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酒場ドタバタ大乱闘
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「良かった! ダンジョンから外に出られたあ……!」
カオルがダンジョン入り口から飛び出すと、思い切り伸びをした。
リュミも続き、地面の硬さを確かめるように何度も飛び跳ねる。
「足元もちゃんと平たくなってるです! 傾いてないですー!」
「俺も無事に外に出られたよ。ありがとう」
俺は二人に向かって礼を言った。
ダンジョンの中では、カオルの牽制攻撃とか、リュミの目潰し魔法が俺のサポートして働いた。
魔物どもの行動を妨害するため、たいへん役立ったのだ。
「でも、私たち、何にもできなくて……。魔剣なのに全然上手く決まらないし……」
「あたし、詠唱を噛んじゃって、光の魔法が上手く決まらなくて」
「ナイス牽制! 俺たちに大事なのは、勝つことじゃない。生き残ることだったんだよ!」
俺がグッと親指を立ててみせると、二人は顔を見合わせて、それから笑った。
「うん、そうだよね!」
「リードさん、改めて、ツイン・プリンセスに加わって欲しいです! 信頼できる人が見つからなかったので、あたしたち二人だけで行動してましたけど、リードさんなら信頼できるです!」
「ああ。正式採用になって俺も嬉しいよ。よろしく!」
俺は二人と固く握手を交わした。
時間はもう夕方。
ダンジョンから町に戻るには、真っ暗になっているに違いない。
「じゃあ戻ろうか。帰りも三人なら安心だな!」
「あの、それが、リードさん。私たち……」
「うん、ワープストーンで帰るので……」
二人は、背負い袋からワープストーンを取り出した。
しかも、マイティ・ホークの連中が持っていたものよりも、明らかに上質なタイプだ。
「あれっ、それがあるなら、すぐにダンジョンから脱出できたんじゃ……?」
「これ、回数制限が無い代わりに、決まった場所の行き来しかできないの」
「ならば、俺も一緒にワープさせて」
「そ、それがー。あたしたちのワープ先、えーと、その、ほら、男子禁制なので!」
「あっ」
俺は察した。
明らかに、俺が行くと大変なことになる場所へワープしてしまうのだろう。
例えばお城とか。
「じゃあ、また明日、ここで!」
「またね、リードさん!」
「また明日……」
彼女たちは消えていった。
そして、ダンジョンを抜けてくる途中で狩ったモンスターの素材が、俺の前に残された。
素材も回収していかないとか……。
明らかに、普通の生まれの冒険者じゃないじゃないか。
だが、これで俺はフリーでダンジョンに潜らなくてもいい。
素材も独り占めなら、悪くない稼ぎだ。
俺は素材を抱え、ほくほく顔で町へ戻った。
▲△▲
冒険者の店の扉をくぐると、一体になっている酒場から剣呑な視線が向けられた。
「はっ! よく一人であのダンジョンから出てきたもんだな?」
ヴィクターが俺に向かって野次を投げかける。
『目端』──発動。
だが、俺には分かった。
彼の手足が、微かに震えている。
何を恐れてるんだ、こいつは?
「そのまま死ねば良かったのに。ほんと空気が読めないやつ」
チェリーはいつも通り、と。
こいつホント性格悪いなー。
フラン兄弟は見るまでもないから無視な。
「おいっ!!」
「無視するなあっ!」
俺は耳をほじくりながら告げた。
「あれ? 誰かな君たちは。新しいパーティに再就職が決まった俺は、君たちみたいな過去を振り返ったりはしないんだけどなあ」
「てめえ、言わせておけば……!」
ヴィクターが立ち上がる。
ちょいと顔が赤いのは、酒が入っているせいだろう。
彼は優れた戦士だが、魔物相手でなければ大したことはない。
拳を作って、俺に殴りかかってくるヴィクター。
『起こり』──発動。
拳が速度を得る前に、彼の腕を横から打つ。
すると、ヴィクターは自分の力で自分を吹き飛ばしたようになる。
拳に込めていた力が自分に返り、ヴィクターはもんどり打って倒れた。
「お前ヴィクターを!」
「酔っ払いを殴るとはどういうことだ!」
フラン兄弟がいきり立って立ち上がる。
「どういうことだはお前らだぞ。酔っ払いを自由に歩かせたらいかんのだ」
俺は彼らを指さした。
「足元危ないから、ちゃんとお手手を繋いでてあげろ。マイムマイムでも踊ってな」
俺の挑発に、酒場がやんややんやと盛り上がる。
真っ赤になったフラン兄弟がこっちに向かってこようとしたので、
『間』──発動。
彼らが踏み出すタイミングで、俺は彼らの間合いに入り込んだ。
「っ!?」
虚を突かれ、呆然とする二人。
彼らの体勢が定まらぬ内に両脇へと突き飛ばすと、彼らは別のテーブルに倒れ込んでいった。
テーブルが崩れる音と、ぶちまけられるジョッキに皿。
「あーっ! 俺の酒が!」
「あたいの料理ーっ!」
飛び込まれたテーブルにいた冒険者が、フラン兄弟を殴り始めた。
にわかに酒場が活気づく。
立ち上がる冒険者たち。
喧嘩の輪に、彼らが次々に飛び込んでいく。
