56 / 85
本章3 魔王の力
魔王との遭遇①
しおりを挟む
自分で馬を駆れたらやっぱり良かった。今の私では、自分のしたい事も誰かに頼らなければ、1人ですることも出来ない。歯痒い気持ちでレイルの背中にしがみつく。
「レイル。ありがとう……」
「どうしたんですか? リディアンヌ嬢らしくない。殿下の代わりはできませんが、私の役目は果たしますから、元気を出してください」
「っもう、ジュリアスの事はいいのよ! この後、もし危険な事になったら、レイルは気にしないで逃げてね。私の事は自分で何とかするから……」
この国の未来のためにも、聖女様の事をこのままにできない。それなのに、どうしたらよいのかもわからない。実際の聖女様を見たら、何かわかればいいんだけど。
そして、魔王に遭遇した時の事を想定して着くまでの間に、心の準備を終えなくてはいけない。
****
その建物に着く頃には、辺りは夕暮れに染まっていた。
魔力の気配としては、近くに魔王はいない。
直ぐに戻って来られる範囲に魔王がいないことに、一先ず安堵する。
無断で建物に入った経験はない上に、これから何か起きるかもしれない緊張で扉の前で一息吐かないと、勇気が出ない。
ゆっくりと開けた扉から中を覗う……石造りの建物は窓が少なくて、この時間でも既に中は薄暗い。
建物から差し込む夕日を頼りにして、その場所へ進む。
あっ!! レイルの説明の通りに石像が本当にある。
床に座り込むように置かれている石像が目に入る。
…………聖女様。色彩が分からなくても、目を閉じていても、幼い頃に1度だけ見たことのある特徴がそこにはあった。
「……聖女様」
聖女様の頬に触れる。
石像に触れてもやはり、解決策が全く分からない。
危険を承知でここまで来たのに……
この後、どうすべきか? 方向性の検討がつかない……
――――――!!
やばい!!
「レイル! 離れるわよ!」
声を出した時には既に遅かった。
古い扉を勢いよく開け放たれる!
咄嗟にレイルが私の前に立ち、魔王の視線から私を遮る。
「――――お前は、何をしている? 俺のものに勝手に触るなぁ――――!!」
この場の空気が揺らぐほどの威圧に足が震える。
この空気の中で、毅然と魔王に立ち向かっているレイルの姿に称賛したい程だけど、そんな悠長な事を考える暇も無く、魔王の怒りは最高潮に達している。
「今すぐお前を殺す! そこから離れろ!! お前の血で、俺の愛しいものが汚れることになったら、お前の家族も、友も、仲間も全て殺してやる! 俺に殺されるために、お前が俺の近くに来い! 大人しく殺されたら、お前1人で死ぬだけだ感謝しろ!!」
――――!
取り付く島もない、魔王の要求に、平和的な話し合いなんか出来ない事を察する。
愛しい人……。
聖女様のことを言っているのでしょうけど、こんな様子の魔王には何を聞いても無理そうね……。
聖女様に触れた私の事を、このまま見逃してくれる可能性はなさそうだ。
せめて、レイルだけでもこの場から無事に帰って貰わなきゃね。
覚悟を決める。
「ごめんなさい。魔王の大切なものに触れたのは私だけです。彼は全く触れておりませんから、殺すのは私1人でお願いします」
魔王のからは、レイルの背中に隠されて見えていなかった私は、斜め前に出てから、静かにそのまま魔王に近づく。
魔王から伝わる魔力が大きすぎて、人間では太刀打ちできない。考える余地もなく、その答えにたどり着く。
「リディアンヌ嬢!」
私の事を止めようとするレイルへ視線を向け、何も言わず頷く。レイルは、もうそれ以上何かを言う事はない。
――――
でも、先に殺される訳にはいかない。
魔王の封印と自分人生の終わりを覚悟しながら、石化魔法の術式を組み、直ぐに発動できる準備をする。
夕日は既に完全に落ちて、この建物の中は暗闇に包まれている。暗闇にも目が慣れ始め、魔王がはっきり見えなくても場所は分かる。
いえ、視覚では無くても、魔王の魔力から立っている場所も激昂している感情も伝わる。
「ほう、俺を魔王だと分かって、自分だけを殺せと命令するなど……不愉快だ! お前の後は、そこの男を始末してやる。お前は、奴の死に顔を見られなくて残念だったな! そこの男には、お前が苦しむ顔がよく見えるように殺してやる!」
魔王が言い終え、石の天井が明るくなる。
――――魔王が発光魔法を使う。これで、視覚でも魔王を的確に捉える事が出来る。
魔王まであと少し……早すぎても…………遅すぎてもいけない。慎重にタイミングを見極める。
「…………おっお前、何者だ? 止まれ!」
――――!?
