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ローグ伯爵家跡の魔犬事件

第24話 推理令嬢もあらわる

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「……ということがあったの」

「わたくし抜きでなんて面白そうなことを」

 そう言うシャーロットはとても残念そうだった。
 だってあなたはアカデミーのOGだし、今は講師だし、なかなか声をかけづらいではないか。

 ……などと言うと彼女がへそを曲げる気がしたので、口は開かないでおく。

「カゲリナとグチエルに誘われたの。肝試しだって。友達同士の他愛もない遊びだわ」

「なるほど、たしかにその面子では、わたくしが行けばお二人が萎縮してしまいますわね。ジャネット様のご判断は正しいですわ」

 言葉の裏を正しく読み取ってきた。
 彼女に隠し事は難しいな……?

「それでシャーロットに相談があってね」

「ええ。先程までの話しから推察できますわ」

 シャーロットは手ずから入れた紅茶に、お砂糖を二杯入れて少しだけミルクを足した。
 そして香りを楽しみながら、口をつける。

「ローグ伯爵邸に現れたという光る犬は、敵意が無かったのでしょう? なのに、屋敷の跡で殺人事件が起こった。人々はきっと、これを魔犬の噂と結びつけてしまうに違いない。それはおかしいと思う……というのがジャネット様のお考えではなくって?」

「その通り。心まで読めるの?」

「お話をまとめた上で、ジャネット様の表情から想像しただけですわ。推理でもなんでもございません」

 うふふふふ、と笑うシャーロット。

「そうなんだ。うーん。私はなんかさ、朝その話を聞いたとき、納得がいかなくて」

「直感的に、その犬が辺境に現れる類のモンスターではないと感じられたのでしょう?」

「また心を読んだ」

「いつもジャネット様、物事を辺境に例えるじゃありませんの。個人的な付き合いが深ければ、誰だって分かりますわよ?」

 いや、誰だっては分からないだろう。
 なんで彼女は私が言語化してないところまで的確に言い当ててくるんだ。

 宮廷では、シャーロットを苦手にしている人物も多いと聞く。
 それも納得だな。
 心の奥底まで見透かしてしまうような彼女を前に、平然と友達付き合いができる者は多くはあるまい。

 それはそうとして、シャーロットの淹れる紅茶は相変わらず美味しいな。
 香りが本当に素晴らしい。
 お砂糖四杯入れちゃおう。

「あっ、そんなに入れたら紅茶の風味が……」

 シャーロットがハッとする。
 私の行動までは読めなかったか。

「ていうかシャーロットも、いつもならお砂糖もっと多くない?」

 尋ねると、彼女は渋い顔をした。

「少しお腹にお肉がついたので……」

「さすがのあなたも、余分なお肉には勝てないわけね……」

「おかしいですわ。いつもエネルギーは頭脳が消費しているはずなのに、どこにお腹に回る分が残っていたのか……」

「考えるぶんよりもたくさん食べてるからじゃない? 最近、私と会う度にお茶を飲んでお菓子食べてるもの」

「そう言えば……。ジャネット様と知り合ってから、お菓子を食べる機会が増えましたわね。なんてこと」

 お砂糖一杯にしようかしら、なんて呟く彼女なのだ。
 ここで話がそれて、しばらくはお腹や二の腕、顔に付いてくる余計なお肉の話題で盛り上がった。

 シャーロット曰く、「ジャネット様はまだお若いから気にならないけれど、あと数年で来る」とか。
 確かにお母様はふくよかだった気がする……。
 気をつけよう。

「では、本題ですけれども」

 急に話題を変えてくるシャーロット。
 どうやら他愛もない話をしながら、彼女の中で推理みたいなものをまとめていたらしい。

「ローグ伯爵家は今、荒れるままに任されていますわよね。実はあの土地は、伯爵家の係累の方が引き継いで管理されているのですわ」

「ええっ、そうなの!?」

 完全に廃墟になっていて、管理されているようには見えなかった。

「その土地に住み着いた謎の光る犬と、起こった殺人事件。何か理由がありそうだとは思いません?」

「言われてみれば、ありそう。シャーロットはこれも、モンスターによるものじゃなくて人間が引き起こした犯罪だって思うの?」

「ええ、もちろん。そのためにはまず、誰が殺されたのか、その情報を知らなくてはなりませんわ。憲兵の中に知り合いがいれば情報も得られますわね。本当に、持つべきものは友達ですわ」

 シャーロットの言葉に、私はあの顔色が悪い憲兵隊長を思い浮かべた。
 また巻き込まれるんだなあ、デストレード。

 今日はお菓子を控えめに。
 お茶の食器を魔法生物に任せて、私たちは現場に向かうことにした。

 下町は昼でも危ない。
 ということで、またもナイツを御者にして、馬車を走らせる。

「最近は外出の機会が増えて、いい気晴らしになりますぜ。一日中半端な腕の連中を面倒見てると、息が詰まってきていけねえ」

「あなたが生き生きするような状況だって願い下げだわ。それって辺境に匹敵する戦場だってことじゃない」

「ははは、違いない!」

 そのようなやり取りをしつつ、昨夜いたローグ邸に到着する。
 憲兵たちがわいわいと、何かを調べていた。

 殺人は、屋敷の門の前で起こったとか。
 なるほど、ギリギリ中に入らないところだ。
 憲兵たちも、他人の持ち物であるローグ邸に足を踏み入れてはいない。

「ね? あの位置で死んでいるのは、何か恣意的なものを感じませんこと? 物取りやモンスターの犯行ならば、あんなギリギリの場所で事件を起こす必要はございませんわ。あそこならば、憲兵も野次馬も、屋敷には入り込みませんものね」

「なるほど……。屋敷には入られたくないけれど、ここで事件が起きたということにして得する誰かがいるということ?」

「そうなりますわね。だって、お屋敷に憲兵や野次馬が入り込んだら、面倒な騒ぎが起こるでしょう?」

「今だって面倒な騒ぎだと思うけど」

「その騒ぎは、あくまで屋敷に現れるという魔犬と、そして殺された被害者だけに関係するものですわね。ただ、これでローグ邸の評判は確実に落ちていますし、この土地の価値も下がっていますわねえ……」

 一体何が見えているんだ、シャーロット……!
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