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序章 日の目をみない「奇跡の力」と憂鬱

疑念(SIDEジュリアス第2王子)

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 兄はこの1年、常にソフィア嬢のエスコートをしている。
 ソフィア嬢の社交界デビューで、兄とソフィア嬢がダンスを踊った後から、兄はソフィア嬢に寄り添い、傍を離れなくなった。

 無責任なところもあるが、面倒ごとを嫌う兄。女性遊びを好む性格ではなかったのだが。あれほどまでに、ソフィア嬢に執着する理由が分からない。
 それ以降は、どの夜会でも仲睦まじく寄り添っている2人の姿のせいで、兄の婚約者が替わるのではないかと、社交界でも噂されている。

 父である国王が、リディアンヌ嬢の立場をおもんばかり、表立って王族側は動けていないのだ。
 ただ、兄の気持ちはリディアンヌ嬢には全く向いていない。
 国王は、水面下で様々な画策をしているが、どれも整っていないから、公にできない事ばかりである。

 社交界の噂を、これまで耳にすることのなかったリディアンヌ嬢。
 ここ何年も、リディアンヌ嬢に接する兄の態度は、冷酷なものだが、今日初めて、あの2人の様子を見たのだろう。
 以前は、私の目から見ても、仲睦まじい婚約者同士だったのだが。

 兄は、絶対的な聖女様信仰が強く、リディアンヌ嬢が聖女に似ている事に惹かれたのだろう。
 だが、王城の教育を受けても癒しの力を使えないリディアンヌ嬢に対して、兄は興味をなくしている。

 期待を裏切られたと感じた兄。それまで好意を抱いていたリディアンヌ嬢との関りを、完全に拒絶している。

 精霊の力を使える者は、血脈によって受け継がれ、シェルブール家といえば、血脈は王族に匹敵するほどである。
 これまで、縁故による当主などはいない家系で、純粋に当時の血が受け継がれているはずなのだが。

 以前、王城の教師が、リディアンヌ嬢について話していたことがあった。
 理解しがたいが、リディアンヌ嬢は癒しの力を使わないのではないか? 
 精霊の力は感じているのではないかと。
 
 先ほど、癒しの力をリディアンヌ嬢へ使ったが、見てわかる傷もなければ、痛みもない体。あの状況では、感情の高ぶりによる混乱を、寄り添う者がいたため、気持ちが静まったと考えるかと思ったが、リディアンヌ嬢はきちんと分かっていた。

 そして……さっきの……? 
 リディアンヌ嬢が輝いて何か溢れているように見えたのは、目の錯覚か?

 今は、わからないことは多い。正直なところ、もう少し彼女の事を知りたい。

 ****

 ジュリアス王子を1人残して帰ったリディ。 

 父が迎えに来たころには、乱れた感情も魔力もすっかり落ち着いた。
 だけど、私が放出してしまった魔力により、この国に変化が起き始めたことを、私はまだ、気づいていなかった。






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 第10話を読んで、いただきありがとうございます。
 婚約者の浮気、もう一人の王子の動向、この国の変化……
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