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本章3 魔王の力

カールディン第1王子がリディへ向ける侮辱

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 レイルがシェルブール邸を訪ねて来てから、私の我がままで負担をかけてばかりだった。結局、最後まで任せきりにしたまま宿に着いてしまった。
 今日1日を振り返っても、私って、魔法が使えても何の役にも立たないのかもしれない。

「リディアンヌ嬢を、このような宿に泊めてしまって申し訳ありません。騎士の遠征で泊まる宿しか、把握しておりませんので……」
「気にしなくていいわよ。ベッドがあるだけで十分だもの。今日は疲れたから、よく眠れるはずよ。むしろ、今日はありがとう」
 宿の部屋の前、レイルに改めてお礼を伝えて、それぞれの部屋へと別れる。
 
 シェルブール領でも、国全体を覆う魔王の魔力は感じていた。
 魔王が存在するだけで広範囲に渡って、ある程度の魔力が広がっているのを実感していたし、その魔力をジュリアスが使って魔法の発動が出来ていた。

 でも、今のこの場所からは、魔王の魔力を直接的に肌で感じている。
 魔王や魔物が居る場所を探知出来るのは、限られた範囲だと確証した。

 あの建物から動く様子のない魔王を感じられて、逆に安心して眠ることが出来る。本当に今回は見逃してくれたと言う事よね。

 あんなに聖女様を大切にしていて……ふふっ、魔王って可愛いところがあるのね。
 聖女様に恋しているのは驚きだったけど……。いつから好きだったのかしら? もしかして、2人で石像になった時には既にあんなに深い愛情を持っていたの? 封印が解かれた聖女様が、どんな選択をするかはわからないけど、魔王の恋が成就して欲しいな。

 うーん? 魔王の言っていた『魔王の瞳』って、それ自体が魔王と似た魔力があるということ?

 魔王自身の魔力が邪魔をして、自分では見つけられないということなら……。

 私にしか出来ないわよね……。

 うん、決めた! 明日から探しに行こう。

 魔王を身近に感じながら、ゆっくり眠りについていた。


****

 モンテール領の宿で、良く眠れたお陰で、体調は良好だ!
 
 扉を開けて廊下も見渡すけど、レイルの姿は見当たらない。
 男性の部屋を訪ねて起こしに行くのは……うん、流石に駄目だ。レイルに怒られるだけね、止めておこう。
 レイルが起きて来るまで散歩へ出かけるため、部屋から出て階段を降り階下へ着いた時。

 ドン――――!
 誰かがぶつかり、姿勢を崩す。

「おっと、すまない! 考え事をしていた」

 ――――――!?
 カールディン王子がどうして此処に? 俯いた姿勢のおかげで、顔は見えていないけど声だけで分かってしまう。
 カールディン王子には、気付かれないままこの場を立ち去りたい。

「気になさらず、私こそ、周囲をよく見ておりませんでした」
 
「んっ! お前はリディか。何故お前がここに居る?」
 こちらも同じことを思っています。だけど、面倒ごとには関わりたくない。王城で叩き込まれた礼をとり、当たり障りの無い説明をする。

「はい……知見を広げるために、領地の外を見ておりました」

「ふん! どうせ私に捨てられたから、次の男でも探しているのだろう」

「…………そのような事では」

「私との婚約破棄の同意書が、まだ私の元には届いていないが? どういうことだ! お前が王族に対し、一切の要求も請求もしないという内容に、ごねているのではないだろうな? お前のような無能な人間に与えてやるものは一切ない!」

「いえ……既に署名は済ませてお返ししています」
 まだ、ジュリアスが届けたものを見ていないのか……。

「忌まわしい女だ! 無能のくせに、見た目だけ聖女様に似やがって! 城でお前の姿を見なくなって清々していたのに、こんなところに居やがって! 聖女様を冒涜する、その姿を2度と私に見せるな。消えろ!」

 一方的に侮辱され、酷過ぎる言葉の攻撃に全身が痺れる。
 ここまで言われる程憎まれていたのか……。
 眩暈を起こしそうな感覚に耐えながら、散歩する気分は消え失せてしまい、静かに部屋へ戻る事にした。

 本当は私の方こそ言ってやりたい。
 あなたの顔なんて見たくないし、あなたに私の顔を見せる気持ちなんて少しも持ち合わせてないんだから。
 だけど、身体が固まって一言も言い返せなかった。そんな自分が一番情け無い。


 うぅーん。あぁ――――悔しい!
 ……むしゃくしゃした気持ちが治まらない。
 何かに当たり散らしてやりたい。どうしたら良いのよ!
 
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