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建築家の陰謀事件
第128話 バスカー、嗅ぎ当てる
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「どう? 何かにおいはする?」
『わふわふ』
「あ、そっか。このにおいを嗅いでっていうのが無いと分からないもんね」
『わふ~』
「ジャネット様、普通にバスカーと会話してますわねえ」
シャーロットに感心されてしまった。
飼い主と飼い犬で、なんとなく心が通じ合うことってあるじゃない。
そう言うものだと思うけど。
「シャーロット。バスカーがもっと証拠が欲しいって。焼けた建築家の屋敷に行きましょ」
「あら、バスカーの名推理というわけですわね! もちろん、いいですとも」
ということで私たちは、焼けたタクランダー氏宅へ向かうことになる。
ゼンニーン家とはそれほど離れているわけでもない。
そこそこの大きさの敷地を持つ家で、それでも一般人の家らしく庭は慎ましやか。
「なるほど、全焼ってわけではないのね」
私の目の前では、半焼した家の姿があった。
焼けたのは恐らく生活スペース。
残ったのが、仕事用の道具置き場だ。
ここにも憲兵たちがいる。
「あっ、ワトサップ辺境伯代理! それといつものシャーロット様!」
「いつものは余計ですわよ」
あまりにも顔見知りになってしまっているので、顔パスで入れる。
私たちが幾つもの事件に協力し、解決に導いてきたので、憲兵を指揮する王宮の軍務卿も、「あの二人ならいいよ」と認めてくれたのだ。
日頃からいい事はしておくものね。
「仕事道具が盗まれたりしないように見張ってるんですよ。現場の調査は終わって、やることは他に無いんですけどね」
この時間帯に現場の責任者をしていたのは、憲兵失踪事件の時のオッペケ氏だった。
もう外で働いても良くなったのね。
「いや、あの時は大変お世話になりました! こういう見張りとか、あまり面白みのない仕事ばかりですが、外に出られるのは気分転換になっていいもんですねえ。もちろん、もう水麻窟には行きませんが!」
あっはっは、と笑うオッペケ氏。
その間にも、バスカーはトコトコと仕事道具置き場に入り込む。
他の憲兵を、もふっとのけてから鼻面を仕事道具に近づけた。
ふんふんとにおいを嗅いでる。
「もこもこしてる」
「近くで見るとしみじみでかいなあ」
憲兵たちの感心した声が聞こえた。
途中で、憲兵たちからおやつをもらったらしく、口をもぐもぐさせながらバスカーが戻ってきた。
「においを覚えた?」
『ふ』
口の中に食べ物が入ってるから、お返事も短縮バージョン。
それでもきちんと仕事をしてきたのだから、えらいえらい。
シャーロットもシャーロットで、オッペケ氏から色々事情を聞き終わったらしい。
「焼死体が見つかりましたけど、やっぱりあちこち炭化してて、もう誰だか分からなかったらしいですわよ。タクランダー氏は近所でも嫌われていて、やたらとお金にうるさい方だったそうで、怨恨からの犯行だと見られているようですわね。あるいは、彼がゼンニーン家へ」
「それはありそうな話だよねえ」
「ええ。分かりやすいストーリーですわ。だからこそ、憲兵はそう考えてしまった。不確実性の高い推論よりは、現場から導き出されるそれらしい検証結果の方が信用できますものね」
そして、シャーロットはいつの間に手に入れたのか、一枚の紙を私に見せた。
あちこちが焼け焦げているが、かろうじて文面と、タクランダーのサインが読み取れた。
これはもしかして……。
「借金の契約書ですわね。タクランダー氏はギャンブルが大好きだったようで、そちらで大きな借金を作っていたようですわ」
「つまりそれって、借金苦からの自殺……とか?」
「それにしては、きれいに仕事道具だけが焼け残ってますわねえ……。借金取りが押しかけてきたらしいのですけれど、憲兵たちに追い払われたそうですわ」
「ふむふむ。……それってもしかして。憲兵たちが、無料でガードマンやってくれてるみたいな?」
私の推理を聞いて、シャーロットが微笑んだ。
「そうなった方が、面白いと思いません? 亡くなった方はとばっちりで、大変な不幸だったとは思いますけど。そうしてまで家を燃やして、借用書もあわよくば燃やそうとしたのでしょうね。では、本人が生きているとすれば、どこに?」
「ああ!」
私は手を打った。
ゼンニーン家に財産を渡すという遺書は、燃えないように周到に金属の棚に入っていて、それに対する借用書は燃えても構わないとでも言いたげに放置されていたと。
「これって、計画的犯行だったりしない?」
「その通りですわね! ただ、どうしてタクランダーがゼンニーン家を嵌めようとしたのか、ですけれども。ゼンニーン氏とタクランダーは古くからの知己だったそうですし、そこに理由がありそうですわね」
シャーロットの目の輝きが増してきた。
「わたくしの頭の中で、九割方事件は解決しましたわよ」
「早い!」
「ですけど、今はそれを語る時ではありませんわ……。さあジャネット様! バスカーを連れて戻りましょう。ゼンニーン家にて、事件の真相を暴きますわよ!」
