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第二話  聖魔導師ディアナを巡る恋の予感

4  恋する医師、レオンの苦悩

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「お疲れ様、今日も大変だったな」
「ふふ、ありがとうレオン」

 レオンは診察が終わり疲れているだろうディアナへ、何時も冷たいレモネードを用意する。
 テーブルの上にそっと置かれたレモネードを見たディアナは直ぐに表情を緩め、礼を言うと直ぐにカラカラだった喉へ冷たいそれをゆっくりと流し込む。
 レオンが作ってくれるレモネードは少し酸味強く、また蜂蜜の程良い甘さは疲れた身体を癒してくれる。
 そう、適度な労働の後に自分へとレオンが用意してくれる冷たいレモネードは、ディアナの身体だけでなく心まで癒してくれるのだ。

「もうっ、ディアナ先生ってばレオン先生のばかりじゃあなく、あたしの作ったサンドウィッチも摘まんでね。ほんっとレオン先生ってばディアナ先生ばーっかり働かせて、自分はほへ~っと暇そうに鼻の下伸ばしてディアナ先生ばかりみとれちゃってるんだもんねっっ」

 そう言ってネオラは隣にいるレオンの腰を肘でゴンと力一杯に突ついてみせる。

「お、おいネオラっ、俺はそ、そんな事してねぇって……」
「ふふ~ん、先生? このネオラ様のに勝てるって思ってんの?」
「千里眼とかいうか普通……」
「ちっちっ、ディアナ先生を見るレオン先生は、年甲斐もなく恋する少年まっしぐらだって!!」
「お、おいそんな事――――っっ!?」

 金色の髪に緑の瞳をした爽やかな長身のイケメンである36歳現在独身街道まっしぐらのレオンは、医療所の近所に住む街娘で、緑色の髪にオレンジ色の瞳をした14歳のネオラにただ今絶賛揶揄からかわれ、それ故なのか耳と言わず全身朱に染まっている。

 可笑しい!?
 誰にも気づかれない様にって、多分ディアナにも気付かれていない筈なのに如何どうして……???

「ふふん、男女の機微に聡いネオラ様を甘く見ないでよ。――――で、レオン先生はディアナ先生にちゃんと告白したの?」
「〰〰〰〰っっ!?」

 思案していたレオンへネオラの爆弾発言に、彼は思わず言葉を詰まらせる。

「はああぁぁぁ、そんなこっただろうと思ってたけれどね、それにしてもさぁ、あたしも面白くってこの2年近くずっと見てきたけれどつくづく先生ってばホントに――――だね」
「へっ、ヘタレ……」
「そうだよっ、大体さぁディアナ先生みたいな素敵な女性は普通男が放っておくもんかっっ!! 先生みたいに眺めているだけで満足していたらさ、その内先生よりもーっといい男がディアナ先生を嫁さんにって貰っちまうんだよっっ。大体それでなくっても医療所ここへ来る患者の男達の大半はさ、ディアナ先生目当てだって言うのに……」

 気付いてないのは先生と当の本人――――ディアナ先生だけだよ。

 22歳差、親子程の年下の小娘に痛い所をぐりぐりと思いっきり突かれたレオンは、窓際の椅子に腰掛け、自分が作ったレモネードを美味しそうに飲んでいる愛しい女性へ、想いを込めてじっと静かに見つめてしまう。

 そうネオラに言われるまでもなくレオンはディアナに恋をしている。
 それもかなり重症だ。
 ディアナの姿形も惚れる要素の一つだが、何と言ってもその美しい穢れのない心と、不意に向けてきては一瞬で自分の心を蕩かしてくれる極上の笑顔。
 またどんなに仕事で疲れていようともっ、ディアナの極上の笑顔を見ただけでたちまち元気になってしまう単純な自分。
 そして彼女のいない日常は何と味気なく砂を噛む日々であろう。
 仕事は真面目にしているとはいえ、ディアナがいるのといないのとでは雲泥の差なのだ。

 ディアナと知り合ってかれこれ3年半――――。
 そして彼女に恋をしていると自覚して3年くらい。
 レオンだとてその間何もしなかった訳じゃあない。
 36年も生きてきたのだ。
 それなりに付き合ってきた女性もいた。
 だから女性へのアプローチも心得ている心算つもりだが……結果は○戦全敗。
 何故かディアナはレオンが今まで付き合ったどの女性にも該当しない。
 どんなにアプローチをしてみても、彼女はそれを綺麗に、まるっと無視しているかのように気付いてくれないのだ!!

 そう、熱を孕んだ瞳で彼女を見つめても……。
 綺麗な花やプレゼント(給料の許せる範囲、だけど!!)を贈ってみても……。
 予期せぬチャンスで彼女が転倒しかけた時それを防ぎ、そして彼女を自身の腕の中へ閉じ込め熱く抱きしめた時も……。
 それにネオラに言われるまでもなくレオンはディアナへ告白もした。
 ちゃんとディアナへ『』と告げたのに、何故か彼女はその極上の微笑みを湛え……。

「私も好きですよ、このが……」

 何をしてもことごとくディアナは気付いてくれない。
 いや、自分を最早異性だと見てはくれていないのか!?
 そして恐ろしいまでに彼女は鈍感だとレオンは思う。

 たまに横でほざいているネオラの爪の垢でも多少呑ませてみてもいいのではないかと思ったりもするのだが、しかしそんな鈍感なところでさえも愛おしいと感じてしまう自分もかなり重傷だと、レオンは自嘲めいた笑みを浮かべた。
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