かの騎士、王子殿下専属につき

久保 ちはろ

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第一章  1

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 アストリット・ローゼナウが襟元の金ボタンを留め終えた時、ドアをノックする固い音が部屋に響いた。
「入れ」
 ドアの隙間から入って来たのは若手の軽騎士だった。
「アストリット大尉、朝食はローゼナウ総指揮長がご一緒に、とのことです」
 直立不動で、やや大きすぎるとも思える声で彼は一気に言った。
「わかった。すぐに行く」
 彼は正確な角度で心臓の位置に右拳を当て、退室した。アストリットは机に近寄り、朝日を反射している銀の小箱から肩章を摘むと、慣れた手つきで軍服に付け、上着の裾を直して部屋を出た。
 物心ついた時にはこの軍服を身につけていた。黒を基調とし、肩から胸部にかけてと、袖の部分が緋色の二色で配色された軍服は緋色のマントを纏って正装とする。
 廊下には大きく抜かれた窓からは光が射し込み、三つ編みでぐるりと頭の周りにまとめられている彼女の琥珀色の髪を輝かせていた。
 緩やかな額から伸びる、細い鼻梁、ふんわりとほどよい厚みのある桃色の唇。小さな顎。目尻にまだ愛嬌を残す瞳は正義に燃えたエメラルドクリーン。
 父親が帝国騎士団の総指揮長であり、齢十八、女にしてリューベンスブルグ帝国騎士団の大尉という地位を授けられれば、部下はおろか、街の者にも”親の七光り”と囁かれ、軽蔑の眼差しと上辺だけの尊敬であしらわれるのが当然のところだが、アストリット・ローゼナウにはそうはさせない功績が既にあった。
 敵の裏をかく巧妙な戦術、迅速な判断、無駄の無い剣さばきが、幾多もの勝ち戦、または和平協定をもたらしていた。そして、絶対平和主義の王が統治するリューベンスブルグ帝国の騎士達は”黒い獅子”と呼ばれ、どの国からも一目置かれていた。
 かといって、平和の続く国で騎士たちはその飾り物になったかというとそれは間違いだ。
 他国からの援軍要請が来れば、王の言葉一つでどこへでも進軍して争いを治めていたし、自国の領主たちを狙う盗賊の略奪や殺人を取り締る務めも絶えることは無かった。
 先月も城下からやや離れたロレンツォ領の館が襲れたばかりで、百姓から知らせを受けたアストリット率いる騎士団が駆けつけるも時既に遅し。
 館の窓はほとんど破られ、賊はありとあらゆるものを略奪し、一家皆殺しにして立ち去った後だった。
 まだそう遠くまで逃げていなかった七人の盗賊を捕らえた騎士団の半数がそのまま城に帰ると、残りの騎士とアストリットは現場に戻り、現場の検証をした。白薔薇の生け垣は踏み荒らされ、女、子供には全て陵辱の痕跡があった。庭いっぱいに散った花びらは瞼の裏に鮮やかで、その棘はまだ胸に痛い。
 ふと、悪夢から覚めたように顔を上げると、すでに本部館の食堂の前に立っていた。この食堂は中尉から総指揮長が食事を共にする場であったが、どうもその堅苦しい雰囲気が好きになれず、団長以下、騎士たちの宿舎である別館で食事をするのが彼女の常だった。
 ドアの脇に控えている従僕が大尉のために扉を開けようとするのを手で制して、自ら真鍮のノブを押して中に入ると、紅茶の香りが彼女を迎える。
 食堂に一歩足を踏み入れ、一瞬その場に立ち止まった。
 八人掛けのテーブルの正面に総指揮長、その左手に中尉のフリーダがテーブルに着いているのは不思議ではない。
 ただ、他の上官たちがこの時間に一人もいないのは妙だった。それでも彼女はフリーダの正面の席に立ち、総指揮長、中尉の順に会釈をした。
「おはようございます、ローゼナウ総指揮長、ローゼナウ中尉……」
「やだ、そんな堅苦しい挨拶。私たちだけなんだから父上とお呼びなさいな、アスティ」
「しかし、姉上」
 席についてナフキンを膝に広げながら姉を上目で見た。すっきりとした細面に、栗色の瞳が楽しげに笑っている。髪型は同じだが、彼女の方はやや濃いブロンドだ。
「失礼します、アストリット様。紅茶になさいますか、それともコーヒーを?」
 給仕に紅茶を頼むと、メイドが銀のポットを手に近づいて来、カップに熱い紅茶をなみなみと注いだ。
