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第一部『ベッティオル皇国編』
アルフレード流のプロポーズ(2)
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立ち上がり、リタの手をおもむろに取るアルフレード。じっと見つめられ、リタは固まった。
「リタ、私と結婚してほしい」
「あ……」
「……あまり深く考えなくていい。婚約、結婚、といっても私たちの関係にそういう名前がつけられるだけでなにかが変わるわけじゃない。今の暮らしが変わることもない。安全が確認できたら帰省するのもいいだろう。リタを守るための見えない防壁が一つ二つ増えた。それくらいで考えればいい」
「ほ、本当に?」
「ああ。さっきも言ったが、ひとまず婚約して、事情が変われば解消することもできる。私はただの第二王子だからな。そういうのも可能だ」
「そ、そうなんだ。それなら……婚約か……婚約したら私がここに住んでいてもおかしくないもんね」
「ああ」
またああいう輩が突撃してきても、今回以上に堂々とやり返すことができる。
「大義名分を得る事ができるんだ」
「ああ、そういうことだ」
頷き合う二人。そんな二人をはらはらドキドキしながら見守る三人。リタはしばらくの間考えた後、一つ頷いた。
「うん。そういうことなら婚約……『あり』かも」
ここでの生活をリタは存外気に入っている。いずれはあの村に帰りたいという気持ちもあるけど、それは今じゃない。なら、ここにいる間だけでも婚約しておくのはありだ。アルフレードもその方が助かるだろう。好きだから、愛してるから、とか言われたら断っていたかもしれないが、アルフレードの言い方はそういうのではなかった。リタも納得できる内容だった。
「うん『あり』だ」
何度も頷くリタ。アルフレードの目がきらりと輝く。
「なら、まずは近いうちに私の家族に会ってみないか?」
「え?」
「さっきも話したが、皆リタに会いたいと言ってうるさいんだ。そのうちここに突撃してきそうでな。それなら、計画して会った方がマシだろう?」
「たしかに」
「王城に私たちが行くことにして、ついでに婚約の手続きや例の取引相手との顔合わせも済ませてしまおう」
例の取引相手と聞いて、ぴくりと反応する。
「もう見つかったの?」
「ああ。効果を試してもらったらぜひにと言っていた。値段は私で決められるが納品する量についてはリタが直接会って決めた方がいいだろう」
「うん」
「日程が決まり次第教える」
「うん。お願い」
にこやかに話を進める二人。その後ろで三人は歓喜に震える拳と今にも開きそうな唇をなんとか閉じて抑えていた。
一方、一部始終を見ていた精霊たちは自分たちの姿が人間に見えないのをいいことに、ひどい罵り合いを行っていた。
『ぷっぴぃ! なんで止めるのよ!』
『そうだそうだ! このままだと本当にリタがあの男の嫁になっちまうんだぞ?!』
ネロとロッソがぷっぴぃに捲し立てる。今にもアルフレードに飛びかかりそうな殺意マシマシの二人を抑えているのはマロンとアズーロ。
ロッソが舌打ちする。
『どうせ、あいつがイケメンだからだろ』
ぷっぴぃは鼻で笑った。
『見くびらないでよね』
『違うっていうの?』
ネロがぷっぴぃを睨みつける。けれど、ぷっぴぃは怯まない。
『もちろん。アタシがアルを気に入っているのは確かだけど。だからといって手放しで認めるわけないじゃん』
『じゃあ、なんでだよ』
『あんたたちだって本当はわかってるくせに。アルはリタを大事にしてくれる人よ』
『別に、これからそういう人が他にも現れるかもしれないじゃん』
『でも、今は他にいないでしょ。今、リタにそういう人間が必要なの』
