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第1章 気が付かない3人の関係

閨教育②

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【SIDE フレデリック第1王子】

 嬉しそうなファウラーから、アリーチェの報告を受けている。

「アリーチェ様の妃教育が、いよいよ全て終わりました。今まで全く講義を聞いていなかったアリーチェ様が、最後だけは、とても熱心に聞いて、質問までしていました」
「最後の講義は何だったんだ?」

「閨です。ぐゥッッふふっ。アリーチェ様は、いつも露出の多いドレスを着ていますもんね、そっちの方は、お好きなんでしょう。ぷっっ、良かったですねフレデリック様」

 もはや笑いを堪えてもいないファウラーは、ニヤニヤとしながら、私がどんな反応をみせるか期待している。……不愉快だ。
 色事が得意ではない私が喜ぶわけがないと分かっていながら、ファウラーは嬉しそうに話をしている。
 私の側近として仕えているんだよな、こいつは。
 ファウラーの態度も、アリーチェが閨事だけに興味があるのも、腹立たしい。

「おい、何が良かったと言うんだ! 彼女が初めて真面目に聞いていた話が、閨って……。リーのことをまだ諦めていないんだぞ。私がアリーチェの部屋へ行かなくても、そんなんでは、アリーチェが私の部屋に入ってくるだろう。はぁ~、もうここまでか」

「だから、体と心は割り切った方がいいですって。妃はアリーチェ様が断然に良いですから。実は、フレデリック様がお探しになっているリー令嬢が見つかりました」

「ほっ本当か! 今まで見つからなかったのに、信じられん。彼女はどこにいるっ?」
「僕が会ってきた限りでは、間違いなくフレデリック様の仰っていた令嬢なんですが、色々と問題がありまして」
「何だ! もう既に結婚していたのか? あのとき、親は商売人だと伝えたからな。正直なところ、私の言葉は、本気にされていない予感がしてたんだ」

「いえ、問題はそこではなくて、ですね……。男爵家の令嬢でした。それに、リー令嬢は事故に遭って、それ以前の記憶がほとんど残っていないそうです」
「じっ事故って、彼女の体は?」
「あっ、至って健康そのものなので問題はありません。それに、容姿も殿下の仰るとおりでした。これまで、殿下が高位貴族と言い続けていたので調べていませんでしたが、まさかリー令嬢が男爵家とは、盲点でした」

「男爵家……? あれ程の高等教育を、男爵家の令嬢が受けているとは思えないが。他人の空似ではないのか?」

「事故の後遺症で、フレデリック様とお会いした記憶は、リー令嬢にはありませんが、『例年にない暑い夏にリンゼーに行ったこと。その年は貴族達で湖周辺が、込み合っていた』と、男爵家の当主から、聞き知った話を聞かされました」
「……彼女の名前は?」
「リーシャ・オブ・グルーバー、男爵家の末娘です。会いにいきますか?」
「いや……、すぐに行きたいところだが、少し考えさせてくれ」

「賢明なご判断です。どう考えても、妃はアリーチェ様にするべきです。ご実家の力が、あまりに違いすぎますから。グルーバー男爵家の令嬢では、フレデリック様の妃には置けないでしょう。ですからリー令嬢は愛人が限界です。僕としては良かったですよ。フレデリック様が、妃との閨事に消極的になっていても、アリーチェ様が積極的なので丁度いいではありませんか。くくっ、頑ななフレデリック様でも、アリーチェ様に襲われて、一晩過ごせば、あとは流されていきますって」

「おい、私が襲われるって、なんだそれっ! 流石にあるわけないだろう。それに、アリーチェが、ワーグナー公爵家の令嬢だから妃にするわけではない」
 
 リーを求めて、アリーチェと離れることを想像した瞬間、ゾクッと背中に冷たい感覚が走った。
 なんだ、この感覚?

 リーと思われる令嬢が、男爵家だとか、記憶がないからは関係ない。
 リーが欲しいと思えば、そんなことは些細なことだ。
 でも、問題はそこではない。

 アリーチェを手放すのは、間違いだと体が反応している?
 彼女がワーグナー公爵家の令嬢だからか…………?
 
 講義中に1つの話も聞かず、私への手紙を書き続けていたアリーチェ。
 私を見た途端、嬉しそうにそれを持ってきていた彼女を、私は突き放せるのか? 自分でもよく分からない、自問自答が頭に浮かんだ。

 なんだ、この胸のもやもやは。
 やっと、探し求めていた令嬢が現れたというのに、少しも嬉しくないのは何なんだ?
 私はずっと、リーという幻に、捕らわれていただけだったのか?


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