「フリーダの言う通りだ、アストリット。おまえはいつも外を飛び回っていて呼び出しや会議が無ければほとんど本部に顔を出さんからな。こうして家族が揃うのも久しぶりだ。たまには水入らず、ゆっくりと朝食をとるのも悪くないだろう」
「父上、お言葉ですが、そうのんびりしてはいられません。朝の巡回が控えています。ガースローを待たせるわけには……」
「ガースローには一時間ほど遅れると伝えてある」
 そこまでお膳立てをされれば、アストリットにはそれ以上返す言葉は無かった。しかし、突然の家族だけの朝食となると、そこに呼び出された理由があるはずだった。
「何事かと、落ち着かない様子ね、アスティ。あなた、戦場ではかなりの忍耐をみせるくせに、こういう時には案外我慢がないのよね」
「しかし、このような突然の呼び出し、内輪だけの席はかつてありません。父上は水入らずと言われますが、却って不安になることをお察しください。なにか極秘の指令が……」
 真剣そのもので上座にやや身を乗り出すアストリットの前で、フリーダは飲んでいた紅茶をものの見事に吹いた。
「アスティ……! やだもう。少しこぼしちゃったじゃない。あなたって、昔っからそうやって物事を悪い方に考えるのね。極秘、ですって。ねえ、父上。お聞きになった? まあ、言われてみれば極秘に近いものはあるけれど……」 
「姉上はすでにご存知なのですか? まさか、昨日今日の話ではない……!?」
「ええ、まあ、昨日今日の話ではないわね……」
 ローゼナウ総指揮長は二人の愛娘のやりとりに目を細めながら、ちぎったパンを口に入れ、噛むごとに整えた口髭を静かに動かしていた。
 話が見えずにすっかり落ち着きを失い、父親と姉に交互に視線を走らせるアストリットをからかうようにフリーダは続ける。 
「まあ、紅茶を一口お飲みなさいな。そしたら教えてあげるから」
 アストリットは素早くカップに手を伸ばし、ごくりと一口飲むと音を立てて再びソーサーにカップを置いた。
「飲みました。さあ、教えてください」
「あら、ほんとに一口だけ……せっかちねえ」
「いい加減にしないか、フリーダ。妹の性格を知った上でそのようにからかうのは意地が悪いと言うものだ」
 ガレス・ローゼナウの、アストリットよりもやや褪せた緑色の瞳は一瞬フリーダを咎めるように射た。そして、鋭さの消えたそれはすぐに次女の方へと向けられる。
「カールソン卿のご子息がフリーダに結婚を申し込んだのだよ。ああ、次男の方だが」
「マーヴェリックが!?」
「人の婚約者を呼び捨てにしないでよ」
 唇を尖らせるフリーダだったが、目はやはり笑ったままだ。
 カールソン家はローゼナウ家の隣に屋敷を構え、歳が同じくらいのカールソン兄弟と、ローゼナウ姉妹は幼い日々、ほぼ毎日のようにお互いの庭を行き来していた。つまりローゼナウ姉妹にとってマーヴェリックは幼馴染みである。彼は学業を終えてリューベンスブルグの外交省の席を得たのはアストリットも噂に聞いている。 
 しかし、まさか姉が弟分の泣き虫マーヴェリックと婚約を結ぶとはまさに寝耳に水だった。目と口を同じくらい開いて自分を見つめる妹に、フリーダははにかんだ。
「実はね、お付き合いは二年ほど前からあったのよ。そうよ。私、来年の春に結婚するの。次はあなたの番ね、アスティ。あなたももう十八だもの。胸に秘めている気になる殿方は当然いるのでしょう?」
 ことのなれそめを聞けるかと思ったアストリットは、いきなり自分のことに矢の先が向いて慌てた。さすがの騎士も、心を許した相手に隙をつかれては”気の利いた嘘”という盾で防御するにはやや遅れをとった。まだ何も載っていない白い皿の上に視線を落して口ごもる。
「そ……、そんな、そんな……私には恐れ多い……」
「あら? 恐れ多い方? ほんっと、嘘がつけないのね。ええと、どなたかしら……。デヴォー公爵? あの方のお財布からは常にお金が湧いてくるのよね。一生遊んで暮らせるわ。それとも、ベネガー議員かしら。あの方の叡智はソフィア神と対等に議論できると噂よ。哲学好きのあなたならあの方となら話が尽きることはないかしら……」
「姉上! おやめください。そのどなたでもありません!」
 朱に染まった顔を上げ、姉を睨みつける。
