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131 優奈と立花

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 優奈はゆっくりとした仕草で、熱い吐息を吐きながら時折意味不明な猫語をこぼす心菜を、立花の背中へと移した。

「落としたら承知しないからね?」
「わかってる」

 4階の階段の目の前で心菜を受け取った立花は、心菜が落ちないように注意を払って1段1段踏み締めるように階段を降り始めた。落としてはいけないという恐怖心のような迫り来る感情に、寒くなってきたのにも関わらず、背中にじっとりと汗をかいてしまう。

「ねえ、立花。私、あんたのこと好きだったんだよ」
「………今、それ必要か?」

 集中力を切らしたくなくて、重要なことを話そうとする優奈に立花は半眼を向けてしまう。

「う~ん、今だから話そうかな~って思って」
「………過去形っていうことは、もう俺には興味ないんだろう?」
「そこそこね~」

 適当な返事を聞きながら、立花は3階に降り立った。

「俺とお前は親友だよ」
「悪友の間違いでしょう?」
「そうかもな」

 ーーーたんっ、

 やけに階段1段を降りる音が大きく響いて、立花はすっと視線を上げた。2階の端にある廊下の窓際。2年生の頃に、心菜がまだ自分達のグループにいなかった頃に、よくたむろっていた場所だ。
 ここで1度だけ、2年生の終わりに1度だけ、立花は見てはいけないものを見てしまった記憶がある。だからこそ、ここ最近は、その話を聞いたここにはできるだけ来ないようにしていた。

『私、立花が好きなんだ。ねえ、協力してよ。みんな』
(俺以外のみんなに、あいつは相談していたっけな)

 あの場には確か、有栖川、新谷、門川がいたはずだ。
 立花以外のいつもいるメンバーが揃っている、あの場で優奈は『立花が好きだ』と断言していた。男前な女だとは思っていたが、
正直に言って、ここまで男前に宣言するとは思っていなかった立花は、ついついそれから1週間くらい、優奈と目線を合わせずらかったのを、立花は今でもはっきりと覚えている。

「………ここなはね、恋が大っ嫌いなの」
「………意外だな。お花畑の幼馴染なのに」
「お花畑って誰のことっ!?」

 すっと肩をすくめて、苦笑する。

「………久遠と関わるなって言いたいのか?」
「違う」
「じゃあ、俺にこいつを好きになるなって言いたいのか?安心しろ。こいつはお前同様俺の“悪友”だ」

 悪役さながらの笑みを浮かべて、立花は自信満々に言う。

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読んでいただきありがとうございます😊😊😊

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