私の考えが読まれているの? 私の腕を伸ばしても指先さえ魔王には届かない場所で、歩みを止めるしかない。
レイル……ごめんなさい。
ここで魔王を封印できなければ、あなたも殺されてしまう。
魔王は私を上から下まで舐めるように見ている。
「その姿…………。お前は……。いや違うな。あの子に似てはいるが、纏う空気がまるで違う。…………少し、顔を見せろ」
「…………」
「あの子にそっくりだな」
「…………」
張り詰める緊張感の中、聞きたいことを確かめる。
反撃できるよう意識を研ぎ澄ませながら、静かに言葉を発する。
「あの子と言うのは、そちらで眠っている、聖女様と私が似ているという事でしょうか?」
「お前は、聖女の事も知ってんのか? あれから人間の世界は変わり果てている。お前ら人間の時間なら、相当な時間が経ったんだろう? お前は、あの子に関係あるのか?」
「2人が石になって、500年の時が経っておりますが……私は、聖女様のお兄様の子孫です」
「そうか……。どうりで、そこまで似てるもんだ。……お前は、聖女の名前を知っているか?」
「名前ですか……? もちろん存じておりますが……」
「言え!!」
「あ、はい、ミレー様です」
何故そのような質問をされて、答えて良いのかもわからないけど、答えるしか選択肢はなかった。
「ミレー…………」
私から名前を聞き出した、魔王は私の横を通り過ぎ、聖女様の石像に近づく。
聖女様の近くにいた、レイルは魔王から離れるよう後ずさる。
魔王は、名前を呟きながらミレー様の髪を撫でている。
あぁ…………
魔王、あなたは聖女様の事が本当に好きなのね。
私とレイルがいるにも関わらず、聖女様の前で膝を付いて、時が経つのも忘れて石像に触れている。
外から馬の嘶く声が聞こえ、魔王の動きが、ピタリと止まる。
「レイル。ありがとう……」
「どうしたんですか? リディアンヌ嬢らしくない。殿下の代わりはできませんが、私の役目は果たしますから、元気を出してください」
「っもう、ジュリアスの事はいいのよ! この後、もし危険な事になったら、レイルは気にしないで逃げてね。私の事は自分で何とかするから……」
この国の未来のためにも、聖女様の事をこのままにできない。それなのに、どうしたらよいのかもわからない。実際の聖女様を見たら、何かわかればいいんだけど。
そして、魔王に遭遇した時の事を想定して着くまでの間に、心の準備を終えなくてはいけない。
****
その建物に着く頃には、辺りは夕暮れに染まっていた。
魔力の気配としては、近くに魔王はいない。
直ぐに戻って来られる範囲に魔王がいないことに、一先ず安堵する。
無断で建物に入った経験はない上に、これから何か起きるかもしれない緊張で扉の前で一息吐かないと、勇気が出ない。
ゆっくりと開けた扉から中を覗う……石造りの建物は窓が少なくて、この時間でも既に中は薄暗い。
建物から差し込む夕日を頼りにして、その場所へ進む。
あっ!! レイルの説明の通りに石像が本当にある。
床に座り込むように置かれている石像が目に入る。
…………聖女様。色彩が分からなくても、目を閉じていても、幼い頃に1度だけ見たことのある特徴がそこにはあった。
「……聖女様」
聖女様の頬に触れる。
石像に触れてもやはり、解決策が全く分からない。
危険を承知でここまで来たのに……
この後、どうすべきか? 方向性の検討がつかない……
――――――!!
やばい!!
「レイル! 離れるわよ!」
声を出した時には既に遅かった。
古い扉を勢いよく開け放たれる!