「大盛況だなあ……」
俺に殴りかかって来る冒険者をあしらい、かわし、するりするりと喧嘩の中を渡っていく。
俺はしみじみ呟きながら、冒険者の店のカウンターに向かうべく、酒場に背中を向けた。
『目端・起こり』──発動。
おっと、同時にスキルが発動した。
背後から飛んできたナイフを、振り返りもせずに避け、通り過ぎたところを指先で摘んで止める。
ナイフを投げた相手は誰なのか。
そりゃもう、とてもわかり易い。
「店の中で刃物を抜いちゃいけないな、チェリー」
「うるさい! さっさと消えな、この疫病神!!」
「へいへい」
俺は投げられたダガーを舐めた。
「あっ、何してやがるのさ!」
「存分にペロペロしたら返してやる! そーれ!」
「ひい、汚い!」
俺が投げ返したダガーが、チェリーのマントに突き刺さった。
ぎゃあぎゃあと叫ぶ声を背に、俺はカウンターに取り付いた。
「ということで、生まれ変わった俺です。ツイン・プリンセスってパーティに入ったからさ。記録書き換えてよ」
カウンターにいたのは、大柄で筋骨隆々の受付嬢ジェニファーちゃん。
オーガ族らしく、額からは一本の角まで生えている。
あっ、顔は超可愛い。
「ツインプリンセスってゆうとー。あ、これですねぇ」
声も超かわいい。
天使のようなウィスパーボイスだ。
ちなみに、あれだ。
この間土下座して、ただならぬ関係になった。
俺たちはデキてる。
「Eランク冒険者で、最近登録したばかりみたいですぅ。いつも町に立ち寄らず、ダンジョンに直接潜ってるみたいですけど」
「そうだねー。それにはやんごとなき理由があってねえ。とりあえず、素材持ってきたから換金してよ」
「はぁい! リードさん、クビになったって聞いたときは、性格的にやっぱりーって思ってたんですけど、すぐ再就職できて良かったですねぇ。ジェニファーびっくりー」
「うん。ジェニファーちゃん可愛いけど、いつも一言多いよねー」
ジェニファーはサラサラッと俺に関する記録を書き換えてくれた。
そして、素材も換金、良いお金になった。
これでしばらくは遊んで暮らせるけど……。
明日もよろしくねって言われたからなあ。
二人の姫……いや少女が、俺を待っているのだ。
カオルがダンジョン入り口から飛び出すと、思い切り伸びをした。
リュミも続き、地面の硬さを確かめるように何度も飛び跳ねる。
「足元もちゃんと平たくなってるです! 傾いてないですー!」
「俺も無事に外に出られたよ。ありがとう」
俺は二人に向かって礼を言った。
ダンジョンの中では、カオルの牽制攻撃とか、リュミの目潰し魔法が俺のサポートして働いた。
魔物どもの行動を妨害するため、たいへん役立ったのだ。
「でも、私たち、何にもできなくて……。魔剣なのに全然上手く決まらないし……」
「あたし、詠唱を噛んじゃって、光の魔法が上手く決まらなくて」
「ナイス牽制! 俺たちに大事なのは、勝つことじゃない。生き残ることだったんだよ!」
俺がグッと親指を立ててみせると、二人は顔を見合わせて、それから笑った。
「うん、そうだよね!」
「リードさん、改めて、ツイン・プリンセスに加わって欲しいです! 信頼できる人が見つからなかったので、あたしたち二人だけで行動してましたけど、リードさんなら信頼できるです!」
「ああ。正式採用になって俺も嬉しいよ。よろしく!」
俺は二人と固く握手を交わした。
時間はもう夕方。
ダンジョンから町に戻るには、真っ暗になっているに違いない。
「じゃあ戻ろうか。帰りも三人なら安心だな!」
「あの、それが、リードさん。私たち……」
「うん、ワープストーンで帰るので……」
二人は、背負い袋からワープストーンを取り出した。
しかも、マイティ・ホークの連中が持っていたものよりも、明らかに上質なタイプだ。
「あれっ、それがあるなら、すぐにダンジョンから脱出できたんじゃ……?」
「これ、回数制限が無い代わりに、決まった場所の行き来しかできないの」
「ならば、俺も一緒にワープさせて」
「そ、それがー。あたしたちのワープ先、えーと、その、ほら、男子禁制なので!」
「あっ」
俺は察した。
明らかに、俺が行くと大変なことになる場所へワープしてしまうのだろう。
例えばお城とか。
「じゃあ、また明日、ここで!」
「またね、リードさん!」
「また明日……」
彼女たちは消えていった。
そして、ダンジョンを抜けてくる途中で狩ったモンスターの素材が、俺の前に残された。
素材も回収していかないとか……。
明らかに、普通の生まれの冒険者じゃないじゃないか。
だが、これで俺はフリーでダンジョンに潜らなくてもいい。
素材も独り占めなら、悪くない稼ぎだ。
俺は素材を抱え、ほくほく顔で町へ戻った。
▲△▲
冒険者の店の扉をくぐると、一体になっている酒場から剣呑な視線が向けられた。
「はっ! よく一人であのダンジョンから出てきたもんだな?」
ヴィクターが俺に向かって野次を投げかける。
『目端』──発動。
だが、俺には分かった。
彼の手足が、微かに震えている。
何を恐れてるんだ、こいつは?
