?」
「疲れてるんだ」
将仁さんはきっぱりとそう言った。確かに疲れているのだろう。運転席に座る将仁さんの顔色がいつもより青白い。
「寝てくださって、構いません。俺、起きるまでずっと待ってます」
しつこいとは思ったが、俺は引くつもりはなかった。将仁さんが目頭を揉みながら、ため息をつく。
「分かった。話、聞く。俺のマンションでいいか?」
俺はこくりと頷いた。
車内が沈黙で満ちる。
俺は将仁さんがいない支店のこと、大きな契約を一人で締結させたこと、たくさん将仁さんに話したいことはあるのにどれも言葉にならなかった。
せめて一番大切なことはちゃんと伝えたい。
俺は息を吐くと、将仁さんに一体どこからどう話せばいいのか考え始めた。
部屋に入ると、将仁さんは大きく窓を開けた。
「少し寒いかもしれないが、我慢してくれ。最近家に帰ってなかったから、空気がこもってな」
「会社に寝泊まりしてたんですか?」
「そういう日もあった。あとは近くのビジネスホテルに泊まったり」
将仁さんがキッチンに向かうと、「紅茶でいいだろ?」と俺に聞いた。
「俺、やりますよ」
「いや、いい」
そう言われ、俺はソファに座り直した。
将仁さんが窓を閉め、エアコンをつけると、俺の前に香り高い飲み物を置いた。
俺の好きなアールグレイだった。
その気遣いだけで涙が出そうなほど嬉しくて、俺は潤んだ瞳で紅茶に息を吹きかけ、ゆっくり飲んだ。
ほっと息を吐く。
「それで、話って?」
そんな俺を横目に見ながら、同じソファの少し離れたところに将仁さんが座った。
俺は真剣な表情になると、将仁さんの目をしっかりと見据えた。
「聞いてください。俺…」
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