咄嗟にレイルが私の前に立ち、魔王の視線から私を遮る。
「――――お前は、何をしている? 俺のものに勝手に触るなぁ――――!!」
この場の空気が揺らぐほどの威圧に足が震える。
この空気の中で、毅然と魔王に立ち向かっているレイルの姿に称賛したい程だけど、そんな悠長な事を考える暇も無く、魔王の怒りは最高潮に達している。
「今すぐお前を殺す! そこから離れろ!! お前の血で、俺の愛しいものが汚れることになったら、お前の家族も、友も、仲間も全て殺してやる! 俺に殺されるために、お前が俺の近くに来い! 大人しく殺されたら、お前1人で死ぬだけだ感謝しろ!!」
――――!
取り付く島もない、魔王の要求に、平和的な話し合いなんか出来ない事を察する。
愛しい人……。
聖女様のことを言っているのでしょうけど、こんな様子の魔王には何を聞いても無理そうね……。
聖女様に触れた私の事を、このまま見逃してくれる可能性はなさそうだ。
せめて、レイルだけでもこの場から無事に帰って貰わなきゃね。
覚悟を決める。
「ごめんなさい。魔王の大切なものに触れたのは私だけです。彼は全く触れておりませんから、殺すのは私1人でお願いします」
魔王のからは、レイルの背中に隠されて見えていなかった私は、斜め前に出てから、静かにそのまま魔王に近づく。
魔王から伝わる魔力が大きすぎて、人間では太刀打ちできない。考える余地もなく、その答えにたどり着く。
「リディアンヌ嬢!」
私の事を止めようとするレイルへ視線を向け、何も言わず頷く。レイルは、もうそれ以上何かを言う事はない。
――――
でも、先に殺される訳にはいかない。
魔王の封印と自分人生の終わりを覚悟しながら、石化魔法の術式を組み、直ぐに発動できる準備をする。
夕日は既に完全に落ちて、この建物の中は暗闇に包まれている。暗闇にも目が慣れ始め、魔王がはっきり見えなくても場所は分かる。
いえ、視覚では無くても、魔王の魔力から立っている場所も激昂している感情も伝わる。
「ほう、俺を魔王だと分かって、自分だけを殺せと命令するなど……不愉快だ! お前の後は、そこの男を始末してやる。お前は、奴の死に顔を見られなくて残念だったな! そこの男には、お前が苦しむ顔がよく見えるように殺してやる!」
魔王が言い終え、石の天井が明るくなる。
――――魔王が発光魔法を使う。これで、視覚でも魔王を的確に捉える事が出来る。
魔王まであと少し……早すぎても…………遅すぎてもいけない。慎重にタイミングを見極める。
「…………おっお前、何者だ? 止まれ!」
――――!?
私の考えが読まれているの? 私の腕を伸ばしても指先さえ魔王には届かない場所で、歩みを止めるしかない。
レイル……ごめんなさい。
ここで魔王を封印できなければ、あなたも殺されてしまう。
魔王は私を上から下まで舐めるように見ている。
「その姿…………。お前は……。いや違うな。あの子に似てはいるが、纏う空気がまるで違う。…………少し、顔を見せろ」
「…………」
「あの子にそっくりだな」
「…………」
張り詰める緊張感の中、聞きたいことを確かめる。
反撃できるよう意識を研ぎ澄ませながら、静かに言葉を発する。
「あの子と言うのは、そちらで眠っている、聖女様と私が似ているという事でしょうか?」
「お前は、聖女の事も知ってんのか? あれから人間の世界は変わり果てている。お前ら人間の時間なら、相当な時間が経ったんだろう? お前は、あの子に関係あるのか?」
「2人が石になって、500年の時が経っておりますが……私は、聖女様のお兄様の子孫です」
「そうか……。どうりで、そこまで似てるもんだ。……お前は、聖女の名前を知っているか?」
「名前ですか……? もちろん存じておりますが……」
「言え!!」
「あ、はい、ミレー様です」
何故そのような質問をされて、答えて良いのかもわからないけど、答えるしか選択肢はなかった。
「ミレー…………」
私から名前を聞き出した、魔王は私の横を通り過ぎ、聖女様の石像に近づく。
聖女様の近くにいた、レイルは魔王から離れるよう後ずさる。
魔王は、名前を呟きながらミレー様の髪を撫でている。
あぁ…………
魔王、あなたは聖女様の事が本当に好きなのね。
私とレイルがいるにも関わらず、聖女様の前で膝を付いて、時が経つのも忘れて石像に触れている。
外から馬の嘶く声が聞こえ、魔王の動きが、ピタリと止まる。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
127
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる