24 / 85
本章1 本当の姿

魔物と魔法

しおりを挟む
 湖周辺には魔物から漏れ出る魔力が漂っていた。
 でも、その魔力はとても不安定で、普通ではないことを肌で感じる。

「殿下、もうすぐです。危険ですので、こちらで待っていてください」

「危険と言われて、女性一人で行かせるわけがないだろう」

 この国一番の剣士とも言われるこの方は、紳士なようだ。
 でも、王族には不信感しかないので、決して信用してはいけない。

 気配としては大きい魔物……なのに、バランスの悪い魔力。どこか怪我をしているのかしら?
 
 肌で感じるその先へ向かう私。
 うずくまっているのは竜!?
 
 初めて目にする魔物が、まさか上位の魔物とは……私って、どれだけ運がないのか?

「何故こんな人里に魔物が?」

「殿下、お下がりください!」


 ジュリアス王子の前に出て王子を守るレイル様。

「ふふふ、やばいことになりましたね。リディアンヌ嬢。後からきっちり説明いただきますが、とりあえず、この状況をどうにかしなくてはなりませんね。ふふふ」

 クルリさんのテンションって、よくわからないわ……。

 どうすべきか迷っている時間もなく、竜は我々の気配を察知し、威嚇体制を取り始めた。

 瞬間息を吐く如く、私たちに炎を吹く。


 私の反応は、優秀な3人の足元にも及ばなかった。

 それぞれが、華麗に炎をかわし攻撃を避ける。

 ジュリアス王子が私のことを抱きかかえて、躱してくれていなければ、今頃は丸焼けだったかもしれない。


 魔法が使えても、瞬発力も運動能力も、鍛錬をしていないただの令嬢だった。

 過信していた自分の甘さを反省した。

 俊敏な動きなど、とれるはずはなかった。魔法を使えるというだけで思い違いをしていた。
 現実を目の当たりにして、恐怖心に駆られる。

「リディアンヌ嬢、大丈夫か? 今のはただの挨拶だろう、まだ来るだろうから油断するな。しかし、今の炎で、周辺の木々が燃え始めたか。逃げ場はないから、ここは、何とかするしかないな」
「……」

「大丈夫ですよ、リディアンヌ様。ここには、王国の1番と2番の剣士がいますからね。ふふふ」

「誰が、2番だと! まだまだ泣きべそ殿下には負けません」

「泣きべそとはいつの話だ! そんなことより、火の手が早い。ここにいるだけでも既に危険だ」

 王子の言うとおりだ、目の前にいる竜も危険だが、この場に立っていることさえも既に危うい状況だ。


「……ハイパーレインドロップ」
 魔法詠唱を唱えると同時に、すさまじい量の雨が降ってくる。

 !? !? !?
「あっ、やり過ぎたかしら?」

 おかげで、周囲の火は消え、全員ずぶ濡れになる。

 濡れた服が体に張り付き、下着が透ける。顔が赤くなる私……。

 ! ! !

 ジュリアス王子が左右の腕を伸ばし、控える2人の視界を塞ぐ。
 見苦しいものを……お見せしてすみません。


 気まずくなり、瞬時に風魔法で乾かす。
 !? !? !?

 私たちの様子を見ていた竜は、それ以上の攻撃をしてくることはなかった。

 目の前に現れた人間たち。否、リディアンヌを見ていた。
『お前は何者だ!』

 上位の魔族は話せることは知っていたが、この竜も例外ではなかったようだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

処理中です...