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本章2 王子の恋心

王子の片想い

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 リディは、竜に返事もできないまま、意識を失った。

 私にも同じ経験があるからわかるが、このまましばらく目覚めないだろう。
 私は、リディが振り落とされないよう、しっかり抱き抱える。
 こんなに1人で頑張って……

 本当は、もっともっと前から限界だったのだろうな。
 自分の辛さを我慢しないでくれ。
 竜だけでなく、私にも甘えてくれ。


 竜が私の事を恋人と呼んだのは嬉しかった。
 恋人という言葉に顔がにやけてしまった。

 なのに、間髪入れずに否定されて、どれだけ悲しかったか……
 王族に信用はないのだろうが、どうか、私を1人の人間として見てくれないか?
 1人の男として……


 周囲も暗くなったことで、人目もすっかりなくなったな。
 竜に邸の近くまで送り届けてもらい、リディを抱えてシェルブール邸へ戻る。

 伯爵はリディの事をひどく心配していた。

 リディを邸の者に部屋まで運ばせると言って、私から引き取ろうとしていたが、他の者にリディを抱えさせてたまるか。

 私はこのまま部屋まで運ぶことを主張し、その権利を正式に父親から与えられた。
 与えられずとも、無理やり実行しただろうが……

 伯爵も今日の事について、報告を待っているだろうから、リディを横にして直ぐに戻るのが正解だろう……

 だが、片時も離れたくない。ここから離れたくなくて、握った手を離せない。

 ーーーー
 扉がノックされる。
 開く事のない扉から、声をかけられる。

「お早いお戻りでしたね、お帰りなさい殿下。陛下への伝令は済ませてあります。リディアンヌ様の力を兄君殿下に知られる前に、早急に婚約に関する全ての準備を完了する必要があります。先ずは父である伯爵に殿下から説明をお願いします。できれば承諾まで取り付けてくださると、この後の予定が盤石になります。ふふふ、リディアンヌ様の傍を離れるのが名残惜しいのはわかりますが、テキパキと片づけてください」

 一方的に言い切ると、私の返事など待ってなどおらず、扉の前の気配が無くなる。

 優秀過ぎる私の側近は、いつだって、先を見据えている。

 全てを見透かされていて腹立たしいが、ここまで私の気持ちを理解する側近など、クルリしか今後もいないだろう。

 リディの力を兄が知ったら……兄は間違いなく、婚約破棄自体をなかったことにするだろう。

 ソフィア公爵令嬢との婚約も、容赦なく破棄するだろうな。

 あの2人……公然の場で関係を晒していたのだから、ソフィア嬢が婚約破棄されることになったら……令嬢としての未来は…………

 兄がリディを取り戻せないところまで、私とリディの婚約が整ってから、兄にはリディの力のことを耳にしてもらわねばならない。


 兄も問題だが、当のリディもシェルブール伯爵も王族に嫌悪感がある。

 私が婚約を望んでも、頑なに拒む可能性もある。
 伯爵に私の気持ちを伝え、……私の想いは、兄とは違うことを伝えなくては。

 名残惜しいが、リディの元を離れ、伯爵へ報しに行くことにした。

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