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「ん?何か言ったか?」

 揺尾は怪訝そうであり、不思議そうな表情で雅楽に問いかけた。

「……空耳ではないかしら?」

 雅楽はあっけらかんと無表情で言い切った。

 宙に浮かんだ本たちはそんな雅楽の味方をするようにふわりふわりと浮かんでいた。

「……お前たちは我の味方をするべきではないのか?」

 彼らがあるじたる揺尾はそんな彼らの行動が気に入らないようだ。
 不機嫌そうに彼の大きくてもふもふの尻尾が揺れた。

「……さわりたい。」

 欲望に忠実な雅楽の呟きが『あやかし書堂』に響いた。

「触らせぬぞ!?」

「……………揺尾のどけち……。」

 そうだ!そうだー!!というかのようにまたもや本がふわふわと浮かんでは消えた。

「っ!」

 ぎっと揺尾に睨まれて雅楽の味方をしていた本達は『ぽんっ!!』と音を立てて消えてしまった。
 雅楽は味方がいなくなったことによって勝機が無くなったと判断したのか、気持ちきらきらしていた瞳をすっと元の氷のような色に戻して少し伏目になりながらその原因を作った揺尾を睨みつけた。

「……睨みつけたいのはこちらのはずなのだが?」

「そうでしょうか?私には分かりかねるわ。」

「そなたは本当にいい性格をしている……。」

「あら、それはどうもありがとう。」

 揺尾は堂々と溜め息を吐きながら引き攣った表情を雅楽に向けた。

「……まぁ、酷いお顔。」

 雅楽は小さな桜色の唇に色白のほっそりとした指を当てて驚いた顔を作った。

「……そなたはそんな作り物めいた表情しかできんのか?」

「……さぁ?私はあなたの言うその『作り物めいた表情』というのがそもそも分からないから答えられないわ。」

 雅楽は無表情と一切の感情の籠っていない声音で肩を器用にすくめて見せた。

「先程『表情を作ってあげているのだから』と言ったのはそなただったではないのか?」

 雅楽はたった数分前の会話で自分がまんまと墓穴を掘ってしまっていたことに気がついた。
 揚げ足を取られたことに対して盛大に舌打ちをしてしまいたいのを必死に堪えて、雅楽は蕩けるように美しい慎ましやかな微笑みを浮かべた。あわよくば、“この笑みで全てを忘れ去って何事もなかったかのように流されてはくれないかしら”というささやかというには大層な願いを持ちながら……。

「……はぁ……、今回ばかりはそなたの見え見えな魂胆に流されてやろう。」

 じとーっとした視線を寄越しながらも雅楽に興味を持っている揺尾は不本意ながらも雅楽に折れてあげた。

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読んでいただきありがとうございます♪😊!

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