『だ、だからといって、あんな常に女難の相を持っているような男をリタの夫にすることはねえだろ!』
『今日みたいなことが何度もあるかもしれないしね』
必死に言い返す二人。ぷっぴぃも彼らの言い分は認める。
『まあ、そうね。ネロのいうとおり、ああいう厄介なのはこれからも現れると思う。でも、リタは弱くない。あの程度の相手なら自分で追い返せる。実際、そうしてみせたでしょう』
『それは……』
『ああいう連中は懲りずにもっとあくどいことをしてくるわよ』
『その時は、アタシたちがリタを守ればいい』
『でも、私たちだって万能なわけじゃない』
『ええ。だからこそ、人間に任せるのよ』
『あんな男になにができるってんだよ……』
『少なくとも、今までアタシたちが見てきた男……人間たちよりはマシでしょ』
黙りこくる二人。ぷっぴぃは溜息をつく。
『一番の理由はリタがアルの申し出を受け入れたことよ。そうじゃなければ、いくら相手がアルだって邪魔したわ。あんたたちだって本当はわかってるでしょ。だから、リタを説得しようとはしないんじゃないの?』
『それは……』
再び黙る二人。ぷっぴぃは二人が口を開くのを待った。
最初に話し始めたのはネロ。
『わかったわよ。ただし! リタが嫌がるそぶりを見せたらすぐに動くわよ』
『お好きにどうぞ。で、ロッソは?』
『……俺もネロと同じ気持ち、とだけは言っておく』
『うん』
『じゃ、じゃあちょっと出てくるから』
『私も』
別々の方向に飛んで行くネロとロッソ。今度はマロンとアズーロも止めはしなかった。ぷっぴぃは何度目かわからない溜息を吐き出す。
『まったくもう。あいつらは過保護すぎるんだから。ねえ?』
ぷっぴぃの言葉に苦笑するマロンとアズーロ。過保護なのはぷっぴぃも変わらないだろうという言葉は吞み込んだ。結局、皆一緒なのだ。人間に裏切られ、失望し、やさぐれていた彼らの救いとなったリタ。皆彼女への特別な思いを抱き、自覚している。裏切られるかもしれない、という恐怖を抱えながらも、それでも愛さずにはいられない。きっと、それはリタと出会った時からずっと……。
「リタ、私と結婚してほしい」
「あ……」
「……あまり深く考えなくていい。婚約、結婚、といっても私たちの関係にそういう名前がつけられるだけでなにかが変わるわけじゃない。今の暮らしが変わることもない。安全が確認できたら帰省するのもいいだろう。リタを守るための見えない防壁が一つ二つ増えた。それくらいで考えればいい」
「ほ、本当に?」
「ああ。さっきも言ったが、ひとまず婚約して、事情が変われば解消することもできる。私はただの第二王子だからな。そういうのも可能だ」
「そ、そうなんだ。それなら……婚約か……婚約したら私がここに住んでいてもおかしくないもんね」
「ああ」
またああいう輩が突撃してきても、今回以上に堂々とやり返すことができる。
「大義名分を得る事ができるんだ」
「ああ、そういうことだ」
頷き合う二人。そんな二人をはらはらドキドキしながら見守る三人。リタはしばらくの間考えた後、一つ頷いた。
「うん。そういうことなら婚約……『あり』かも」
ここでの生活をリタは存外気に入っている。いずれはあの村に帰りたいという気持ちもあるけど、それは今じゃない。なら、ここにいる間だけでも婚約しておくのはありだ。アルフレードもその方が助かるだろう。好きだから、愛してるから、とか言われたら断っていたかもしれないが、アルフレードの言い方はそういうのではなかった。リタも納得できる内容だった。
「うん『あり』だ」
何度も頷くリタ。アルフレードの目がきらりと輝く。
「なら、まずは近いうちに私の家族に会ってみないか?」
「え?」
「さっきも話したが、皆リタに会いたいと言ってうるさいんだ。そのうちここに突撃してきそうでな。それなら、計画して会った方がマシだろう?」
「たしかに」
