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本章3 魔王の力

聖女の石像

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 レイルは、ジュリアスが王都に戻った事を承知の上で、先触れも無く訪れ父との面会を希望していた。

 レイルは、この場に私が居る事を露骨に驚いている。

「リディアンヌ嬢は、てっきり殿下と王都に向かわれたかと思いましたが、何故まだ此処にいらっしゃるのですか?」

「何故? って、向かう必要なんて私にはないから、ここにいるけど」
 ジュリアスは一体いつから何を考えていたの?

「そうですか……。私から言える事ではありませんので、この話はこれで止めておきます。申し訳ないのですが、時間がないのでこちらを訪問した本題をお伝えします。伯爵、モンテール領の外れに、一軒だけある古い石造りの建物と言ったら、何か心当たりはありますか?」

「モンテール領ですか……。自分の領地ではありませんから、詳しくはないですが」
「……そうですか」

「では、聖女ミレー様の生家は、どの辺りにあったかお分かりですか?」

「……ええと、少々お待ちください。シェルブール姓と伯爵位を賜った時には、まだ領地を与えられてはおりませんでした。シェルブールの初代から3代目当主までは、それまで暮らしていた土地に暮らしていたはずです。今、我が家の歴史書を確認いたしますから……」

「…………」
 レイルからの唐突な確認に、父も驚いている。

「あっ、ありました。……昔の領地割ですから、今の地名とは異なります。今の地図に合わせると、この辺りでしょう」

 レイルが頷く。
「これで、確信しました」
「レイル? 何があったの?」

「本来であれば、殿下への報告が優先されますが、既に王都へ戻っております故お伝えしますが……」
「私たちに先に話しても、レイルの忠義は分かっているわ。全て教えて」

「……はい。モンテール領の外れに、今は使われていない、古い石造りの建物がありました。私は、休憩のために、そこへ入らせてもらったのですが……。俄かには信じられない状況ですが、そこに聖女様の石像がありました」

 ――――――!?
「本物なの?」

「色彩までは分からないから断言はできませんでしたが、間違いなく魔法によって石化した女性でした。ただ……、姿勢が伝え聞いていたものとは異なっていました」
「どんなふうに」

「地面に足を伸ばす姿勢で座っていました。背中の様子から、何かに支えられていたのではないかと思われるお姿。ですが、両手首から先はありませんでした」

「それだけで聖女様という言い切るのはどうして?」

「その建物の場所です! 今、伯爵から確認した初代当主の暮らしていた場所……、その位置にあったのが、その古い建物です」

 ――!
「状況からすると、聖女様と考えて間違いありませんな。私がこれまで、定期的に確認していた、聖女様の石像は、間違いなく立ち姿でした。姿勢が違うというのは、やはり……」

「……封印が解けた後、直ぐに魔王が石化させて再度封印したとしか考えられないわ」
「はい、リディアンヌ嬢。私もそのように想定しております」

「魔王は、ミレー様の生家を知っていて……?
500年後に石化の封印が解かれたら、人間の体では急激な老化で息絶えることも分かっていた……? 
再び石化することで、時間を止めた? 
あー駄目だわ! 肝心なことが分からない! 再度封印してまで魔王は何をしたいのか? 分からない」

「リディアンヌ嬢のおっしゃる通りで、私も同じところで理由が分かりません」

「レイルはよく無事にそこから帰って来れたわね? 魔王はいなかったの?」

「幸い魔王は不在でした。ですが、警戒心もなく、あの建物に入ってしまいました故、草を踏み荒らしてしまいました。……その後、私の事を追って来る可能性を否定できなかったので、しばらく皆さんの傍に来るのを控えておりました」

「レイルの忠誠心には感心するわ。魔王があなたを追って来なくて良かった。レイル、私にその詳しい場所を教えて。そこへ行ってみるわ!」

「リディ!」
「リディアンヌ嬢!」

「いくらお前が魔法が使えても、危険すぎる……」
「リディアンヌ嬢! 私のもたらした情報で、あなたを危険な目に合わせたと殿下が知ったら? 私はこの先どうなるかお考え下さい! そんな事は容認できる訳ありません」

 レイルがそんなに心配しなくても、私へ抱いた一時の気持ちなんて、ジュリアスは直ぐに忘れるわよ。それに、2人から反対されても、聖女様の存在がなければ、この先の未来はないかもしれない……。絶対に譲れない。

「2人が教えてくれないなら、私が勝手に行きますからお構いなく」

 直ぐに向かう準備をするため、椅子から立ち上がる。

「リディアンヌ嬢! お待ちください。あなた1人で危険な場所へ行くと知っておきながら、そのまま送り出したと殿下に思われては、この国の騎士と2度と名乗れなくなります。どちらの選択も明るくはないですが……。これは出来ればしたくはありませんが、同行してその場所までご案内いたします」

「レイル……。魔王に遭遇するかもしれないわよ! 無理しなくて良いわよ」
「それは、リディアンヌ嬢も同じこと。あなたの行動が、私に迷惑をかけると思うのであれば、お辞めください」

「レイルには申し訳ないけど、私の思いは変わらない。時間がもったいないから、直ぐに行きましょう」

「リディ……。お前はいつも、無鉄砲だな。2人だけでは心許ないから、領地の騎士も同行させるか?」
「魔王相手じゃ、何人居たって同じよ! これはまだ、他の人には知られたくないから、むしろレイルだけの方が良いわ」

  せめて暗くなる前に着きたいから、急いで邸を発つ事にする。


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