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外堀から埋められていく?
戦いのゴングは鳴った
しおりを挟む翌朝…気だるい感じで目覚めた私は、ベッドの上で肩をポキポキと鳴らしていた。
年齢は取りたくないものね…昨夜の夜会が余程堪えたのかしら、身体が今一つしゃんとしない。
「お早う御座いますアン様、あら…お疲れの様に御座いますね」
そう言いながらクレアは、カーテンを開けてお茶を淹れてくれた。
それから彼女は何か思い出したように私室へと下がり、直ぐに寝室へと入ってくる――――淡いピンクの薔薇のしかも大きな花束を持って。
「如何したの…その花束?」
「姫様へ…と送り物ですって」
ふうんと淡い色合いの可愛い薔薇の花束を受け取ると、真ん中に深紅の薔薇が1輪…そしてカードが添えてある。
何ともなしに私はカードを開くと―――――っっ!?
『マイ・ディア
愛する貴女を想いつつ…朝露の含んだ薔薇を貴女へ
その薔薇の様な昨夜の貴女の装いが、今も忘れる事が出来ません。』
あ゛あ゛―――――っっ!!
思い出しましたわ…昨夜ね、昨夜。
悪いけど…今の今まで坊やの事等すっかり忘れてましたわよっっ!!
あー思いだすだけでも胸糞悪い…あら、いやですわね、少し下品な言葉遣いになってしまいましたわ。
でも…そのくらい私にとっては不快なのですから…。
「クレア…この花を処分…」
「え…処分ですか?」
あ…ふぅー…お花には罪はない…ものね。
私は溜息交じりに薔薇を見つめる。
そうなのよね…悔しいけどこの淡いピンク色の薔薇は、私の好みなのですもの。
それに薔薇にだって命はある――――。
命あるものを無下には出来ない…。
「いえ…薔薇を活けておいて頂戴、せっかく綺麗に咲いているもの…ね」
「そうですよ…さぁお支度をしましょうアン様」
ベッドより出てクレアに手伝って貰いながら支度をし、朝食を済ませる。
そして私は外出着へと着替え…用意された馬車へと乗りこんた――――っっ!?
「――――何故…貴方がここにいるのかしらっっ!?」
王室専用では目に付くから…とお母様の生家であるイリージェ侯爵家の馬車を態態お借りしていたのだ。
しかもこの馬車を使用するのは私だけ…なのに…如何して公爵がここにいるのっっ!!
「そんな怖い瞳…私にとっては可愛らしい瞳なんだけど、見つめないで欲しいね。如何して私が…と言いたげだね、私でなくとも…王族の予定等幾らでも手に取るようにわかるのだよ。そして貴女がこの馬車を使用する時は孤児院への慰問…だ」
公爵は悪戯っぽく答える…けど、それが何気に腹立たしい。
「…そうですわ、これはお遊びではないのです。だから――――」
「私も一緒に行く。私の所領にも孤児院を作っていてね、度々慰問に入っているのだよ。それに幼い子達へのお土産も用意してある…貴女はそれを台無しにさせるのかな? いや…優しい貴女には出来ない事だね」
そう言ってクスクスと笑っていたくご機嫌だ。
私は勿論――――不機嫌極まりない…けれど、可愛いあの子達の喜ぶ顔には負けてしまう。
「では…ご一緒に度ぞ公爵」
つん…とそっぽ向いてしまう。
もう娘時代は終わったと言うのに…どうかしている私は…こんなに感情的になるなんて。
何時もの私ではない…きっとこの公爵の所為だわ、この坊やが私の心を乱してしまうのよ…そうに決まっている。
それにしても意外だわ…この遊び人の坊やが孤児院を作っている…なんて。
そうして私達は町外れにある孤児院へと訪問し、私が用意したお菓子やノートにペン等よりも公爵は更に2倍多い量とそして寄付を行った。
「あ…アンさま、何時ものお話を聞かせてっっ!」
「アンさまー抱っこしてっっ」
子供達は口々に自分達にして欲しい事を言ってくる。
それだけ実の親からの愛情を受け取れなかったのであろう…可哀相な、そして愛しい子供達。
私は公爵と共に来ている事をしっかり記憶の断片より追い出して、何時もの様に時間の許すまで子供達と一緒に過ごす。
少しでも愛情というものを感じて欲しいから…。
そして私には出来なかった実の子供の様に愛情を与える楽しみが、孤児院にはあったのだ。
ここにいれば王女という仮面は必要ないもの…ただのアンをこの子達は必要としてくれるのだから…。
そうして何時もの事ながら、この楽しい時間はあっという間に過ぎて行く。
夕暮れになり、私はただのアンからこの国の王女へと戻る時間だ。
「院長様…近いうちにまた参りますわ、何かあれば直ぐに連絡をして下さいませ」
「何時もの事ながらアン様にはお心遣い感謝しております。ご公務もお忙しいと承っておりますのに…どうぞご無理をなさらないで下さいませ」
院長は60代のややふくよかな女性。
昔は王宮にも侍女として努めていたのだが、自身の子を亡くしてから一念発起し、この孤児院を開いたのだ。
勿論そこにもアンは関与していたのだが…。
そうして2人はまた馬車へと乗り込んだ。
暫くして少し疲れたのだろう…か、彼女は心地良く馬車に揺られながら、うとうとと眠ってしまっていた。
そしてこんな機会を公爵は逃すつもりはなかったのは言うまでもない…。
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