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本章3 魔王の力

気まずい2人

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   信じられない……突然。皆が見てるところで、口づけをするなんて……。
 何を考えてるの!
 照れて真っ赤になっている自分の事も、恥ずかしくてたまらない――――。

「心配かけてすまない。それと……断りもなく、唇を奪ってしまってすまない。戦闘で興奮していたところに、抱きつかれて……欲望が抑えられなかった」
 
 えっ、すまないなんかで、済むわけないじゃない!酷い……心配したのに。
 抑えらないからって、誰にでもこんな事するのっ!
「…………酷い、一方的にこんなことして。こういうことは軽率にすることじゃない! 泣きついたのは軽率だったけど」
「一方的だったのは、その……すまない…………」


 不穏な空気が2人を包む。
 見ていられなくなったクルリが声をかける。
「ふふふ、殿下素晴らしいです。意気地なしだと思っていましたが見直しました。ふふふ」

「いたのか……」

「当たり前ですよ。まだ、他にも魔物がいるかもしれないのに、無防備な殿下のお傍を離れられる訳がありません、ふふふ」

「この近くに、魔物はいないわ。クルリ! あなたは、魔物より暴君なジュリアスの動きに注意すべきよ。信じられない……こんなことして……許せ」
 私の言葉は途中で遮られる。

「リディアンヌ様。我が主は暴君ではありませんよ。どんな男性も戦闘中は気持ちが昂ります。高ぶった感情は……、まあ、人それぞれの方法で発散させますからね。戦闘直後の殿方に無防備に接すると危ないので気を付けてくださいね。それとも……リディアンヌ様は殿下を誘惑しているのですか?」

「っ違う。そんなことない」

「そうですか、誘惑しているのでしたら、良かったのですが……。てっきり私は、怪我をしても容易く治すことが出来るにも関わらず、リディアンヌ様が殿下に大げさなほどの心配をなさっているから、誘惑なさっているのだと思いましたけどね。……違いましたか? ……我が主は、女性関係には慣れておりません。今の事で殿下のお心に影響を与えてしまったら……、責任はとってくださるのですよね! リディアンヌ様がその気にさせたのですから、ふふふ」
 
 怒ってたのは……私だったわよね……?
 嬉しそうに笑っているクルリの言葉に、危険を感じ身震いする。
 ……怖い。

 気まずそうな顔をしているジュリアスが、申し訳なさそうに声をかけてくる。

「困らせてすまない……。そんな不安な顔しなくても、先ずはこの場を片づけるからな」
 
 先ずは……?

「何か色々ごめんなさい……。そうね、魔物の問題を何とかしなくちゃね」

 府に落ちない事はいっぱいあるけど、しなきゃいけないこともいっぱいある。

 赤く染まった頬は直ぐには戻らないけど、やるべき事に目を向ける。


「話が途中になりましたが殿下! 先ほどの魔法?」
 駆けつけたリディに気がそれてしまったが、レイルはそのことが気になって仕方ない。

「ふふふ、流石です殿下。空気中に漂う魔力を瞬時に使って、術式を展開させる手腕。恐れ入ります」
「珍しく褒めるが、クルリも考えていただろう。お前なら既に、私よりも術式に精通してるだろうが」
「ふふふ、それは主を立てておくために、お答えできませんが、ふふふ。アイスボールでしたら、周囲の者には、何が撃ち込まれたかも分からないでしょうし、証拠も溶けてなくなりますから、的確な判断です」
「魔王から漂う魔力で魔法を使ってみたが、上手くできて良かった。まあ、リディが使える魔力量とは比べ物にならないはずだから、小手先の攻撃に過ぎないが」

 そうは言っても、的確に魔物の急所を狙って撃ち込まれたアイスボールによって、ビッグボアは完全に仕留められている。

 戦闘に関して凄まじいセンス。
 それに、この短期間で、我が家の書物の情報を正しく理解し、魔法を使える程、術式を理解して……。
 攻撃できる速度で打ち込むには、アイスボールの形、大きさ、そして飛ばす事にも速度負荷をかけなくてはいけない……。

「ジュリアス、凄いわね。驚いた……。でも、これで、この国は、魔法の術式が分かれば、誰でも魔法が使えるということね……」
「そういうことだ」
「ねえ、あなたの立場なら王城の禁書でも読めるのよね……魔法に関しての知識を、この国で他に知っている方は存在するかしら?」
「王城の禁書に書かれている知識は、全て頭に入っている。だが、その知識では、魔法を使うことはできない。根本の術式の記載が一切ないからな。シェルブール邸で得た知識がなければ、私も使うことが出来なかった。今の時点で魔法を使える者は、リディの周囲にいる人物だけだろう」

 我が家にある……あの書物が、この瞬間から、これまで以上に恐ろしく価値のあるものに変わってしまった。
「……ジュリアス。私の力の事や、我が家の書物の事を、既に陛下に伝えてしまったのかしら……」

 権力者たちが、その価値を欲して、我が家の大切なものを奪われるのが怖かった。

 幼いころ……。我が家の書物に囲まれて、父の話を心躍らせて聞いていた、大切なものを……失うかもしれない。
 続けて、これまでずっと怖かったことを問いかけた。

「もし……魔王が人の生活を襲い始めたら…………500年前と同じ事を私に要求するの?」

「――! なっ何を馬鹿な事を! リディを犠牲にできるわけがないだろう。その事は2度と考えるな、絶対にさせないから安心していい。陛下にはシェルブール家の秘密は、まだ一切報告していない。報告する時は、私の口からと決めている。書簡などで誰かに見られても困るが、文字などでは十分に伝わらないだろう……。リディ、人前で無闇に力を使わないでくれ! 特に、ここは我が国の大臣でもあるカモメイル公爵の直轄地だ。あの、狡猾な男に情報を掴まれたら、どんな動きをするか心配だ」
「…………わかった。でも、これだけはお願い。我が家の書物は、家族の大切なものだから、奪わないで欲しい」
「分かっているから気にするな。でも……公爵はこの国1番の知能を持つ、クルリにあれを読ませたからな。あいつの頭の中には一字一句違わず、全ての情報を記憶してるはずだ。書き起こせば、複製も作れるが……。あいつは私の望まないことはしないから、心配はしていなくて良い」
「私は歴代の当主達が書いたものが無くなるのが嫌なだけ……我が家のものが奪われないなら、情報の管理はジュリアスに任せるから」
「感謝する。だが、もう少し考えさせてくれ」

 恐るべきクルリの知能ね。いつも良くわからない事ばかり言っているけど、難しい言い回しなのかしら。 
 口喧嘩では絶対に負けるわね…………。


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