「アストリット、フリーダ。やめないか。おまえたちに卵をいくつ焼けばいいのか、シュテファンが聞きたがっているのがわからんのか。まあ、おまえも年頃の娘だ、アストリット。恋人の一人や二人いても不思議は無い。だが、婿にするにはおまえより腕の立つものではないと私は認めんぞ」
 仲裁に入ったガレスはそうはいうものの、顔をほころばせていた。
「あら、可哀想なアスティ。それならあなた当分独身ね」
「請け合いです、姉上。それなら早速、巡回後に私の騎士たちと剣を交えるとしましょう。ああ、今日の予定が決まったら急にお腹が減ってしまいました。シュテファン、卵は三つ焼いてください。もちろん、厚切りのハムも添えて……」
 アストリットは父親と姉の好奇の視線から逃れるように給仕に顔を向けると、心の底からほっとしたように微笑んだ。そして、帝国騎士団大尉の落ち着きを取り戻すと「おめでとうございます、姉上」と祝辞を述べた。

「まったく、姉上も人が悪い……。マーヴェリックとの交際を二年も私に隠していたなんて……。そのうえ、私のことまで詮索する始末だ」
 アストリットはいつもより遅くなった朝の巡回でもさほど急くようなこと無く街の石畳にのんびりと馬を進めていた。彼女に気がついた子供たちが駆け寄り、しばらく馬の周りを付いて歩く。彼女は鞍に吊るした小振りの麻袋から焼き菓子の包みを出して馬上から身を屈め、年長の娘に渡した。子供たちが高い声でそれぞれ礼をいい、小さな手を振り二人の騎士を見送る。
「ローゼナウ中尉は慎重ですからね。それに情の厚い方です。自分ばかりが恋人を持って妹である大尉が寂しがると思っていたのではないでしょうか」
「寂しい!? 私がか!? 姉を取られて相手の男に嫉妬すると!? それとも年頃にもなって一人も恋人がいないで寂しがると、そういう意味か!?」
 アストリットは隣に馬を並ばせる部下、ガースローにきっと顔を向けた。白に近いブロンドの髪を持つ、唇の赤い優男である。
 噛み付く勢いの彼女を前に、普通の騎士なら顔面を蒼白にするところだが、田舎出のこの男は上役を恐れること無くにっこり微笑み、さらりと言った。
「そういう意味ではありません。ただ、大尉は早くにお母様を失くしておられるでしょう。それからずっと中尉が母親代わりだったのではありませんか。ですから、中尉の心が男性に奪われてしまうと言うことは、大尉にとっては母親と姉を同時に取られることになる。その寂しさを中尉は汲んだのではないかと、私の勝手な想像です。もし大尉のお気に障ったのなら申し訳ございません」
「う……、そうか。そう言う考えはなかった……。そうだな、おまえの言う通りかもしれない」
 不必要にも部下に声を荒げた気まずさで、声は小さくなった。今朝は姉が自分の心を乱すことを言うからこうして部下にも当たってしまうのだ。全て姉が悪い。胸に秘めている方などと言うから……。
「しかし、大尉には本当に恋人がいらっしゃらないのですか。私の所属する第三団だけでも大尉に尊敬以上の思いを持っている者に何人か心当たりがありますが……」
 普通ならば上役にここまで踏み込んだ質問をする者を彼女は他に知らない。だが、どうも憎めないのはこの男の持つ魅力でもあった。
「おまえには正直に打ち明けてもいいところだが、本当にいないのだ。ところでおまえこそ、誰か決まった者がいるのか」
「はい、田舎に許嫁がおります。私が二十六になったら結婚します。あと二年の辛抱です」
「そうか。それまでにせいぜい出世するがいい。私から盗めるものは盗んで行けばいい」
「はい。ありがたきお言葉。……おや、大尉。なんでしょう……あそこに、人が集まっていますね……」
 ガースローの示す指の先を見ると、ちょうど安宿や酒場の並ぶ路地の入り口にちいさな人だかりが見える。彼らは馬に拍車をいれ、速足でそこへ近づいた。
「どうした、何があった」
 馬から降り、人垣を割って、輪の中心の男に尋ねた。酒場の主人のようだった。
「おお、大尉殿……丁度良いところにおいでになった。実は先ほど客同士でちょっとした諍《いさか》いがありまして、客人が気絶したまま目を覚まさずに困っておるところで……」
「この男一人か」
「いえ、四人の旅の一行様でしたが、後の三人は逃げてしまいました」
