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64 地獄の音楽

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「え?うそ!?」

 びっくりして頬杖をつくのをやめて立ち上がった優奈の手を取った心菜は、ものすごく綺麗ににこっと笑った。

「ね、ねえ、ここなー。マジでやるの?わ、私、必要なくない!?」
「まあまあそう言わず」
「え、いや、ちょっ、」
「レッツゴー!!」

 トコトコ陽気に歩く心菜を、クラスメイトは少しだけ唖然とした瞳で見つめた。

「うげー、た、助けてー………」

 後ろから優奈が、潰れて干からびた蛙のような情けない声を出していたのは、気がつかなかったふりをする心菜だった。
 音楽を教えてもらう先生、立花は存外すぐに見つかった。というか、同じクラス内にいるのに見つからないという事態が起こったら、その方が不思議だろう。心菜は早速彼の肩をトントンと叩き、やっほーと手を振った。

「ん?お、久遠じゃん。どうした?」
「音楽教えてー」
「え?」

 素直に驚いた声を上げる立花に、心菜は直角に頭を下げた。

「音楽がマジで、本気で、ガチで、やばいくらいに分からないから、教えてください!!ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします!!」
「いやいや、それは分かった。けどなんで?」

 不思議そうに首を傾げる立花に、心菜は優奈の方を一瞬見ながら、直球なお返事をすることにした。ちなみに、優奈は今なぜか乙女モードで大人しくなっている。なんというか、好きな男子の前でいつもメスゴリラをしているのにも関わらず、なぜかこういう場面でだけ好きな男の子の前で塩らしい乙女をするのか、心菜には綺麗さっぱり意味が分からない。

「ゆーなちゃんが立花が音楽が得意だって言ったから」
「………おい、高梨。後で話がある」
「うっ、」

 短い悲鳴をあげた優奈に首を傾げながらも、心菜は追い討ちをかける。

「それで?教えてくれるの?くれないの?」
「はあー、………教えるよ。教えればいいんでしょ?」

 頭をかきながら嫌そうに返事をした立花に、心菜はにこっと笑った。

「ありがとう」

 こうして行われた音楽勉強会は、心菜の音楽におけるあまりの才能のなさに周囲が絶句し、そして心菜はもう音楽を頑張るなと言われてしまった。

(解せないわ)

 どうしても音楽の成績を5にしたい心菜は、この後、自室にて自主練を頑張り、家中に不協和音を流しまくり、弟と大喧嘩を起こしたというのは、また別のお話だ。

「もう!どうして上手にできないのー!!」

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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