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第一話 白い結婚と眠り死病
14 素敵なダンスと新しい愛妾に胸のに感じたチクリとした痛み?
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「王妃、一曲お相手願えないだろうか?」
「はい、ですが陛下は遠征よりお戻りになったばかり……。舞踏会直前まで政務に追われていらしたとか、どうか少しはお身体を厭うて下さいませ。ダンスならばお疲れでない時に何時でも出来ましょうに……」
雛壇上でクリスより手を差し伸べられるもアレクサは、夫が疲れているのではないのかと思うと、素直にその大きな手の上に自身の手を重ねる事を躊躇われた。
愛情こそはないが形だけでも2人は夫婦。
然もアレクサは夫よりも年上。
相手が疲れている時こそ心配りをしなくてはと思うアレクサだったが……。
そんなアレクサの躊躇っている手をクリスはギュッと力強く握りしめると有無も言わさず、ぐいっと彼女を自身の腕の中へやや強引に引き寄せる。
これに吃驚したのは当然アレクサだ。
何時も2人の間には適切な距離というものがあり、そう言うなれば親しき仲にも礼儀あり!!
真実の夫婦でないのだからこそ、程良い距離というものがアレクサを安心させていた。
そうして突如クリスの腕の中に引き寄せられ小動物の様にわたわたと慌てふためくアレクサへ、彼は彼女の耳元にそっと熱を含んだ声で囁く。
「遠征や政務で疲れていようともそれが貴女とのダンスを断る理由にはならない、どうか心優しき王妃よ、私の数少ない愉しみをどうか奪わないでおくれ」
「あっ、あ、は、はいっ、わ、分かりましたから……」
どうか今直ぐ私を開放して下さいっっ!!
この年齢になるまでほぼほぼ生身の男に対して免疫のないアレクサからすれば、この過度な密着はかなり精神的にきつい。
それなのに現状を受け入れ難いアレクサの腰をしっかりとホールドしたままクリスはホール中央まで彼女を誘い、右手を軽く上げると音楽が奏でられ、そうして2人きりのファーストダンスが始まった。
今夜のアレクサの衣装は淡いパステルブルーの絹に薄い銀の薄絹を重ね、銀糸で小花の刺繍を施し、首より襟ぐりに掛けて花模様のレースをあしらい、袖は可愛いパフ・スリーブ、そして長いトレーンをひいたドレス。
その両腕にはやや青みがかった薄絹に、金色の刺繍を施されたショール身につけている。
彼女の素顔を隠す白いベールには、正妃だけに許された色取り取りの宝石が嵌め込まれた冠が載せられている。
そして凛とした佇まいが素顔の見えないアレクサを、より一層際立たせている事を彼女自身は気付かない。
一方クリスは鮮やかな赤い生地に金色の刺繍や幾つもの勲章の付いた軍服に、下は白いブリーチズ、そしてピカピカに磨かれた黒のブーツそして白地に金色で見事な鳳凰の刺繍が施してあるマントをを羽織っている。
きっちりとした詰襟の軍服は、ただでさえ長身で男らしい体躯の彼をこれ以上ないくらい際立たせ、備え付けの美しい顔と言い、無駄に色香を撒き散らしていた。
また、そんな彼の姿に既婚未婚を問わず女性達は、連れの男性の存在を忘れたかのように甘い溜息を漏らす。
そしてクリスが無自覚に放つ壮絶な色香に惑わされていないのは、恐らくこの舞踏会内ではその彼の腕の中にいるアレクサただ1人だけだろう。
音楽に身を委ね、クリスは右手でアレクサの手を取ると左手で彼女の腰を抱き寄せ、衆人環視の中で優雅にダンスを踊り始める。
彼のリードはやや強引だけれど、アレクサにとっては軽やかにリードをしてくれる彼とのダンスは、この仮面夫婦生活の中で唯一楽しいものであった。
そうして楽しいダンスが終わりを迎える頃、クリスは彼女の耳元でそっとある事を告げる。
耳元で囁かれたアレクサは一瞬表情を固まらせたが、直ぐに笑みを浮かべて「わかりました」と小さな声で返答する。
ダンスを終えた2人はそれぞれ招待した貴族、そして武勲をあげた騎士達と歓談をする為に分かれて行く。
そう、彼が囁いた言葉とは……。
数日後、新たに2人愛妾となる娘が後宮に入る事になった。
それは彼女が王妃となって初めて迎える愛妾でもあった。
夫を愛してはいないけれども、こうして新たに女性を迎える事に対してアレクサは正直何とも複雑な気分になる。
想いがなくとも何か、そう何かが彼女の胸をチクリと刺すものを感じてしまった。
本当に微々たるものなのだが……。
それが何を意味するのかアレクサにはわからない。
妻としての誇りを傷つけられた?
いや、元々彼を愛して等いないし、今更愛されたくもない。
それともアデイラードの様な傲岸不遜な女性がまた来るのであろうか?
これ以上後宮へあまり関与したくもないのだが、放っておくとアデイラードが我が物顔で後宮を牛耳るらしい故、正妃として放っておく訳にはいかない。
クリスが一体何を考え、何をしたいのかはわからない。
また面倒な事にならなければいいのだけれど……。
そう思うとアレクサは他に貴族達に気付かれない様小さく嘆息する。
はぁ、本当にもう離婚したい!!