 アストリットは店の入り口でいびきをかいて大の字で伸びている大男に屈み込んだ。体から滲み出る酒の匂いに鼻の上に皺を寄せる。男の顔には殴られた青い痣が目立つが、致命傷にはいたっていないようだ。
「寝ているだけだな。しかし、打ち所が悪いと言うこともある。ガースロー、悪いがこの男を近くの診療所に運んでくれないか」
 荷物よろしく男を乗せた馬を引いた部下が去ると、アストリットはその場にいる数人の町人をぐるりと見回した。
「さて、何があったのか話してくれないか。何が原因で、誰が始めたのか。人数は」
「先ほども申した通りでさ……大尉殿。旅の方は四人で……一人は若い女でした。朝食を食べながら、一行が景気よく飲みだして……後からいらした三人の客人が朝食を初めてしばらくたつと、手洗いから戻った女がその客人の一人に『体を触られた』と騒ぎだしまして……それから、触った、触ってないの口論の後に、旅の、先ほど気絶した客人が手を出しまして……あとは店の中がひっくり返る大騒ぎでさぁ……」
「あたしは、知ってるよ! ミカ様は何度もいらしてるけど、一度だって女に見向きもしない。触るわけが無いよ! たとえこっちが触ってくれって頼んだってね! あの女は散々色目使ってたけど鼻にもかけてもらえなくて騒ぎだしたんだ。いやなよそ者だよ」
 いきなり声を上げたのは、店の主人の隣にいた若い娘だ。顎の張った父親にそっくりな顔つきを見ると、店を手伝っている実の娘に違いないとアストリットは認めた。
「どこの者だ。そのミカ様というやつは。事情聴取の必要がある。何度も来ていると言ったな。知っているなら私をその者の館に連れて行ってくれないか」
 町人はアストリットから目を逸らし、ひそひそと隣の者と相談し始める。
「告げ口のためにお前たちが貴族の仕返しなど恐れることは無い。私からきつく注意をして置くから心配は無用だ」
 まだもごもごと口の中で言葉を噛む町人に痺れを切らしてアストリットは店の主人に詰め寄った。
「私では信用出来ないか。王の元に仕える帝国騎士団には貴族と言えども逆らえぬことはおまえたちも承知であろう。これだけ店に被害が出ているのだ。損害賠償も取り立てないと割が合わないだろう。さあ、教えてくれ。どこに住んでいる、何者だ」
 主人はチョッキの丸ボタンを指先でいじっていたが、おどおどと顔を上げると、それでもはっきりとその主犯の名を告げた。
「ミカ・フォン・オールソン様でさぁ……大尉殿。それに、お代は三晩店を開けなくても十分なくらいいただいておりまさぁ……」
「なっ……」
 アストリットはその名を聞くとその場で固まった。
「それからお供にダフナート卿とアリアス卿のお二方。『新しいテーブルと椅子を買うといい。面倒を掛けたな』と、ミカ様が。お代はいつもいらっしゃる度十分なくらいいただいているのですが」
 娘が言い添える。
「それに、食べ切れ無かったものは、このあたりの貧しい者に必ず分けてくださるんでさ」
 隣にいた男も言葉を継いだ。
「まさか……まさか王子殿下がこのようなところで朝食を……?」
「このようなところとは……、大尉殿?」
 下から覗き込む店の主人の訝しげな視線をアストリットは避けるように視線を泳がせ、誤摩化すように慌てて付け加えた。
「い、いや……王子殿下がお忍びで街へ来ることは私も聞いてはいたが、王家の方が下町にまでいらっしゃるとは……と言う意味で他意はない。そうか。それならお前たちが言いにくかったのは無理も無い。それで、王子殿下が怪我をされたご様子は?」
「ご心配には及びません、大尉殿。わたくし、店の外で騒ぎが始まってからずっと見ていましたけど……それはもう、相手の振りかざす拳をダンスを踊るようにくるりくるりと避けられて……その拍子に深く被っているマントのフードがはらりと落ちてその美しいお顔が現れたのですが……相手を恐れるようなところは少しも無く……あっという間に相手をやっつつけてしまいましたわ。わたくしの方が怖くなってしまって膝が震えて……」
 語りながらそのときの様子を思い出したのか、ふくよかな若い娘は足下をふらつかせて隣の若い男にもたれかかった。
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