取って返す私たち。
私は早く、シャーロットの推理が聞きたくてうずうずするのだった。
『わふわふ』
「あ、そっか。このにおいを嗅いでっていうのが無いと分からないもんね」
『わふ~』
「ジャネット様、普通にバスカーと会話してますわねえ」
シャーロットに感心されてしまった。
飼い主と飼い犬で、なんとなく心が通じ合うことってあるじゃない。
そう言うものだと思うけど。
「シャーロット。バスカーがもっと証拠が欲しいって。焼けた建築家の屋敷に行きましょ」
「あら、バスカーの名推理というわけですわね! もちろん、いいですとも」
ということで私たちは、焼けたタクランダー氏宅へ向かうことになる。
ゼンニーン家とはそれほど離れているわけでもない。
そこそこの大きさの敷地を持つ家で、それでも一般人の家らしく庭は慎ましやか。
「なるほど、全焼ってわけではないのね」
私の目の前では、半焼した家の姿があった。
焼けたのは恐らく生活スペース。
残ったのが、仕事用の道具置き場だ。
ここにも憲兵たちがいる。
「あっ、ワトサップ辺境伯代理! それといつものシャーロット様!」
「いつものは余計ですわよ」
あまりにも顔見知りになってしまっているので、顔パスで入れる。
私たちが幾つもの事件に協力し、解決に導いてきたので、憲兵を指揮する王宮の軍務卿も、「あの二人ならいいよ」と認めてくれたのだ。
日頃からいい事はしておくものね。
「仕事道具が盗まれたりしないように見張ってるんですよ。現場の調査は終わって、やることは他に無いんですけどね」
この時間帯に現場の責任者をしていたのは、憲兵失踪事件の時のオッペケ氏だった。
もう外で働いても良くなったのね。
「いや、あの時は大変お世話になりました! こういう見張りとか、あまり面白みのない仕事ばかりですが、外に出られるのは気分転換になっていいもんですねえ。もちろん、もう水麻窟には行きませんが!」
あっはっは、と笑うオッペケ氏。
その間にも、バスカーはトコトコと仕事道具置き場に入り込む。
他の憲兵を、もふっとのけてから鼻面を仕事道具に近づけた。
ふんふんとにおいを嗅いでる。
「もこもこしてる」
「近くで見るとしみじみでかいなあ」
憲兵たちの感心した声が聞こえた。
途中で、憲兵たちからおやつをもらったらしく、口をもぐもぐさせながらバスカーが戻ってきた。
「においを覚えた?」
『ふ』
口の中に食べ物が入ってるから、お返事も短縮バージョン。
それでもきちんと仕事をしてきたのだから、えらいえらい。
シャーロットもシャーロットで、オッペケ氏から色々事情を聞き終わったらしい。
「焼死体が見つかりましたけど、やっぱりあちこち炭化してて、もう誰だか分からなかったらしいですわよ。タクランダー氏は近所でも嫌われていて、やたらとお金にうるさい方だったそうで、怨恨からの犯行だと見られているようですわね。あるいは、彼がゼンニーン家へ」
「それはありそうな話だよねえ」
「ええ。分かりやすいストーリーですわ。だからこそ、憲兵はそう考えてしまった。不確実性の高い推論よりは、現場から導き出されるそれらしい検証結果の方が信用できますものね」
そして、シャーロットはいつの間に手に入れたのか、一枚の紙を私に見せた。
あちこちが焼け焦げているが、かろうじて文面と、タクランダーのサインが読み取れた。
これはもしかして……。
「借金の契約書ですわね。タクランダー氏はギャンブルが大好きだったようで、そちらで大きな借金を作っていたようですわ」
「つまりそれって、借金苦からの自殺……とか?」
「それにしては、きれいに仕事道具だけが焼け残ってますわねえ……。借金取りが押しかけてきたらしいのですけれど、憲兵たちに追い払われたそうですわ」
「ふむふむ。……それってもしかして。憲兵たちが、無料でガードマンやってくれてるみたいな?」
私の推理を聞いて、シャーロットが微笑んだ。
「そうなった方が、面白いと思いません? 亡くなった方はとばっちりで、大変な不幸だったとは思いますけど。そうしてまで家を燃やして、借用書もあわよくば燃やそうとしたのでしょうね。では、本人が生きているとすれば、どこに?」
「ああ!」
私は手を打った。
ゼンニーン家に財産を渡すという遺書は、燃えないように周到に金属の棚に入っていて、それに対する借用書は燃えても構わないとでも言いたげに放置されていたと。
「これって、計画的犯行だったりしない?」
「その通りですわね! ただ、どうしてタクランダーがゼンニーン家を嵌めようとしたのか、ですけれども。ゼンニーン氏とタクランダーは古くからの知己だったそうですし、そこに理由がありそうですわね」
シャーロットの目の輝きが増してきた。
「わたくしの頭の中で、九割方事件は解決しましたわよ」
「早い!」
「ですけど、今はそれを語る時ではありませんわ……。さあジャネット様! バスカーを連れて戻りましょう。ゼンニーン家にて、事件の真相を暴きますわよ!」
取って返す私たち。
私は早く、シャーロットの推理が聞きたくてうずうずするのだった。
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