44 / 85
本章3 魔王の力

初めて

しおりを挟む
  キュアに乗ってカモメイル公爵直轄地へ向かっているけど、どこに降り立つかが問題になる。現場に少しでも早く到着するには、近くで降りるのが1番良いに決まっている。だけど、「竜の到来」なんて、間違いなく住民たちが大混乱を起こしてしまう。



 もどかしさは残るけど、住民達に不安を与えないように、人目のない森付近で降ろして貰うことになった。

 魔物の気配を感じるその場所までは、まだ距離がある。



 私が 魔力を探知してから、現場に着くまでは、思った以上に時間がかかってしまった。

  現場に着くと、所々に破損した家屋が目に入る。

 こんな町の中にまで、魔物がやって来るなんて。昨日のうちに、森の全てを回復出来ずに寝てしまった、自分を恨みたくなる。



 もし、怪我をした人がいたら…………私のせいだ…………足が震える。



 あの倒壊した建物の中に、人が残されていたら……怖い。



 ジュリアスが私の手を握る。握られた手に力を込め、悔しい気持ちを伝える。

 頼れる存在に、背中を押される。



 私がすべきことをする。…………嘆くのは、後でも出来る。



 負傷者がいるかも分からないけど、壊れている家屋のある一体に癒しの力を満たす。

 ジュリアスは何も言わず、横にいる私を見つめている。何をしているかは、分かっていて、何も言わない。



 よし! 次は早く魔物達を何とかしなきゃ。

 複数の魔物の気配を感じる先へ目を向ける。



 大勢の騎士がビッグボアを取り囲んでいる。

 ここからだと、視界に入るのは1頭だけ。



 ビッグボアは別々に動いているようね。



 足の速いビッグボアは、騎士達の隙間を抜けて、様子を見ていた人々の群れに突進する。

 悲鳴や叫びが一斉に響く。

 気が立っているビッグボアを前に、騎士達は何も出来ずに見守っているだけ。



 私がビッグボアの元へ行こうとした、その時、ジュリアスが私の前へ立ち塞がった。



「この場は私が何とかするから、リディは森の再生のために力を残しておけ」



「ジュリアス…………」

 

 剣を鞘から抜き、ビッグボアに向かって走って行く。

 レイルもジュリアスに遅れることなく討伐へ向かう。



 私の傍には、クルリだけが残っている。



 2人の剣技の優秀さは知っている。それでも、相手は俊敏な魔物……大丈夫かしら。



 だけど、心配は良い形で、簡単に裏切られてしまう。

 レイルがビッグボアの気を引いているうちに、あっという間にジュリアスがビッグボアに留目を刺す。

 こんなに、あっという間に討伐できるなんて。

 2人の動きは凄いわ! 一切の怯みがなく、躊躇ない動き。

 カモメイル公爵の騎士達が手も出せなかったビッグボアを、たった2人で瞬殺してしまった。



 カミツキラビットとは違い、動きが早くて力が強いビッグボアは、安易な攻撃は命取りになる。

 怒り狂って、ますます凶暴になってしまうから。



 安堵した瞬間! ――――危ない!

 

 仲間を失い、怒り狂うビッグボアが陰から飛び出してきた。



 同時に2頭のビッグボアが、ジュリアスとレイルの背中から襲い掛かる。

――――やめて――――!



 魔法を発動しようと思った、その時――――。



 それより先に、2人の手前で2頭のビッグボアは同時に倒れ、ピクリとも動かない。



 魔法?




「……っはぁ……っはぁ。危なかった! 上手くできて良かった!」

「殿下! 今のは?」

「レイルは見えただろう? ……っはぁ、アイスボールを発動させてみた!」

「もちろん見えましたが、殿下が魔法を使ったんですか?」

「ああ、試してみた!」

「試してみたって! 殿下!」


 私の拍動が煩い。



 目から涙が止めどなく溢れて視界が悪くなる。そんな事は気にしていられない。
 自然とジュリアスの元へ走り寄ってしまう。



「ぅっうっ…………無事でよかった、うっ…………」

 ジュリアスに泣きついた。

 傷一つないことに、心から安心した。
「私の事をそんなに心配してくれたのか? 嘘じゃないよな? 大丈夫だが、大丈夫ではない。無理だろう、こんな時に…………後で怒るなよ……お前が悪い」

 私の頭を優しくなでるジュリアスの心地よい手を感じていたのに、顎を持ち上げられ唇に温かさを感じる。

 ――――!!

 慌てて目を開ける。

「こういう時は目を閉じるものだ」

 言われた瞬間、再び柔らかい感覚が唇に触れたかと思うと、初めの触れただけのものとは違い、舌が口の中這うような、ジュリアスからの深い口づけが……。

 

 ――――何! 何! なんで!! どうしてこんなこと……。

 唇が離された後に、発する言葉が見つからない。


 ――――恥ずかしくて、頬が熱くなる。
 突然のことで、どんな態度で接していいのかわからない。
 

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

処理中です...