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明かされる秘密!?(知ってた)

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 翌日だ。
 ダンジョン前で待っていると、昼前くらいに二人がワープして来た。
 今日はまた、全然違う装備に身を固めている。
 カオルは軽そうな黄色の革鎧。明らかに仕立てがよくて、魔法も掛かっていそうだ。
 リュミだってイメチェンしており、今日はうさみみが無くて明らかに人間で……って誰だ君は!?

「ひゃっ、い、いっけない!」

 慌てて物陰でうさみみを装着するリュミ。
 戻ってきたら、顔もうさぎ娘っぽくなっていた。
 そうか、マジックアイテムで変装してるのね……。
 でも、俺は空気が読める男になったのだ。
 知らん顔をする。

「リュミもいつもどおりだね!」

「ありがとうございますです!」

「リードさん優しいー」

 俺たちの間に、ほっこりした空気が流れた。
 だが、そんな俺たちの間を割って、ダンジョンに向かおうという連中がいる。
 Aランクパーティ、マイティ・ホークの面々だ。

「どけ、Eランクパーティ!」

 ヴィクターは、今にも俺を殺しそうな目で睨みつける。
 俺は目をそらす。

「どなたでしたっけ」

「くっ、くくくく」

 ぎりぎりと拳を握りしめるヴィクター。
 続くチェリーは、いきなり俺をひっぱたこうとした。

「ちょっと待って! 暴力はいけないよ!」

 割って入ったカオルだが、代わりに彼女が頬を叩かれる事になった。


「おいおい」

「ふん! 女に守られて! 情けない男!」

「不敬……」

 リュミが目をギラギラさせて何か呟いてる。怖い。

「お、おいチェリー、そこまでにしとけ。な? な?」

「は? 何よ、気持ち悪い猫なで声を使って! もう一発お見舞い……」

『間』──発動。

 スッとチェリーとの間合いを詰める。
 彼女の振り上げた手を抑えた。
 そして、尻でぼいーんと彼女を押し出した。

「あっ」

 チェリーが転ぶ。

「危ない危ない。手を挙げる相手は選ぶんだぞチェリー」

「は!? あんたが転ばせたんじゃない! 訳わからない! いこいこ!」

 憤然としながら、チェリーは去っていった。
 いや、危ないところだった。
 いくら性格が悪いチェリーと言えど、自ら地獄めがけて突っ走るのは見てられないからな。

「リードさんはお優しいのね」

「もしかして気づいてたりしますです?」

「いえ、なんにも?」

 俺はカオルとリュミを誤魔化した。
 無視された形になったフラン兄弟が、ピーピー言っていたが、それは割愛する。
 マイティなんとかさんというパーティがダンジョンに消えたので、改めて俺たちは今日の予定を話し合う。

「君たちEランクパーティだったのね。それはあそこまで潜ると死ぬよね」

「そうなんだよ。びっくりしたあ」

「カオルは、隠し部屋とか近道とか見つけるスキル、『大盗賊の目』があるんです。今回もそれでー」

 何そのスキル。凄い。
 盗賊いらずじゃん。
 俺のスキルなんて、工夫してタイミング図って使わないといけないし、絵的に異常に地味なんだよ?

「他は、剣術スキルと、運スキルがちょっとだけなんだけどね」

「あたしは、神聖魔法スキルと、詠唱短縮スキルくらいかなー」

 カオルとリュミ、顔を見合わせてあははと笑う。
 これはスキルを隠している顔だな!!
 だが、二人の素性を考えると、隠してもまあ仕方ないかなと思う。
 人間誰しも、二つか三つはスキルを持っているのだ。

「二人ともいいなあ。俺なんか、地味で微妙過ぎるスキルのせいでクビだよ……」

「リードさんは性格が理由じゃないかなあ」「リードさんは性格が理由じゃないです?」

 あっ、二人同時に!
 グサッと来た。
 この話はよろしくない。
 さあ、ダンジョンに潜ろう。

 ダンジョンに潜るのは、俺たち冒険者がこうして、あちこちに出来るダンジョンで魔物を退治しないといけないからだ。
 魔物は増えすぎると、ダンジョンから外に出てくる。
 そしてどれだけ狩っても、魔物はダンジョンで再生産される。
 ダンジョンそのものが、恐らくは巨大な魔物なのだろう。
 そして、ダンジョンの魔物を狩った時に落とす素材は、人間の生活に無くてはならないものとして、様々な用途に使われている。

きゅるるーっ!