何時まで……本当に何時まで私はこのブランカフォルトにいればいいのっっ!?
「はい、ですが陛下は遠征よりお戻りになったばかり……。舞踏会直前まで政務に追われていらしたとか、どうか少しはお身体を厭うて下さいませ。ダンスならばお疲れでない時に何時でも出来ましょうに……」
雛壇上でクリスより手を差し伸べられるもアレクサは、夫が疲れているのではないのかと思うと、素直にその大きな手の上に自身の手を重ねる事を躊躇われた。
愛情こそはないが形だけでも2人は夫婦。
然もアレクサは夫よりも年上。
相手が疲れている時こそ心配りをしなくてはと思うアレクサだったが……。
そんなアレクサの躊躇っている手をクリスはギュッと力強く握りしめると有無も言わさず、ぐいっと彼女を自身の腕の中へやや強引に引き寄せる。
これに吃驚したのは当然アレクサだ。
何時も2人の間には適切な距離というものがあり、そう言うなれば親しき仲にも礼儀あり!!
真実の夫婦でないのだからこそ、程良い距離というものがアレクサを安心させていた。
そうして突如クリスの腕の中に引き寄せられ小動物の様にわたわたと慌てふためくアレクサへ、彼は彼女の耳元にそっと熱を含んだ声で囁く。
「遠征や政務で疲れていようともそれが貴女とのダンスを断る理由にはならない、どうか心優しき王妃よ、私の数少ない愉しみをどうか奪わないでおくれ」
「あっ、あ、は、はいっ、わ、分かりましたから……」
どうか今直ぐ私を開放して下さいっっ!!
この年齢になるまでほぼほぼ生身の男に対して免疫のないアレクサからすれば、この過度な密着はかなり精神的にきつい。
それなのに現状を受け入れ難いアレクサの腰をしっかりとホールドしたままクリスはホール中央まで彼女を誘い、右手を軽く上げると音楽が奏でられ、そうして2人きりのファーストダンスが始まった。
今夜のアレクサの衣装は淡いパステルブルーの絹に薄い銀の薄絹を重ね、銀糸で小花の刺繍を施し、首より襟ぐりに掛けて花模様のレースをあしらい、袖は可愛いパフ・スリーブ、そして長いトレーンをひいたドレス。
その両腕にはやや青みがかった薄絹に、金色の刺繍を施されたショール身につけている。
彼女の素顔を隠す白いベールには、正妃だけに許された色取り取りの宝石が嵌め込まれた冠が載せられている。
そして凛とした佇まいが素顔の見えないアレクサを、より一層際立たせている事を彼女自身は気付かない。
一方クリスは鮮やかな赤い生地に金色の刺繍や幾つもの勲章の付いた軍服に、下は白いブリーチズ、そしてピカピカに磨かれた黒のブーツそして白地に金色で見事な鳳凰の刺繍が施してあるマントをを羽織っている。
きっちりとした詰襟の軍服は、ただでさえ長身で男らしい体躯の彼をこれ以上ないくらい際立たせ、備え付けの美しい顔と言い、無駄に色香を撒き散らしていた。
また、そんな彼の姿に既婚未婚を問わず女性達は、連れの男性の存在を忘れたかのように甘い溜息を漏らす。
そしてクリスが無自覚に放つ壮絶な色香に惑わされていないのは、恐らくこの舞踏会内ではその彼の腕の中にいるアレクサただ1人だけだろう。
音楽に身を委ね、クリスは右手でアレクサの手を取ると左手で彼女の腰を抱き寄せ、衆人環視の中で優雅にダンスを踊り始める。
彼のリードはやや強引だけれど、アレクサにとっては軽やかにリードをしてくれる彼とのダンスは、この仮面夫婦生活の中で唯一楽しいものであった。
そうして楽しいダンスが終わりを迎える頃、クリスは彼女の耳元でそっとある事を告げる。
耳元で囁かれたアレクサは一瞬表情を固まらせたが、直ぐに笑みを浮かべて「わかりました」と小さな声で返答する。
ダンスを終えた2人はそれぞれ招待した貴族、そして武勲をあげた騎士達と歓談をする為に分かれて行く。
そう、彼が囁いた言葉とは……。
数日後、新たに2人愛妾となる娘が後宮に入る事になった。
それは彼女が王妃となって初めて迎える愛妾でもあった。
夫を愛してはいないけれども、こうして新たに女性を迎える事に対してアレクサは正直何とも複雑な気分になる。
想いがなくとも何か、そう何かが彼女の胸をチクリと刺すものを感じてしまった。
本当に微々たるものなのだが……。
それが何を意味するのかアレクサにはわからない。
妻としての誇りを傷つけられた?
いや、元々彼を愛して等いないし、今更愛されたくもない。
それともアデイラードの様な傲岸不遜な女性がまた来るのであろうか?
これ以上後宮へあまり関与したくもないのだが、放っておくとアデイラードが我が物顔で後宮を牛耳るらしい故、正妃として放っておく訳にはいかない。
クリスが一体何を考え、何をしたいのかはわからない。
また面倒な事にならなければいいのだけれど……。
そう思うとアレクサは他に貴族達に気付かれない様小さく嘆息する。
はぁ、本当にもう離婚したい!!
何時まで……本当に何時まで私はこのブランカフォルトにいればいいのっっ!?
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