「そのまま死ねば良かったのに。ほんと空気が読めないやつ」
チェリーはいつも通り、と。
こいつホント性格悪いなー。
フラン兄弟は見るまでもないから無視な。
「おいっ!!」
「無視するなあっ!」
俺は耳をほじくりながら告げた。
「あれ? 誰かな君たちは。新しいパーティに再就職が決まった俺は、君たちみたいな過去を振り返ったりはしないんだけどなあ」
「てめえ、言わせておけば……!」
ヴィクターが立ち上がる。
ちょいと顔が赤いのは、酒が入っているせいだろう。
彼は優れた戦士だが、魔物相手でなければ大したことはない。
拳を作って、俺に殴りかかってくるヴィクター。
『起こり』──発動。
拳が速度を得る前に、彼の腕を横から打つ。
すると、ヴィクターは自分の力で自分を吹き飛ばしたようになる。
拳に込めていた力が自分に返り、ヴィクターはもんどり打って倒れた。
「お前ヴィクターを!」
「酔っ払いを殴るとはどういうことだ!」
フラン兄弟がいきり立って立ち上がる。
「どういうことだはお前らだぞ。酔っ払いを自由に歩かせたらいかんのだ」
俺は彼らを指さした。
「足元危ないから、ちゃんとお手手を繋いでてあげろ。マイムマイムでも踊ってな」
俺の挑発に、酒場がやんややんやと盛り上がる。
真っ赤になったフラン兄弟がこっちに向かってこようとしたので、
『間』──発動。
彼らが踏み出すタイミングで、俺は彼らの間合いに入り込んだ。
「っ!?」
虚を突かれ、呆然とする二人。
彼らの体勢が定まらぬ内に両脇へと突き飛ばすと、彼らは別のテーブルに倒れ込んでいった。
テーブルが崩れる音と、ぶちまけられるジョッキに皿。
「あーっ! 俺の酒が!」
「あたいの料理ーっ!」
飛び込まれたテーブルにいた冒険者が、フラン兄弟を殴り始めた。
にわかに酒場が活気づく。
立ち上がる冒険者たち。
喧嘩の輪に、彼らが次々に飛び込んでいく。
「大盛況だなあ……」
俺に殴りかかって来る冒険者をあしらい、かわし、するりするりと喧嘩の中を渡っていく。
俺はしみじみ呟きながら、冒険者の店のカウンターに向かうべく、酒場に背中を向けた。
『目端・起こり』──発動。
おっと、同時にスキルが発動した。
背後から飛んできたナイフを、振り返りもせずに避け、通り過ぎたところを指先で摘んで止める。
ナイフを投げた相手は誰なのか。
そりゃもう、とてもわかり易い。
「店の中で刃物を抜いちゃいけないな、チェリー」
「うるさい! さっさと消えな、この疫病神!!」
「へいへい」
俺は投げられたダガーを舐めた。
「あっ、何してやがるのさ!」
「存分にペロペロしたら返してやる! そーれ!」
「ひい、汚い!」
俺が投げ返したダガーが、チェリーのマントに突き刺さった。
ぎゃあぎゃあと叫ぶ声を背に、俺はカウンターに取り付いた。
「ということで、生まれ変わった俺です。ツイン・プリンセスってパーティに入ったからさ。記録書き換えてよ」
カウンターにいたのは、大柄で筋骨隆々の受付嬢ジェニファーちゃん。
オーガ族らしく、額からは一本の角まで生えている。
あっ、顔は超可愛い。
「ツインプリンセスってゆうとー。あ、これですねぇ」
声も超かわいい。
天使のようなウィスパーボイスだ。
ちなみに、あれだ。
この間土下座して、ただならぬ関係になった。
俺たちはデキてる。
「Eランク冒険者で、最近登録したばかりみたいですぅ。いつも町に立ち寄らず、ダンジョンに直接潜ってるみたいですけど」
「そうだねー。それにはやんごとなき理由があってねえ。とりあえず、素材持ってきたから換金してよ」
「はぁい! リードさん、クビになったって聞いたときは、性格的にやっぱりーって思ってたんですけど、すぐ再就職できて良かったですねぇ。ジェニファーびっくりー」
「うん。ジェニファーちゃん可愛いけど、いつも一言多いよねー」
ジェニファーはサラサラッと俺に関する記録を書き換えてくれた。
そして、素材も換金、良いお金になった。
これでしばらくは遊んで暮らせるけど……。
明日もよろしくねって言われたからなあ。
二人の姫……いや少女が、俺を待っているのだ。
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