「ローパーです!」

 リュミが警戒の声を上げる。
 ローパーは、サボテンみたいな体に、ゼリーみたいな触手が生えた魔物だ。
 触手に絡まれると、粘液で服が大変なことになる。
 女性冒険者の大敵だ。
 ちなみに、弱い。

「よし、俺は後ろから支援する! 二人で頑張ってみてくれ!」

「……とか言って、エッチなことになるのを期待してないよね!?」

「不敬です!」

「これは愛のムチなのだよ!!」

 だが、流石に見てるだけもあれなので、俺もスキルを使ってローパーの行動を妨害に回る。
 
『起こり』──発動。

 ローパーの動きを察し、触手の根本に拾った石指で弾き、撃ち込んでいく。
 これだけで、魔物は攻撃のタイミングを狂わされ、触手は二人の少女に届かない。

「てえいっ!」

 カオルの動きが目に見えて加速する。剣術スキルを使ったんだろう。
 明らかに魔剣っぽい刃が、ローパーの体に突き刺さった。
 あー、突き刺さったかあ。突き刺しちゃったかあ。

きゅるるーっ!

 ローパーが、カオルを触手でスッとハグして来る。

「きゃ、きゃあーっ!?」

 カオルが髪から鎧からネトネトだ!

「カオル! 今助けるです! ホーリーレイ!」

 リュミの手から、光が放たれた。
 熱を伴った光線で相手を焼く、神聖魔法だ。
 これも、相手が不死の魔物アンデッドだったら威力は倍増だったんだが。
 しかも、狙いが甘くて、明らかにカオルを抱きしめている触手に魔法がぶち当たる。

「あつっ!? リュミ、私に当たってるようー!」

「あっ、ごめんですー!?」

 ローパーの触手は飛び散ったものの、カオルもお尻を火傷してしまったようである。
 魔物と距離をとったカオルが、涙目でお尻をさすっている。

「嫁入り前に跡が残ったら、マーサがすごく怒る……!」

「後でヒールかけてあげるから!」

 ほっこりしながらこの光景を見守っていたのだが、ローパーが触手を再生させつつ二人に迫るではないか。
 いい加減、俺も手を貸さないといけない。 

『起こり・間』──発動。

 俺はローパーとの間合いを一気に詰めつつ、握った石を次々に放つ。
 それらは触手を打ち据え、魔物に攻撃の機会を与えない。
 そこからの、抜き打ちによる斬撃。
 サボテンのような胴体が斜めに切り裂かれ、魔物は動かなくなった。

「あー、もう、ネトネト……。お尻は痛いし……」

「今魔法使うから……ほんとにごめん! ごめんです……!」

 ピュリフィケーションと、ヒールの魔法が飛ぶ。
 どうやらリュミは、基本的な神聖魔法をすべて使えるようだ。
 神聖魔法とは、文字通り神の部類に属する魔法だ。
 解毒や傷の回復などは、この系統の魔法でなければ難しい。

 カオルの剣術スキルもなかなかの腕前だったようだし、二人とも将来性はあるんじゃないだろうか。
 俺がウンウンと頷いていると、二人がやって来た。

「リードさん、やっぱり私たちだけじゃ駄目みたい」

「今のリードさんの動きを見て、あたしたち、確信したですよ」

 二人が、ギュッと俺の手を握る。

「実は私たち、ただの冒険者じゃないの。とある大きな理由があって、こういうことをしてるんだよ……!」

「な、なんだってー」

 知ってたけど、俺は驚くフリをした。
 俺は空気が読める男なのだ。

「リードさん付き合いがいいです」

 リュミがにっこり笑ったのだった。
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