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第三部:覚醒編

99・俺、敵は天空の大盆と聞く

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 皇帝と色々話を詰めたぞ。
 ファイナル皇帝は、自ら前に出て戦いたいタイプの人だというのが分かった。
 実力は、イクサというセンサーを使って計測してみたのだが、

「強いな」

 というレベル。
 イクサが強いと言うならそりゃあめちゃめちゃな強さではないか。
 だが、新帝国皇帝という立場が邪魔をしてなかなか前線に出られないとか。

 そして皇帝曰く、

「天空の大盆はもともと、古き偉大なる帝国の帝都だったのだ。混沌の裁定者にそそのかされた最後の皇帝は、あれを空へと浮かべてしまった。大いなる崩壊から自らが逃れるためだ」

「ほうほう、そんな伝説が……。ラムハ知ってた?」

「大まかにはね。でも、皇帝陛下の方が詳しいんじゃない?」

 さすがは記憶喪失だがなんでも知ってるラムハだぜ。

「そして最近になって、天空の大盆の活動が活発化してきた。これまで、散発的に鋼鉄兵を地上に向けて落下させていたのだが、これを都市に向けて意図的に行うようになったのだ」

「うん、それは俺のクラスの五花ってやつが全部悪いんだ」

「うむ。余もそなたの言葉で謎が解けた。天空の大盆はその飛翔を続けるため、鋼鉄兵が集める生贄を常に必要とする。人の命を啜って空を飛ぶおぞましき遺跡だ。南にある海でも、人の命を啜っていたであろう」

「潜水艦な。思えばあれ、水中型の巨大鋼鉄兵だったんだな。エビはよく分からないけど。食えたし」

 皇帝はエビの話をスルーした。
 とてもスルー力が高い人だ。

「だからこそ、そなたが鋼鉄兵を従えていることに人々が驚くのだ。それは心など持たず、ただ人を狩り集めるだけの存在のはずなのだからな」

『エエッ、ソウナンデスカ!? 怖イナー』

 ダミアンGがドラム缶ボディを抱きしめてカタカタカタっと震えた。
 謁見の間にいる人達がこれを見て、ちょっとイラッと来たようだ。
 気持ちはわかる。

 ダミアンGに悪気はない……こともないな。
 意図的に煽ったりするの好きそうだぞこのロボ。

「これまでの天空の大盆であれば、我が帝国の力で倒せる。そうなるまで力を蓄えてきた。そして今、結実したのだ。だが、大盆がその身中に新たな敵を抱え込んだとあればそうはいかぬ」

 皇帝が真面目な顔で俺を見てくる。

「敵は、その敵まで呼び込んだのだ。それこそがそなたらよ、オクタマ戦団。頼りにしているぞ」

「ああ。請け負った仕事はきちんと果たすぜ。もともとの目的でもあったしな」

「うむ。報酬に関しては、財務大臣が担当するからその者と話せ。これにて謁見を終わる。解散!」

 皇帝が宣言すると、謁見の場に集っていた人達がぞろぞろと出ていった。
 残ったのは、皇帝とインペリアルガードの五名。
 そしてメガネっぽいものを掛けたおじさんである。

「財務大臣のゼニーです」

「凄くそれっぽい名前」

 俺はびっくりした。

「報酬について話をしましょう。今回の仕事、天空の大盆に乗り込んだ新たな敵、イツカと言いましたか。彼らはあなたがもともと追っていた相手なわけですから、これはこちらが依頼しなくても戦うことになっていたと判断します。つきましては、報酬に関しても必要経費のみでいいのではと……」

 あっ!
 こいつ、報酬を値切る仕事の人だな!?
 いかん、俺はそういうやり取りが苦手なんだ。

 周囲を見回すと、カリナとルリアとイクサが難しい顔をした。
 君達には期待してないよ!!

