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遺跡の儀式事件~ヤング・シャーロット~

第99話 遺跡、誤動作!?

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 遺跡は上にも下にも伸びている。
 発掘品などが得られるのは下だということだが。

「いい加減、発掘品も取り尽くされていそうですわね」

「それが不思議なことに、毎月新しい発掘品が手に入るんだ。遺跡はまだ生きているから、発掘品を生産しているんだろうね。ほとんどのものには使用回数制限があるから、使っているうちに壊れてしまうんだけど」

 オース曰く、その発掘品は、アンクト家の貴重な収入源になっているのだという。

「そうだとしたら、遺跡で変な儀式をやられて、万一にもこの遺跡がおかしくなったら問題ですわねえ」

「俺は構わないんだけどね。家の方が、調子に乗って使用人を増やしたからね」

 オースが苦笑する。

「うちはクルミとだんなさまと、あとお手伝いさんがいるだけですよ!」

 クルミが補足した。
 お手伝いさんは、近隣の農村の女性が交代交代で働きに来るらしい。
 昼前から夕方までの仕事だし、アルバイト感覚だ。

「夜は二人っきりなのです。えへへー」

「あらあら」

 彼女の惚気話を、昔婚約者がいた(自分の推理で粉砕した)立場としてにこやかに聞くシャーロット。
 クルミのことは好きになれそうだと思ったらしい。

 その後、オースは案内、クルミと雑談などをしながら一行は進んでいった。
 そしてここがターニングポイント。

 目の前には人が一人楽々通れるほどの穴が空いており、そこに透明なガラスの板が浮かんでいた。

「この板の上に立って、上に行くか下に行くかを決めるんだ。どっちにいると思う? 俺はちょっと予測がつかないけれど……。多分、発掘品を狙っているならば下で間違いないと思う」

 オースの意見を聞いて、シャーロットは少しだけ思考を巡らせた。
 相手は、風の精霊王を信仰しているであろう人物。
 物欲を優先するのか?

 それとも……。

「遺跡の上部は、外に繋がっていたりしますの?」

「ああ。指示を出せば開閉して外の空気を取り入れてくれる。この遺跡の鍵があれば、言うことを聞かせられるんだ」

「では、上ですわね」

 シャーロットは断言した。

「上!? だって、上には天蓋が開く仕掛けくらいしか無いよ?」

「だからこそ、ですわ。風が吹き抜ける広大な農場にあって、高くそびえ立つ遺跡は最も強い風を受けられる場所に他なりませんもの。風の精霊王の信者ならば、これがゼフィロスのためのモニュメントに思えることもあるのではなくて?」

「なるほど……!」

 オースが唸った。
 クルミは頭の上にハテナマークを浮かべて、ニコニコしている。
 あまり難しい話はわからないのである。

「つまりですわね。鍵を持っていった人は、風の精霊王を信じてる人なのですわ。高いところは風がたくさん吹きますでしょう?」

「あーっ、ほんとです! だから高いところ行ったですね! シャーロットは頭いいですねえー」

 素直に感心されて、シャーロットの頬も緩んだ。
 三人はガラスの板に、どうにか収まって上へ。

 ガラスの板はスーッと音もなく上昇し、天井に空いた穴をくぐった。

「遺跡の鍵を手に入れてから、遺跡に対して色々指示を下せるようになってね。観光できるように中を色々いじったんだ。つまり、これにはそれだけの力があるってことなんだけど」

 オースは鍵を見せた後、懐に仕舞った。
 そして取り出したのは、投石用に作られた革紐細工、スリングである。

「シャーロット、ちょっとしゃがんでいて。……ふんっ!」

 どこからか取り出した石を、オースがスリングで投擲する。
 それは、いつの間にか忍び寄ってきていた丸い金属質の何かに当たると、パンっと音を立てて爆発した。

「あら!」

「遺跡内を清掃させていたゴーレムなんだけどね。どうやら誤作動なのか、それとも遺跡の鍵で侵入者を撃退するように命じられたのか……!」

「クルミもやるですよ!」

 クルミもスリングを取り出し、オースと二人で周囲を警戒し始めた。

「頼りになる案内人ですわね……!」

 元冒険者の腕は鈍ってはいないらしい。
 スリングの弾は炸裂する魔法石で、これを受けたゴーレムは床に落ちて、キュルキュル唸るだけになる。
 オース曰く、

「ダメージはそうでもないけれど、攻撃を受けることを想定してない作りなんだ。だから混乱して、しばらく動けなくなる。彼らには遺跡の清掃をお願いしないといけないから、壊さないようにしなくてはね」

 ゴーレムは次々に現れて、清掃用らしき細い手を伸ばして一行を拘束しようとする。
 これをオースが、クルミがスリングで撃ち落とし、シャーロットが。

「バリツ!」

 ゴーレムの天地がひっくり返り、床に叩きつけられた。

「ピガー!」

「あっ! シャーロットが素手でゴーレムをやっつけたです!」

「驚いたな! ただのお嬢さんじゃなかったのかい!?」

「ええ。護身術を学んでますのよ」

「本格的だなあ……。それ、相手の性質と重心を見抜いて即座に利用する、半魔法的な護身術だろう? 素手でモンスターとも戦えるよ」

「ふふふ」

 シャーロットが得意げだ。

「クルミにも教えて!」

「クルミさん、道は険しいですわよ……!」

「がんばるですー!」

 遺跡の侵入者を追う道行きは、なぜか和やかムードのまま進んでいくのだった。
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