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援助交際をしていた頃は、結構羽振りのいい人と付き合いがあったせいか、色々な経験をすることができた。
いい経験も、つらい思いもね。
あたしはお高いホテルにあるこれまたお高いレストランにいた。
煌びやかに輝く前菜とかテリーヌとかフォアグラの乗ったステーキとかを食べながら、目を輝かせて、「おいしい!」とか「こんなの初めて食べた!」とわざとらしく喜んだ。
こうやって、デート相手の自尊心や承認欲求を満たしてあげるのがあたしの役目だった。
向かいの席に座るのは、蛇みたいな狡猾そうな顔をした弁護士さん。
顔は怖いけど、頭が良くて話し上手、楽しく過ごせる相手ではあった。
とにかく羽振りが良くて、その日あたしが着ていた黒いワンピースも、アクセサリーも靴も、全部この蛇弁護士に買ってもらったものだ。
ちなみに既婚者で、あたしと同い年の子どもがいる。
デザートの苺とホワイトチョコのムースを食べてコーヒーを飲み終えたら、蛇弁護士が予約してくれていたスイートルームへ二人で向かった。
蛇弁護士はあたしの腰に手を回して、身体を密着させるように歩いた。
なんで幸せそうな家庭があるのに、あたしを抱くのか不思議で仕方がない。
でも本人は家庭に満足できていないらしくて、いつも寂しい寂しいと言っていた。
どうやら奥さんも娘さんも、彼の男性的承認欲求を満たしてあげることができていないみたい。
蛇弁護士とのセックスはすごくゆっくり進む。
指先であたしの肌をゆっくり優しく触れてきて、軽い羽根でくすぐられているみたいで不思議な気持ちになる。
奥さんにも同じことしているのか聞いてみたけど、奥さんとはレスで、抱いても素っ気ないらしいから、こんなに時間をかけて愛撫しないんだって。
優越感は特に感じない。
どちらかというと、蛇弁護士の家での待遇を想像して可哀想だなと思う。
蛇弁護士は、その心の隙間を埋めるように、あたしを抱くのだ。
二人で絶頂を迎え、ベッドに備え付けてあったクッションに二人でもたれ掛かった。
「おじさん、あたしと同じくらいの娘さんがいるのに、あたしを抱いて、違和感みたいなの感じないの?」
かねてからの疑問をあたしは軽い気持ちで口にした。
ホテルの雰囲気に酔って饒舌になっていたのかもしれない。
でも、娘と同じ年齢の女の子を抱いて、後ろめたさを感じたりとか、自分の娘が同じように誰かに抱かれたらと想像してしまったりとかはしないのか、前から気になっていた。
「あまり感じないかな」
蛇弁護士はあたしの肩に手を回し、窓の外の景色に目をやった。
あたしもつられて見てしまう。
数々の高層ビルの灯りが暗闇の中で輝いていた。
「同年代の娘を持つ親として、罪悪感みたいなのとかは?」
「一切無いね。こう言ったら悪いけど、君と娘は全く別物と考えているから」
悪びれた様子を見せずに言ってきた。
あたしは少しムッとした。
見下した物言いは気分のいいものではない。
「どっちも同じ女子高生じゃない」
「まあそうなんだけど、でもやはり違うんだ、君と娘はね。だから、うちの娘を抱こうとする男を僕は絶対許さないし、君はいくらでも抱けるんだ」
聞かなきゃよかった。意味が分からなかったけど馬鹿にされた感じがして腹が立った。
自分から聞いておいて怒り出すなんて、我ながら子どもだと思ったけど、感情には逆らえない。
「でも、誤解しないでほしいな。妻や娘とは別として、君のことは大事に思っているんだ。妻や娘からはもらえないものを君は僕に与えてくれる。家族では埋められない心の溝を満たしてくれるのが君だ」
フォローされたけど、あたしの胸には暗雲が立ち込めていた。
今にも雷が落ちて大雨でも降りそうなくらい分厚い雲が。
翌日は朝から雨が降っていて、蛇弁護士の車で家の近くまで送ってもらった。
車から降りた時には雨が上がっていて、虹が出ている事に気付いた。
虹って綺麗だよね、七色に光っていて。
上ばっかり見ていると転ぶから、足元を見て歩き出した。
ふと目に入った道路の水たまりには車のオイルが流れていて、油膜が張っていた。
その水溜まりの上を蛇弁護士の車のタイヤが踏みつけていった。
ドロドロと流れるその油膜も、七色に光っていた。
光の干渉だっけ?忘れちゃったけど、確かそんな感じの現象だよね。
でも、油膜の光は虹のそれとは違ってあんまり綺麗じゃなかった。
二種類の光を見たら、蛇弁護士の言う意味が分かった気がした。
同じものでも、片方は虹で、片方は水溜りの油膜。
片方は綺麗で、片方は汚い。
そしてあたしは汚い方。
あーあ、あたしも好きで抱かれているわけだけどさ、おじさんの承認欲求とか性欲を発散させているのに、この言われ様、なくない?