「王城に私たちが行くことにして、ついでに婚約の手続きや例の取引相手との顔合わせも済ませてしまおう」
例の取引相手と聞いて、ぴくりと反応する。
「もう見つかったの?」
「ああ。効果を試してもらったらぜひにと言っていた。値段は私で決められるが納品する量についてはリタが直接会って決めた方がいいだろう」
「うん」
「日程が決まり次第教える」
「うん。お願い」
にこやかに話を進める二人。その後ろで三人は歓喜に震える拳と今にも開きそうな唇をなんとか閉じて抑えていた。
一方、一部始終を見ていた精霊たちは自分たちの姿が人間に見えないのをいいことに、ひどい罵り合いを行っていた。
『ぷっぴぃ! なんで止めるのよ!』
『そうだそうだ! このままだと本当にリタがあの男の嫁になっちまうんだぞ?!』
ネロとロッソがぷっぴぃに捲し立てる。今にもアルフレードに飛びかかりそうな殺意マシマシの二人を抑えているのはマロンとアズーロ。
ロッソが舌打ちする。
『どうせ、あいつがイケメンだからだろ』
ぷっぴぃは鼻で笑った。
『見くびらないでよね』
『違うっていうの?』
ネロがぷっぴぃを睨みつける。けれど、ぷっぴぃは怯まない。
『もちろん。アタシがアルを気に入っているのは確かだけど。だからといって手放しで認めるわけないじゃん』
『じゃあ、なんでだよ』
『あんたたちだって本当はわかってるくせに。アルはリタを大事にしてくれる人よ』
『別に、これからそういう人が他にも現れるかもしれないじゃん』
『でも、今は他にいないでしょ。今、リタにそういう人間が必要なの』
『だ、だからといって、あんな常に女難の相を持っているような男をリタの夫にすることはねえだろ!』
『今日みたいなことが何度もあるかもしれないしね』
必死に言い返す二人。ぷっぴぃも彼らの言い分は認める。
『まあ、そうね。ネロのいうとおり、ああいう厄介なのはこれからも現れると思う。でも、リタは弱くない。あの程度の相手なら自分で追い返せる。実際、そうしてみせたでしょう』
『それは……』
『ああいう連中は懲りずにもっとあくどいことをしてくるわよ』
『その時は、アタシたちがリタを守ればいい』
『でも、私たちだって万能なわけじゃない』
『ええ。だからこそ、人間に任せるのよ』
『あんな男になにができるってんだよ……』
『少なくとも、今までアタシたちが見てきた男……人間たちよりはマシでしょ』
黙りこくる二人。ぷっぴぃは溜息をつく。
『一番の理由はリタがアルの申し出を受け入れたことよ。そうじゃなければ、いくら相手がアルだって邪魔したわ。あんたたちだって本当はわかってるでしょ。だから、リタを説得しようとはしないんじゃないの?』
『それは……』
再び黙る二人。ぷっぴぃは二人が口を開くのを待った。
最初に話し始めたのはネロ。
『わかったわよ。ただし! リタが嫌がるそぶりを見せたらすぐに動くわよ』
『お好きにどうぞ。で、ロッソは?』
『……俺もネロと同じ気持ち、とだけは言っておく』
『うん』
『じゃ、じゃあちょっと出てくるから』
『私も』
別々の方向に飛んで行くネロとロッソ。今度はマロンとアズーロも止めはしなかった。ぷっぴぃは何度目かわからない溜息を吐き出す。
『まったくもう。あいつらは過保護すぎるんだから。ねえ?』
ぷっぴぃの言葉に苦笑するマロンとアズーロ。過保護なのはぷっぴぃも変わらないだろうという言葉は吞み込んだ。結局、皆一緒なのだ。人間に裏切られ、失望し、やさぐれていた彼らの救いとなったリタ。皆彼女への特別な思いを抱き、自覚している。裏切られるかもしれない、という恐怖を抱えながらも、それでも愛さずにはいられない。きっと、それはリタと出会った時からずっと……。
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