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本章3 魔王の力

魔王との遭遇②

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 それまで愛おしそうに聖女様を撫でていた魔王がゆっくりと立ち上がる。この次に発する言葉を固唾を呑んで見守る。
 ミレー様の名前を知って私達へ向ける怒りの感情は緩んだけど、それは魔王が聖女様へ愛情を向けていたから。この後の魔王の反応が分からない。
 私は油断せずに石化魔法の術式に意識を向ける。

「ミレーの子孫……感謝する。やっと名前が分かった。……ミレーを石化から解除したら、目覚めた時に、名前を呼んでやれる」
 あんなに怒っていた魔王に感謝された!? 張り詰めた糸が緩みかける。

「そうですか。でも……私が言うのは、お門違いかと思いますが…………聖女様の石化魔法を解除しては、直ぐに……」
 魔王の気迫に押されて、最後の言葉が言えなかった。

「お前がそれを言うのか? お前は、ミレーの魔法を解除しようとしてたんだろうが」

「むやみに解除できないことは、正しく理解しております。聖女様を救う方法がないか、探しにここまで来ました。ですが……近くで拝見しても、私にはその方法が分かりませんでした。こちらに無断で立ち入った事については謝罪いたします」

「ふん、よく言ったものだ。卑怯な人間どもの言うことは信用しない。俺に石化魔法をかけようとしていることに、気づかないと思っているのか?」
 
 ―――――完全に失敗した……
 ――――――もはや、全ての対抗策がない事に絶句する。
 石化魔法で封印しようとしていた事を悟られていたのでは万事休すだわ。
 せめて、何の関わりも無いレイルだけでも見逃して欲しい。


 石化魔法の術式を解除する。

「……わかりました。ですが、ここに来たいと言ったのも、聖女様に触れたのも私だけです。そちらの男は、関係ありませんので、殺すのは私だけにしてください」

「リディアンヌ嬢! 私の事を気にする必要はありません!」
 
 私の我がままで、レイルを巻き込んでしまって……取り返しのつかない間違いを犯してしまったわ。やっぱり1人で来るべきだった。
 あなたのような立派な騎士を失ってしまう、ジュリアスにも申し訳がない…………。
 この世界から持って行くあなたとの最後の思い出は、意地を張った酷い態度なんて。あなたはもう私の事なんて気にしていないかもしれないけど、あなたが悪いわけではないと伝えておけば良かった…………。

 ポロポロと涙が目から溢れる出す。

 ん? 魔王の気迫が緩んだ。

「…………その顔で泣くな……。ミレーに解除魔法をかけて目覚めた時に、俺がミレーの兄の子孫を殺したと知ったら、また、ミレーを泣かせるかもしれないからな…………。お前達がここに来たことは、今日だけは許してやる。だが、次は見逃さないから2度と此処へ来ることは許さない!」

「魔王…………」

「それと一つ聞く。お前たちが、もし、持っているのなら今すぐ俺に返せ! まあ、持っていたら、此処から生きて帰ることはないだろうがな」

「返す? ……何をですか? おそらく私たちは、それを持っていないでしょうし、何の事かも分からないのですが……」

「白々しい話だな。俺の瞳のような石のことだ。もし、ミレーを助けたいと言うのが本当なら、見つけたらここへ持って来い。毎日探しているが、俺が探しても、自分の魔力のせいで……場所が分からない」

「今まで見聞きした事が無いのは本当の事です。ですが…………『魔王の瞳』。もし見つける事が出来たら、必ず持ってきます」

「お前たちの事は覚えたからな。…………もし、横取りでもしてみろ! ……即刻殺す! 分かったら、気が変わらないうちに、早く失せろ!」


 魔王の言葉に促され、レイルと建物を後にする。

 夕闇の中、馬を走らせるのは危険と判断して、モンテール領の宿に宿泊することになる。

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