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第3章 貴女をずっと欲していた

運命の赤い糸⑧

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【SIDE アリーチェ】

 わたしの事を間者だと勘違いしていたって…………、そんなあり得ない話を真面目な顔で言うフレデリック様。

「酷い。わたしが間者って……、どうして変な想像しちゃうんですか? もう。どうやっても見えないでしょう、ふふっ」

「もし、アリーチェが本当に敵国の間者でも、それならもう、アリーチェに溺れて死んでもいいと思った。その覚悟を決めるのに時間が掛かり過ぎてしまった。迎えに行かない私の所へ、アリーチェから2回も来てくれるとは」

 わたしが敵国の間者でもいいって、フレデリック様。
 もう……この国の王子様なのに、馬鹿なんだから。

「フレデリック様が好きだから」
「信じられない、夢でも見ているようだアリーチェ……。私は、アリーチェの為なら、命をかけられる、それくらい愛してる」
 ギュッとフレデリック様に抱きしめられて、これは夢じゃないって実感した。
 今まで、何度も勘違いをしてきたけど、今度こそ本当なんだって、堪らなく幸せな気持ちになった。

「――でも、まさか本当に、私が、ベッドに連れこまれて、服を脱がされるとは思ってもいなかった」
 フレデリック様が、また何を言っているのか、わたしは分からなかった。
 だってそんなこと、していないのに。

 してたッッ――!
「え――…………。ギャッ、本当だ、ちっ違います。そんなんじゃないですから」
 フレデリック様のお怪我に夢中になって、ままっまさか、わたし、なんてことをしてたの。穴があったら入りたい。いや、ないから、恥ずかしくて、ここから逃げ出したい。
 わたしは、立ち上がって逃げようとした――。

「そう、違うのか……」
 違うのか、と言われてズキンと心に痛みが走る。
 だって、わたしは、ずっとフレデリック様を待っていたから。
 だから自分で選んだ気持ちは――、これしかなかった。
「――ううん、やっぱり違わない!」
 わたしからフレデリック様の胸に飛びこんで、彼をギュッと抱きしめた。

 本当の夫婦のキスは、舞台の夫婦のとは全然違っていた。
 お互いの吐く息さえも求め合うようなキスは、2人の糸を結びつけるみたい。

 彼のキスで、まるで自分の体が溶けていくみたいに力が抜けてしまう。
 何度も息が苦しくなって離れても、もう1度彼のことを求めずにはいられなかった。
 頭の中が痺れていくと同時に、もっと、もっと、フレデリック様と1つになりたいと、勝手に体がうずいて教えてくれたから。

 フレデリック様がわたしの体に触れると、体の奥から自然に声が漏れた。
 初めて出る自分の声が、フレデリック様に快感を強請っているみたいに思えて、恥かしくてたまらなかった。
 わたしが恥ずかしいと言えば、フレデリック様は妻に襲われた自分の方が恥ずかしいと笑って、また、2人だけの秘密の約束をした。

 痛くてボロボロ泣くわたしに、何故か、フレデリック様も泣いていた。
 わたしを大切にしてくれる、その優しい手が、わたしの嫌なことはしないって分かるから、怖くない。

 2人の赤い糸が、2度と切れないように紡ぎ合って、初めて感じた温もりは、心地よくて、驚く程に熱かった。

 こんな幸せな時間が、この世界にあるって、今まで誰も教えてくれなかったけど、大好きな王子様が初めて教えてくれた。
 ううん、きっと、フレデリック様じゃなかったら、わたしはこの幸せを知らないままだった。
 この腕の中、それ以上に安心する場所はないから。


 あの日、リックに出会う奇跡がなかったら。
 出会って直ぐに好きだと言ってくれたリックが、わたしの心の中にずっといなければ、わたしはきっと、もっと昔にマックスに流されてた。

 弟しか知らなかったわたしは、フレデリック様と同じ位、優しい手の弟へ、何も考えずに恋心を抱いたはずだもの。

 でも、好きな人と1つになった今なら分かる。
 自分が安心できる人以外に、触れられるのは、絶対に無理だって心と体が拒絶する。

 もし、マックスに流されていれば、わたしは……誰かと……。
 それを分ってから、引き返すことのできない自分を想像して、思わず身震いする。

「アリーチェ、寒いの?」
「寒いのは苦手だけど、フレデリック様がいるから温かい」
「可愛いぃ」
 わたしの瞳の映る、あの日のままの王子様に改めてドキッとした。
 ずっと、わたしを引き留めていてくれて、ありがとうリック…………。

「フレデリック様の方がカッコいいわ。出会って直ぐにプロポーズするなんて」
「アリーチェに、悲しい想いをさせるつもりで言った訳じゃないんだ。目の前にいて、気づかないなんて、本当に自分が情けない。怒ってくれて構わない」

「少しも怒っていないから気にしないで。それよりも、わたしの大切な王子様は、この先も、わたしが守ってあげるから安心してください」
 フレンツ王国…………。
 この国を、属国にはさせないから。

「いや、絶対に何もするな。アリーチェは、ずっと私の傍にいるだけでいい。頼むから勝手に変なことはするな。守ってくれと、アリーチェには頼んでいない。1人で勝手に動かれる方が困る」
「フレデリック様酷い、そんな必死になって拒絶しなくてもいいのに。わたしのこと、やっぱり信用してないんだ。おかしいと思ったんです、急に優しくなったから」

「違う、そうじゃないから。アリーチェに何かあったら、私が困るから」
「ふふっ、こう見えて、しっかりしているんですよわたし。だから大丈夫です。王城の資料庫だって1人で行って、ちゃんと調べられるし」

「駄目だ、アリーチェは1人では手に負えん」
「2人でやれば何とかなります」

 大丈夫、フレデリック様となら絶対上手くいくもの。


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