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本章2 王子の恋心

父の想い

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 シェルブール伯爵は応接室で、私が来るのを待っていた。

 カミツキラビットの大群と奴らを囲って放牧していることは、クルリから既に報告されている。

 リディが森の1区画を残して、森の植物を復活させたことを説明する。

「森の最東部となると……カモメイル州の直轄地ですな。それであれば、カモメイル公爵の持つ、軍の駐屯地ということですか」

「万一、魔物に動きがあっても、多少は対処できるだろうな。でも、そうならないよう、明日またそこへ行き、森を復活させる予定だ」

 魔物の食糧不足だけなら、リディの力で、食い尽くされた植物を復活させることで、この先も何とかなるだろが……。

 魔王は何を考え、今は何をしている?
 奴が動き出したら……。


 明日の予定を伝え終わったところで、私は姿勢を正した。
「シェルブール伯爵。……伯爵は……リディの今後の婚姻について、どのように考えている?」
 一瞬悔しそうな表情を見せた伯爵だが、直ぐに表情を戻す。

「あの子がたった7歳の頃に……カールディン殿下が直々に婚約を望まれたのに……」
「……兄上が誠意のない態度を取り、申し訳ない。兄との婚約は解消されたが、リディの嫁ぎ先に、あてはあるのか?」
 回りくどい言い方に、クルリが何か言いたげな顔をしている。

「嫁ぎ先にあてなどありません。今も昔も、私はあの子が一緒になりたいと思う人が現れたら、そうしたら良いと思っておりますから。……あの子の性格ですから、貴族との堅苦しい結婚も嫌うでしょう。身分など気にせず、平民になるのが良いのではないかと考えてます」
 伯爵は私をしっかり見つめ、威圧的に続ける。

「昔に仲の良かった友人も立派な青年になってますからねぇー。あの子はしばらく会ってないですが、王都から領地に戻ってきたので、昔みたいに会う機会も多くなるでしょう。きっかけはいくらでもありますから、心配はしていません」
 何てことだ、質問を大いに間違った! いらない確認をして、この後の話を切り出しにくくなってしまった!


 当主の中に、少しも……否、絶望的に私はリディの夫として受け入れられていないことを伝えられた。
 ここで怯む訳にはいかない。たとえ絶望的な戦況でも。
「伯爵。私は私の妻にリディを望んでいる。リディの婚約を承諾していただきたい」
「承諾いたしません」

 迷いも躊躇もなく、間髪入れずに私の申し出を断られる。

「全く同じことを、8年前に言ってた殿下がいました。我がシェルブール家は、王族からの、そのような言葉は、2度と聞き入れません。あの時……押し切られたせいで、あの子と過ごせるはずだった時間を失い、無駄に使ってしまいました。それなのに、結果として、婚約者から見向きもされず、要らない噂を立てられて…………そんな不憫な思いは、させられません」
 伯爵は、こぶしを強く握り、私から目を逸らさない。

「伯爵…………もし、私の求婚にリディが同意してくれたら、許可してくれ。リディが、ありのままでいられる暮らしを必ず用意する」
「それは結構ですが、リディは王族になることなど望まないでしょう。早めに諦めてくださいますようお願いします」

 伯爵の言葉にムッとした私。

「私の妻は彼女以外考えられない。彼女が私を見てくれるまで、諦めることはないと伝えておく」
「無理強いだけは、決してされませんようお願いします」
 伯爵との話し合いは平行線に終わり、シェルブール家が王族への不信感を強く抱いていることを突き付けられる。

 私が王都へ戻った後に、他の男と会うなど……。
 絶対に受け入れられない。

 王都に戻るまでに、リディとの状況を何としても変えたいものだ。

****

 クルリから、「回りくどい言い方をするから、話の主導権をシェルブール伯爵に持っていかれたのだ」と、当主から承諾を取れなかったことに、嫌味を言われながら、宿へ戻る事となった。

 シェルブール領について、たったの2日間。

 これまでの人生で、経験のしたことがない出来事の連発。

 怒涛の2日間……。
 寝台に入って、リディの姿を思い出すも、直ぐに意識は途切れた。

 急ごしらえで手配した、安宿の古びたカーテンの隙間から、あっという間に朝日が差し込む。

 新しい1日の始まりか…………。


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