でも、まあ当たっているだけに、どうしようもないよね。
うん、自分でも納得しちゃったもん。
いい経験も、つらい思いもね。
あたしはお高いホテルにあるこれまたお高いレストランにいた。
煌びやかに輝く前菜とかテリーヌとかフォアグラの乗ったステーキとかを食べながら、目を輝かせて、「おいしい!」とか「こんなの初めて食べた!」とわざとらしく喜んだ。
こうやって、デート相手の自尊心や承認欲求を満たしてあげるのがあたしの役目だった。
向かいの席に座るのは、蛇みたいな狡猾そうな顔をした弁護士さん。
顔は怖いけど、頭が良くて話し上手、楽しく過ごせる相手ではあった。
とにかく羽振りが良くて、その日あたしが着ていた黒いワンピースも、アクセサリーも靴も、全部この蛇弁護士に買ってもらったものだ。
ちなみに既婚者で、あたしと同い年の子どもがいる。
デザートの苺とホワイトチョコのムースを食べてコーヒーを飲み終えたら、蛇弁護士が予約してくれていたスイートルームへ二人で向かった。
蛇弁護士はあたしの腰に手を回して、身体を密着させるように歩いた。
なんで幸せそうな家庭があるのに、あたしを抱くのか不思議で仕方がない。
でも本人は家庭に満足できていないらしくて、いつも寂しい寂しいと言っていた。
どうやら奥さんも娘さんも、彼の男性的承認欲求を満たしてあげることができていないみたい。
蛇弁護士とのセックスはすごくゆっくり進む。
指先であたしの肌をゆっくり優しく触れてきて、軽い羽根でくすぐられているみたいで不思議な気持ちになる。
奥さんにも同じことしているのか聞いてみたけど、奥さんとはレスで、抱いても素っ気ないらしいから、こんなに時間をかけて愛撫しないんだって。
優越感は特に感じない。
どちらかというと、蛇弁護士の家での待遇を想像して可哀想だなと思う。
蛇弁護士は、その心の隙間を埋めるように、あたしを抱くのだ。
二人で絶頂を迎え、ベッドに備え付けてあったクッションに二人でもたれ掛かった。
「おじさん、あたしと同じくらいの娘さんがいるのに、あたしを抱いて、違和感みたいなの感じないの?」
かねてからの疑問をあたしは軽い気持ちで口にした。
ホテルの雰囲気に酔って饒舌になっていたのかもしれない。
でも、娘と同じ年齢の女の子を抱いて、後ろめたさを感じたりとか、自分の娘が同じように誰かに抱かれたらと想像してしまったりとかはしないのか、前から気になっていた。
「あまり感じないかな」
蛇弁護士はあたしの肩に手を回し、窓の外の景色に目をやった。
あたしもつられて見てしまう。
数々の高層ビルの灯りが暗闇の中で輝いていた。
「同年代の娘を持つ親として、罪悪感みたいなのとかは?」
「一切無いね。こう言ったら悪いけど、君と娘は全く別物と考えているから」
悪びれた様子を見せずに言ってきた。
あたしは少しムッとした。
見下した物言いは気分のいいものではない。
「どっちも同じ女子高生じゃない」
「まあそうなんだけど、でもやはり違うんだ、君と娘はね。だから、うちの娘を抱こうとする男を僕は絶対許さないし、君はいくらでも抱けるんだ」
聞かなきゃよかった。意味が分からなかったけど馬鹿にされた感じがして腹が立った。
自分から聞いておいて怒り出すなんて、我ながら子どもだと思ったけど、感情には逆らえない。
「でも、誤解しないでほしいな。妻や娘とは別として、君のことは大事に思っているんだ。妻や娘からはもらえないものを君は僕に与えてくれる。家族では埋められない心の溝を満たしてくれるのが君だ」
フォローされたけど、あたしの胸には暗雲が立ち込めていた。
今にも雷が落ちて大雨でも降りそうなくらい分厚い雲が。
翌日は朝から雨が降っていて、蛇弁護士の車で家の近くまで送ってもらった。
車から降りた時には雨が上がっていて、虹が出ている事に気付いた。
虹って綺麗だよね、七色に光っていて。
上ばっかり見ていると転ぶから、足元を見て歩き出した。
ふと目に入った道路の水たまりには車のオイルが流れていて、油膜が張っていた。
その水溜まりの上を蛇弁護士の車のタイヤが踏みつけていった。
ドロドロと流れるその油膜も、七色に光っていた。
光の干渉だっけ?忘れちゃったけど、確かそんな感じの現象だよね。
でも、油膜の光は虹のそれとは違ってあんまり綺麗じゃなかった。
二種類の光を見たら、蛇弁護士の言う意味が分かった気がした。
同じものでも、片方は虹で、片方は水溜りの油膜。
片方は綺麗で、片方は汚い。
そしてあたしは汚い方。
あーあ、あたしも好きで抱かれているわけだけどさ、おじさんの承認欲求とか性欲を発散させているのに、この言われ様、なくない?
でも、まあ当たっているだけに、どうしようもないよね。
うん、自分でも納得しちゃったもん。
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