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本章3 魔王の力

ジュリアス第2王子の心配

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(SIDEジュリアス)

 レイルをモンテール侯爵領へ送り出した頃には、既に昼下がりになっていた。

 モンテール侯爵家については、降嫁した私の姉が侯爵婦人として、邸を切り盛りしているから、心配はしていないが……。
 腕が立つとは言え、臣下1人に負担を強いる事になってしまい申し訳ない。

 全くもって、想定外の出来事である。十分な準備もせずに出発させてしまった。

 レイルであれば、侯爵邸までは日没までには間に合うだろう。

 心配は……モンテール領からシェルブール領への移動だな。
 あの区間は、距離があることもそうだが、険しい道ばかりだ。私が王都に帰るまでに戻って来られるか……。

****

 リディは竜を念話で呼び出している。
 ーーーー!! 失敗した。
 焦っていたが、レイルに念話の送り方と、受け方を伝えておけば良かったな。
 クルリと違い、レイルは根っからの騎士だ。あの書物に、ただ目を通しただけで、中に書かれている意味は分かってないだろうな……。
 
 リディは、昨日のうちに森を再生しきれていない区画へ、癒しの力を充満させている。その効果によって、次々と森の緑を蘇らせている。
 その姿があまりにも楽しそうで、思わずこちらが微笑んでしまうほどだ。
 可愛いな。

 今日もリディに振り回されっぱなしだった…………
 恋人関係を竜に否定しなかったことを酷く怒っていたし、眠ったリディを私が寝台まで運んだことも酷く怒っていた。でも、私は次も同じ事をするから、何も言わないでおいた。
 なにより、謝まることではないのだから。

 私は竜に恋人と呼ばれて喜んだのだが……。全く相手にされていないことを明示されたようで、正直なところ相当な衝撃だった。
 あの、クルリが嫌味を言わなかった程に……
 
 それが、ビッグボアに襲われそうになった時。今朝の冷たさが嘘のように、私の事を心配して駆けつけてくれたリディ。
 私に縋るように泣くなんて。嬉しすぎた。
 悪いとは思ったが、我慢できる訳がないだろう。
 リディの唇もあふれる唾液も甘くて、もっと続けたかった。本心で言えば、あれで止めた私を褒めて欲しいくらいだ。

 一方的に口づけを押し付けられて、赤くなって困ってるリディは可愛かった。
 でも、あのような場ではなく、本来は2人きりで味わいたかった。リディには、改めてやり直しをさせてもらいたい………… 

 リディは「許さない」と言いかけてたが、彼女の声でそんな事を言われたら、私は立ち直ることはできないだろう。

 いつも先回りするクルリが止めてくれたが。
 もう、私の心はリディしかいない。この気持ちを受け入れてくれるだろうか?

 私は兄のように無理やりリディを妻にさせたいわけではない。リディが私との将来を願って欲しい。

 私の事を心配して泣きつくなど……、期待しても良いのだろうか?
 リディは私の事をどう思っているのか聞きたいが……今日ではない。


 リディのこれまでの立場であれば、私に婚約者がいたことを知らないはずはないのだが……、あのような場で、私から知らせる事になるとは予想もしていなかった。

 確かに。今もレイナ嬢が生きていたら、私の婚約者であったであろう。
 リディへの好意も芽生えることもなく、平穏に生活していたに違いない。

 私のことを「他の女性を妻に向かえる約束をしていた男」だと、リディに思われるのが嫌だった。
 レイナ嬢は、周囲が私にあてがった婚約者。レイナ嬢が問題なのではなく、これまでの私の人生で、私の心を動かし、愛してるのはリディだけだ。

 婚約者であったレイナ嬢を意図的に事故に遭わせたカモメイル公爵…………。
 カモメイル公爵は、何としても娘を王族に嫁がせたかったのか……。
 兄の気を引き、私の婚約者を排除してまで。
 両方に罠をかけて、上手く行った方を捕まえるつもりだったのか?

 国の重鎮たちは、北方に王族の力が偏ることを懸念し、私の婚約者候補には、カモメイル公爵令嬢は全く入っていなかった。私の弟に嫁がせるのも難しかったから、焦っていたのだろうが……。

 私にはそれ以上仕掛けてこなかったのは、兄との関係が深くなり過ぎたからか?

 今では、カモメイル公爵令嬢は兄の婚約者として、順調に結婚式の準備をしているはずだ。

 悔しいが、下遣いのあの男の証言だけでは、カモメイル公爵の立場を覆すことはできないだろう。

 釈然としない思考の中「終わったから帰ろう」と、振り向いて可愛く告げるリディ。
 心の中で「ああ、一緒に王城に帰ろう」と言い換えて、リディへ頷く。


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