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本章3 魔王の力

王城の混乱

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 カールディン第2王子がシェルブール伯爵邸から王城へ向け出発した。その頃、王城では国の重要人物たちが大騒ぎしていた。
 
 カモメイル公爵の直轄地に魔物が3頭も出現していたことは、公爵から政の中心へ直ちに報告が上がっていた。

 魔物がただ出ただけであれば、ここまで急いで報告されなかったかもしれない。だが、今回は騎士団の駐屯地がある場所での出来事にも拘らず、その騎士団では魔物達を抑え込むことが出来ず、被害が出ていた。
 幸いに人的被害はなかったが、魔物達の襲撃により、馬1頭を失ったのと、建物の倒壊被害について報告を受理している。

 偶然居合わせた男達が、見事な早業で魔物3頭を仕留めたと言うが、その後の彼らの行方も正体もわからない。
 そして、近くに珍しい髪色をした綺麗な女性がいたという事しか、報告にはなかった。

 王都から離れた土地に暮らす騎士や平民達には、王族や王子の元婚約者の顔を見知る者など殆ど居ない。その人物が、高貴な立場なのかどうかは、その人物の身なりだけで判断している事が殆どであった。

※※※※

 大臣達が次々と国王に詰め寄る。
「陛下、魔物が町に来るなんておかしいですよ! 何か起こっているかもしれません」
「陛下、魔物を仕留めた男達を探しましょう」
「陛下、魔物が出たのは私の直轄地です。王都の騎士団を派遣してください!」
「陛下……!  陛下……! 陛下……!」

「落ち着け大臣達よ! 何かが起きているかもしれないが、魔物が生息する森を調べても、ただ死にに行くようなものだ。何か起きれば対処する、これしか今はできん。それに今後、どこに出没するかもわからない魔物対策に、王都の警備を薄くしてまで、王都の騎士達を派遣することはしない。以上儂が言えるのはここまでだ」
 国王でさえ、この国で今、何が起きているのか分からず、詰め寄ってくる大臣達をあしらうことしかできない。

 王都では、魔物の襲撃を耳にした有力貴族達が我先にと武器を買い集め始めていた。
 武器屋の店主達も、始めは店の物が飛ぶ様に売れる事に喜んでいたが、その異様さから徐々に恐怖心に変わる。事態を案じた店主達が、売り渋りに転じた事で、貴族達と店主達の諍いに発展していた。
 その様子は瞬く間に王都全域に広がり、よからぬ事が起きている。と、事情を知らない平民達にも不安が広がっていった。
 
 
****
(SIDEジュリアス第2王子)

 私は、王都へ向け馬を走らせている。
 早く走らせれば1日半で王城に着く事が出来る。本来なら、一刻も早く戻るべき所。だが、シェルブール領を抜けるまでは、レイルが合流してくる期待もあると、自分に言い訳を続けている。
 ただ、リディから離れる未練を捨て切れず、貴女が居るこの地では、進度を早める事が、私には出来ないだけなのに。

 今回の帰城で、リディを連れて帰る気でいた私は……、私の腕に彼女から伝わる温もりがないことを嘆き続けている。
 最後まで声を聴くことも叶わず、完全に避けられている事だけは分かった……。
 益々避けられるかもしれないが、私は彼女を諦める訳にはいかない。

 私が求めるのは、リディしかいない。愛しくて大切にしたいのに、どうしてこうなってしまったのか……?  悪いのは完全に私だ。兄との事で傷付いていた彼女が、私の申し出に戸惑わない筈はなかったのに。
 あの場で、自分がしでかした事を激しく責め続けていた。

 それに、この道中で私の迷いに決断を下さなくてはならない。
 シェルブール領で知り得た事実や目の当たりにした事を、どのように報告するか……?

※※※※

 陛下へ報告する内容を私なりに吟味したが、彼女の力の事は伏せておく事に決めた。

 魔王の石像を管理するシェルブール伯爵からの報告として、魔王の封印が解かれ、魔王が復活したこと。それによって魔物の動きに変化が起きていることのみに留め、これ以外の情報は伏せることにした。

 馬を走らせ2日目。
 王都に入ると、それまでの雰囲気とは一変していた。国民達の様子がまるで違う。

 誰も彼もが忙しく、物を買い集めている。
 なるほど……。カモメイル公爵の直轄地で起きたことが、王城に届いたということだな。どうせ、貴族達が自分の為に動き始めたのであろう。 
 
 平民たちは、混乱の理由もわからず騒動に便乗し、とりあえず買い占めを始めたというところか……。

  異様な王都の雰囲気を通り抜け、私は王城に到着した。移動の疲れなど言っている猶予などない。私の執務室に着くなり急いで仕事に取り掛かる。
「クルリ! 国王陛下への謁見の時間を直ぐに手配してくれ。私は、この書類の山を片づけるから頼むぞ」

 一刻の時間も惜しい。

 溜まった仕事を片づけるのは当然だが、これからの仕事もさっさと片づけてしまいたい。
 少しでも時間を作り、次こそ必ずリディを私の元へ迎えなくては。
 
 溜まっている書類に目を通していると、カモメイル公爵直轄地にて発生した魔物達による被害報告があった。

 建物の被害はあったが、瓦礫の下敷きになった人々でさえ、奇跡的に1人の怪我人もいなかったと書かれている。
 あの時……、あの周辺一帯をリディが癒しの力で覆ったおかげで、助けられた人々がいたのか。

 偶然居合わせた男達が魔物を撃退し……珍しい髪色をした女性が近くにいた……。

 報告内容を読み、カモメイル公爵家で仕事をしている者の無能さに感謝する。

 リディの髪色は、この国で類を見ない。……女性の特徴をもう少し詳しく書かれていたら、リディに結び付く可能性もあったが、この程度あれば、欺くことが出来るだろう。


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