 ダミアンGがモノアイを光らせるがスルーしておく。
 アミラは……苦笑しながら首を横に降っていて、ラムハは肩をすくめている。

「……報酬の話はちょっと待ってね」

「待て、と言いますと」

「うちの傭兵団の主務がこれから来るんで」

 既にフタマタは、船に向かって走っている頃だろう。
 イーサワの到着を待たねば、俺達は報酬の交渉で値切られてしまう。

「報酬の話がまとまるまで、皆様には新帝国の宿を使ってもらうにしても、自費ということになりますが」

「野宿します」

「うわあーん」

 ルリアが悲しそうな声を出した。
 すまんなあ。
 せっかく宿に泊まってお風呂に入れるかもしれなかったのになあ。

 だが、お金は大事なのだ。

 ここで俺、ピンと来る。

「ダミアンG、お前に頼みたいことがある」

『何デス? イヤナ予感ガシマス』

 その予感は当たりだ。




『ヌワーッ』

 ダミアンGが叫ぶ。
 そして奴の頭の中にたっぷりと詰めた水が熱されていく。
 指を入れてみた。

「まだぬるま湯だな」

『鬼、悪魔、ろぼデナシー!』

「そりゃあ俺はロボじゃないからな」

 俺は悪い笑みを浮かべた。
 ダミアンGの尻を焚き火で熱して、中に入れた水をお湯にしようというのだ。
 そう、これはお風呂。

「で、ぶっちゃけダミアンG、熱いの?」

『ろぼハ痛覚トカナイデスカラネー』

「なんで悲鳴あげたの」

『ソノ場ノ勢イデスカネー』

 エンターティナーだなダミアンG。
 そしてお湯がほどよく温まったところで、熱された縁に布を被せて掴めるようにする。

「さあルリア、カリナ、お風呂になったぞ」

「わーい!」

「お風呂いただきます!」

 年少組の女子二人、ぽいぽいっと服を脱ぎ捨てる。
 俺、いい笑顔になる。
 これは不可抗力なので、ラムハも苦笑しながら見過ごしてくれているのだ。

 ルリアとカリナが、ざぶんとダミアン風呂に入った。

 まんまドラム缶風呂である。

「うひょー、生き返るぅ~!!」

「ああー、堪りません……!」

『極楽極楽……!!』

 なぜダミアンGまで嬉しそうなのか……?

「お風呂してる間に、お姉さん食事作っちゃうわね。傷んできたのから煮たり焼いたりするから」

 ダミアン風呂に使っている火力を利用し、煮炊きを始めるアミラ。
 資源の有効活用なのだ。
 その横で、イクサが真面目な顔で食材に串を通している。

 今日は串焼きか。

 ちなみに、俺達がいるのは帝都の門の真横。
 そこにテントを張り、お風呂を沸かし、キャンプモードバリバリなのだ。

 兵士達が困惑した目を向けてくる。

「オクノ、お風呂の順番についてだけれど、次はアミラか私かになるのね」

「どうしたんだラムハ、真剣な顔して」

「あの二人がはしゃいでて、結構水が減ってるの。私達、たっぷりとした水でお風呂を楽しみたいわけなんだけど……」

「なるほど、新たに汲んできてほしいと……!」

「頼めるかしら」

「お安い御用だ」

 俺は帝都の門をくぐる。
 なにせ、俺達オクタマ戦団は皇帝直々に雇われた傭兵団だ。
 まだ報酬の話が確定していないが、帝国にとっての客分であることに違いはない。

 門をくぐるのもフリーパスなのである。
 多少のお金を払って帝都の中に宿泊してもいいのだが、イーサワがこちらに到着する時間が読めない。
 節約するに越したことは無いだろう。

 お金を節約する理由はもう一つ。
 俺がアイテムボックスに内蔵していた武器の数々が、そろそろ幾多の戦闘でくたびれてきているのだ。
 新帝国で新たに補充したい。

 俺は武器屋などをウィンドウショッピングしつつ、井戸へと向かった。

「あらまた来たの」

「お兄さんのそれ、不思議ねえ。井戸水がどんどん吸い込まれていくもの」

「凄いでしょう」

 俺は近所の奥さんたちと適当な会話をしつつ、井戸から汲み上げた水をアイテムボックスに放り込む。
 ラムハ、アミラ、イクサ、俺。
 これだけあれば十分かな?という辺りで、また外へと戻っていくのだ。

 のどかな時間が過ぎていく。
 状況的には、天空の大盆は力を増しているし、ラムハの中に眠っている何者かの復活も迫っている。
 余裕はないのだ。

 だが、余裕がない時こそのんびりするのだ……!
 焦っても始まらないからな。
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